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渡部建氏が食の師と仰いだ人物を侮辱! 「芸能界のグルメ王」とは何だったのか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

渡部建氏の不貞

ここ最近、世間を騒がせている話題といえば、週刊文春がスクープしたお笑い芸人アンジャッシュの渡部建氏による不貞行為ではないでしょうか。

他のメディアが後追いし、数多くの記事がでているので、文春オンラインの記事だけを挙げておきます。

Yahoo!ニュースのトピックスにも、関連記事がいくつもピックアップされました。テレビのワイドショーでも取り上げられ、ネットでも大きな話題となっています。

芸能界きっての食通

渡部氏といえば、芸能界きっての食通として有名であり、芸能界のグルメ王と称されることも多いです。訪問した名店の数、グルメに関する見識、飲食関係者との人脈は、食を専門とする人々でも驚かされるほどであり、芸能界にあっては図抜けた存在であるといってよいでしょう。

私は夫婦や男女の関係、恋愛や法律についての専門家ではないので、この件の直接的な考察はできません。

しかし、渡部氏が食の世界で大きな貢献を果たしてきたことは、よくわかっています。また、それと同時に、この件によって食の世界で活動していくことは非常に難しいとも思うのです。

ブログの影響力

渡部氏の食の世界における歴史を振り返ってみましょう。

2007年5月に「わたべ歩き」という飲食店を中心とした食の紹介ブログをniftyココログで立ち上げ、2013年1月にAmebaにプラットフォームを移しました。ブログを始めた理由については、新しい店を開拓したり、友人に勧めたりするのが大好きであるからと記しています。

渡部氏のブログで紹介された飲食店は、予約が取りづらくなるといわれており、大きな影響力を持ちます。

最新記事は2020年6月8日の「YouTubeにテイクアウト お取り寄せ情報載せてます!!」。2019年12月に開設したYouTubeチャンネルの投稿へ誘導する内容になっており、動画のキャプチャ画像とURLのリンクしか掲載されていません。

「アンジャッシュ渡部チャンネル」を開始してから半年程度で、チャンネル登録者数が6.74万人、最大視聴数の動画は「吉野家の会長から絶賛された渡部流!吉野家を一番美味しく食べる方法【飯テロ】」の62.1万回。

渡部氏の知名度からすればもっと多くてもよいという気もしますが、影響力のある規模であることは確かでしょう。

ベストセラーの本や高額オンラインサロンまで

飲食店を紹介する本も上梓してきました。グルメ以外でも本を出していますが、当記事では関係がないので割愛します。

  • アンジャッシュ渡部の 大人のための 「いい店」 選び方の極意(SBクリエイティブ)2018/1/6
  • 渡部流 いい店の見つけ方教えます。(文藝春秋)2016/10/28
  • 芸能界のグルメ王が世界に薦める! 東京 最強の100皿(文藝春秋)2015/10/7
  • 芸能界のアテンド王が教える 最強の店77軒(文藝春秋)2014/9/26

<アンジャッシュ渡部の 大人のための 「いい店」 選び方の極意>(SBクリエイティブ)はAmazonの「その他のレストランガイドブック」カテゴリで1位となるなど、本の売れ行きも好調です。

2016年には月額会費が5000円のオンラインサロン「とっておきの店、こっそり教えます」を開設し、渡部氏を中心とした熱烈なグルメコミュニティができあがりました。1000円程度を会費とする芸能人も多いので、5000円という値段は高い方であるといえます。

高価格であるにもかかわらず、300人以上もの会員がいることを鑑みれば、渡部氏のカリスマ性がわかることでしょう。

現在は、オンラインサロンにアクセスできない状態になっており、運営元のDMMオンラインサロンから検索しても見つかりません。

テレビやラジオでは多くのレギュラー番組を持っていますが、特筆するべきは2017年4月からMCを務めるTBS「王様のブランチ」。食のトレンドなどを含む女性向けの情報を放送しており、まさに渡部氏に相応しい番組であったように思います。

食の業界への大きな貢献

渡部氏は食の業界に大きな貢献を果たしてきました。

高学歴で知的な雰囲気をまとい、博識であって話も上手く、爽やかで体型もすらりとしています。女性からは好かれ、男性からは憧れられる存在であるといってよいでしょう。これに食通という要素が加われば、飲食店の紹介にこれほど相応しい人物はいません。

渡部氏が紹介する飲食店は、本であってもブログであっても、注目度が高まりました。食を紹介する番組で渡部氏が出演していれば、深い知見や鋭いツッコミを披露し、それによってグルメが奥深いということを示してくれたと思います。

飲食店にとって非常にありがたい存在でした。渡部氏が食べに来たことがあるといえば、強力なPRにつながるからです。

食のアワードでMCを務めることも少なくありません。食の知識も食べ歩きの経験も豊富なので、司会を務めていても非常に安心です。知名度があって、食との親和性が高いだけに、メディアからの取材も多くなり、イベントの認知度が高まります。

