組織の最大問題は、「困っていること」と「問題」を混同していることである。
現状を把握する
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。企業の単年度の予算、3~5年など中期経営計画の達成を目的に現場で指導するのが仕事です。
予備校や資格試験学校の講師と似ています。目的は受講者の「合格」。受講者が試験日までに、その試験に合格できるよう最大の支援をすることが講師の仕事。私たちがコンサルティングする際も、同様の意識で向き合っています。
したがって、できる限り「目標達成」以外に必要のないことに時間を費やしてもらいたくない。特に昨今は「時短」がキーワードです。組織の重鎮が集まって何も解決しない会議を延々としていたり、あってもなくてもいいようなメールを組織内でぐるぐる回覧しているのを見ると、いい加減やめてもらいたいと思います。
組織の本当の問題
さてタイトルにもあるとおり、組織の最大問題は、問題を問題として正しく捉えていないことです。
管理者研修をすると、すぐにわかります。多くの管理者たちは、
・組織の問題を解決する方法を知らない
・組織の問題を解決する方法は知っているが、なかなかうまくはかどらない
……で悩んでいます。しかし、本人たちが認識している「問題」が、実は問題ではないことを意外に知りません。「目標を絶対達成させるうえで、あなたの組織が抱えている問題は何ですか?」と質問してみると、
「部下のモチベーションが上がらないことです」
「組織内のコミュニケーションが活発でないことです」
「営業スキルが足りないことです」
「情報共有が足りないことです」
……いろいろと出てきます。どれも本質をついた問題ではありません。単純に普段から「困っていること」「気になっていること」「目につくこと」を自分の視点で語っているだけです。
たとえば、資格試験で筆記の問題があったとき、「文章力を磨こう」と思い、文章講座に出掛けますか? 口述の試験を合格しなければならないとわかったら、話し方教室に通おうと思いますか?
部下のモチベーションを上げたいから、コーチングの技術を学びたいと考えるマネジャーが後を絶ちません。営業力を上げるために、コミュニケーション研修や、プレゼン研修を受講し始める人も多いでしょう。情報共有を促進するための情報システムの導入を検討する企業も増えています。
ちょっと気になったこと、困っていることを解決するために、もの凄く遠回りしている人がどれほどいるか。それを見極めることが重要です。
以前も、「製品に対するクレームがいっこうになくならない。どうすれば品質がアップするのか、ずっと社内勉強会をしている。相談に乗ってほしい」と言われ、その会社の会議に出席したことがあります。製品の工程プロセスを確認し、現場で調査を繰り返せば問題の箇所を特定できるのに、「現場の意識が足りない」「もっと自主的にカイゼン活動に取り組んでほしい」「どうすれば工員の意識を高められるか」「工員の採用プロセスにこそ問題があったのでは」……などと、どうでもいい議論を延々とやっているのです。それも半年以上もかけて、です。
みな、会社から給料という報酬をもらっている組織メンバーです。プロ意識をもって正しく問題を特定し、ピンポイントで解決しましょう。
解決策は3つしかない
大切なことは、組織の問題を正しく特定するプロセスにしっかり時間を費やすのです。会議を長々とやっていても、問題をとらえることなどありません。予備校に通っている生徒が、なかなか点数をあげられないのはどうしてか? どれだけ本人にヒアリングしても、心掛けを伝授しても解決などしません。苦手な科目をやらせ、その問題の解き方を実際に見てみるのです。
「問題の解き方の手順がおかしいよ」
「わかっているのに点数が上がらないのは、問題を解くスピードが単に遅いから。同じ問題を何度も繰り返して説いて、スピードを上げていこう」
企業でも同じ。現場に出て実際に目で見て確認し、はじめて問題が明らかになってくるものです。これまでの私どもの経験上、誰か特別な人の能力、特殊な仕組みが足りないことはほとんど関係なく、80%以上が以下3つの問題に集約します。
1)やるべきことを、やってない
2)やるべきことを、やるのが遅い
3)やるべきことを、やり続けていない
「実際にやってるのか」「スピーディにやってるのか」「決められたタイミングで常にやり続けているのか」は、ヒアリングでは明らかになりません。現場を知らない人が会議室で議論していても、見つからないのです。
問題は、組織メンバーの「困っていること」や「目につくこと」ではありません。問題を正しくとらえ、その解決策をキチンとやっているかに尽きるのです。複雑に考えすぎる人ほど、どうでもいい問題を大きく膨らませてしまいます。正しい手順で問題を特定し、シンプルに解決することが、特に今の時代は大切です。