渡部氏は食の世界において、グルメの奥深さを啓蒙するエバンジェリストであり、飲食店の認知を広める最強の宣伝マンであり、大きな集客力を誇る芸能人なのです。

「うどんが主食」氏との関係

芸能界のグルメ王として渡部氏を語る上で、避けて通れない人物がいます。

それは、食べログの超有名レビュアー「うどんが主食」氏です。

同氏は2017年6月に、週刊文春で過剰接待疑惑を取り上げられてから、表舞台を去ることになりました。本人は事実無根であると否定しています。

「うどんが主食」氏は2009年から食べログで投稿を始めた、カリスマレビュアーの先駆け的な存在です。2016年に渡部氏も出演するTBS「櫻井・有吉 THE夜会」で紹介されると、10月からはフジテレビ「うどんが主食presentsアナとウドン」が放送されるなど、グルメ番組の寵児となりました。

2017年5月には扶桑社から「うどんが主食 私が通うウマい店100+80」を上梓したり、6月には東洋水産からコラボレーションした「マルちゃん 縦型ビッグ うどんが主食 讃岐風うどん」を発売したりするなど、ナンバーワンのカリスマレビュアーであったといえるでしょう。

渡部氏は以前から「うどんが主食」氏に注目しており、二人は2013年後半から2014年くらいに初めて出会います。

以前までミシュランガイドで三つ星を獲得していた「鮨さいとう」や一つ星で超人気店の「日本橋蛎殻町 すぎた」など、極めて予約がとれない飲食店を「うどんが主食」氏に案内してもらい、渡部氏はさらに飲食店での人脈を広げていきました。

渡部氏はテレビで「うどんが主食」氏がいたからこそ、今のグルメ人生があると公言しています。つまり、「うどんが主食」氏は「芸能界のグルメ王」という地位を確立できた恩人であるはずなのです。

しかし、前述のように「うどんが主食」氏が週刊文春に取り上げられてから、渡部氏は「うどんが主食」氏に全く連絡をとらなくなり、同氏のことを一切口にすることもなくなりました。

YouTubeでの耳を疑う発言

それだけであれば、距離を置いたということで、まだ理解できます。

しかし、2020年3月5日にYouTubeへ投稿された動画には耳を疑いました。なぜならば、同氏のことを揶揄する発言を行っているからです。

該当の場面は上記動画の10分8秒あたり。「文春には過剰接待で載った人もいる」とあえて触れる必要のないところで、暗に「うどんが主食」氏のことを指しています。

「うどんが主食」氏を師のように仰いでメディアに紹介し、同氏が執筆した本の帯にも登場したのは渡部氏です。

それなのに、「うどんが主食」氏とは全く関係のない第三者のように振る舞い、嘲笑の対象とするのはいかがなものでしょうか。

紹介者のイメージが飲食店に投影される

渡部氏は活動を自粛しており、当面の間はメディアに登場しないものと思われます。ただ、もしも再び、テレビに出演したり、本を出したり、YouTubeやブログに投稿したりしたとしても、芸能界のグルメ王というポジションに返り咲くことは、非常に難しいのではないでしょうか。

なぜならば、高級店や一流店、記念日やデートに用いられるようなファインダイニングを紹介するには相応しくない人物となってしまったからです。

視聴者は、紹介者による食通の程度にだけ影響を受けているのではありません。紹介者の清潔感や品格、人柄や外見からも影響を受けています。紹介者のイメージがそのまま紹介される飲食店のイメージへと投影されるので、どのような人物が紹介するのかも重要となっているのです。

文春で報じられた行為によって、渡部氏の清潔感や品格、人柄のよさは粉々に吹き飛んでしまったのではないでしょうか。

そのような人物が紹介する飲食店には、大切な記念日やここぞという時のデートに訪れたいと思えません。飲食店にとっても行きつけの店やオススメの店として紹介されたくないでしょう。

再び食の素晴らしさを伝えてもらいたい

美食家は昔から存在していますが、波乱万丈の人生を送った人物も多いです。

1803年に「食味審査委員会」を組織して「食通年鑑」を刊行したアレクサンドル・バルタザール・グリモ・ドゥ・ラ・レニエールは、裁判所を攻撃するビラを作って裁かれたり、レストラン経営者の私生活までも攻撃して告訴されたりするなど、色々な騒ぎを起こしました。

漫画の「美味しんぼ」に登場する美食家の海原雄山のモデルとなった北大路魯山人は、希代の食通であることに加えて、画家や陶芸家といった多能な面もありましたが、非常に気難しいことで有名。6度の離婚を経験し、辛辣な批評で多くの敵を作りました。

渡部氏が彼らのような後世に名を残す美食家になるかどうかはわかりませんが、聞いた話から判断すると、食べることは本当に好きであるのだと思います。もしも本当に心から食べることを愛しているのであれば、芸能界のグルメ王という称号は忘れて、食べ歩きを始めた頃のあり方を思い出し、しかるべき禊を終えた後で、再び食の素晴らしさを多くの人に伝えていっていただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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