朝ドラでヒロインの兄は波紋を起こす役どころなのか?
NHK朝ドラ『舞いあがれ!』で福原遥が演じるヒロイン・岩倉舞の父が急死し、経営していた工場がピンチだ。横山裕が演じる兄の悠人はファンドマネージャーとして成功していて、視聴者に「助けてくれないか」と思わせるが、工場の再建には手を貸さず売却を勧めている。
朝ドラのヒロインの兄といえば、前作『ちむどんどん』ではトラブルメーカーぶりが話題になり、これまでも波紋を起こしてきたイメージがある。実際どうだったか、2000年代以降の作品からピックアップして振り返る。
『ちゅらさん』では金儲けに失敗して家族がピンチに
沖縄が舞台の『ちゅらさん』(2001年)では、国仲涼子が演じたヒロイン・古波蔵恵里の異父兄、恵尚役をゴリ(ガレッジセール)が務めた。「ゴーヤーマン人形」を作って金儲けを目論んだがほとんど売れず、借金だけが残って一家が窮地に。恵尚は在庫の山を売り捌こうと全国各地を旅した。
ゴリは昨年、同じく沖縄から始まった『ちむどんどん』の最終回に、タクシー運転手役で出演。こちらのヒロイン一家の問題児だった長兄・比嘉賢秀(竜星涼)とも対面し、「初代ダメニーニーとして見守ってきました」とコメントした。
『まんてん』(2002年)では、宇宙飛行士を夢見る日高満天(宮地真緒)の兄・英雄役で、“演歌界の貴公子”と呼ばれていた氷川きよしがドラマ初出演。屋久島に30億円をかけてクアリゾートを造ると言い出すが、詐欺事件に巻き込まれた。
昭和の激動期が描かれた『おひさま』(2011年)で、教師になるヒロイン・須藤陽子(井上真央)には2人の兄がいた。長兄の春樹役は田中圭。成績優秀で医学部に入り、開業医を目指していたが海軍の軍医に。乗船していた潜水艦で戦死する。
次兄の茂樹役は永山絢斗。飛行機好きで、予科練から海軍に入隊して出征。戦後は兄の遺志を継いで医者を目指した。
『純と愛』のイケメン兄は女性関係がだらしなく
『梅ちゃん先生』(2012年)では、町医者になるヒロインの下村梅子(堀北真希)が、優秀な姉と兄にコンプレックスを抱えていた。その兄の竹夫を演じていたのが小出恵介。親を継ぐべく医学部に進んだが、レールの敷かれた人生に疑問を感じて退学。家を出て、のちに貿易会社を起業する。詐欺に遭って倒産危機に見舞われたり、苦難が続いた。
続く『純と愛』(2012年)では、夏菜がヒロインの狩野純役。その兄の正は速水もこみちが演じ、かなりのダメっぷりを見せた。ハンサムながら女グセが悪く、学生時代は純の同級生たちに手を出しては、トラブルの後始末は純に押し付けていた。
お見合い相手との結婚式の最中に、妊娠している恋人と逃げ出す。子どもが生まれるが、今度は元の婚約者と不倫して離婚を言い渡され、不倫のほうも破局。速水は「だらしなくて頼りない兄です」と話していた。
『赤毛のアン』などの翻訳者がモデルの『花子とアン』(2014年)で、ヒロイン・安東はな役は吉高由里子が務めた。彼女たち三姉妹の長兄で「兄やん」と呼ばれる吉太郎を演じたのは賀来賢人。
軍人に憧れて憲兵になり、終戦後は時代の急変に悩む。かわいがっていた花子の息子が病死した際には、葬儀で慟哭した。寡黙な役柄だったが、ナレーションを担当した美輪明宏に「台詞がないシーンでも目から想いが伝わる」と評されている。
『わろてんか』のナレ死、『なつぞら』では憎めないキャラ
吉本興業の創業者がモデルのヒロイン・藤岡てんを葵わかなが演じた『わろてんか』(2017年)では、千葉雄大が兄の新一役。朝ドラでは珍しいほどのやさしい兄で、てんの良き理解者だった。
小さい頃からぜんそく持ちで病弱。帝国大学薬学科に進学し、薬の開発に情熱を傾けていたが体調が悪化。てんに「笑いは人間の特権」との言葉を残し、早くも12話で亡くなっている。
この回の冒頭で遺影になっていて、他界の場面は描かれないまま、ナレーションで「新一は静かに息を引き取りました」と伝えられた。当時、ツイッターで“ナレ死”がトレンド入りした。
第100作の『なつぞら』(2019年)は、広瀬すずが戦災孤児からアニメーターになるヒロインの奥原なつ役。兄の咲太郎を岡田将生が演じた。終戦後、妹のなつと千遥(清原果耶)の預け先が決まってから、孤児院を出て、行方不明になっていた。
新宿の「ムーラン・ルージュ」や浅草のストリップ劇場で働き、劇団で看板女優の付き人、外国映画の吹き替え声優事務所の設立とショウビズ界隈を転々。途中、なつと再会するが、詐欺に遭って借金があることを隠していたり、盗品を質入れして濡れ衣ながら逮捕されたり、もめごとも起こした。だが、やんちゃながら陽気で、憎めないキャラクターだった。
『カムカムエヴリバディ』では姪たちに看取られて
記憶に新しいところでは、3代のヒロインが継いだ『カムカムエヴリバディ』(2021年)で、初代の上白石萌音が演じた橘安子に兄の算太がいた。2代目の深津絵里が演じたるいの伯父、3代目の川栄李奈が演じたひなたの大伯父に当たる。他の役のキャストは時代ごとに変わった中で、濱田岳が13歳から73歳まで1人で演じた。
家業の和菓子店「たちばな」で修業していたがさぼりがちで、ダンサーを目指して家を出たものの、莫大な借金を抱えて帰郷して勘当される。出征から復員後は安子の嫁ぎ先に居候して、「たちばな」再建のための貯金を持ち逃げして行方不明に。
21年を経て、ひなたの前に振付師のサンタ黒須として現れたが、彼女の母親がるいと知って、再び姿を消した。さらに10年が経って、重病を患った体でるいの家を訪れる。クリスマスに商店街で、幼い安子の幻にせがまれてダンスを披露し、そのまま倒れた。亡くなる間際にるいに渡した通帳には、持ち逃げした安子の貯金が手つかずで残っていた。
『ちむどんどん』のニーニーは“くず”と話題に
そして、物議を醸したのが『ちむどんどん』(2022年)で黒島結菜が演じたヒロイン・比嘉暢子ら三姉妹の兄、「ニーニー」こと賢秀だ。高校を中退して仕事にも就かず、詐欺に引っ掛かったうえに酔っぱらって店で暴れて、ものを壊した分の弁償まで家族に負わせた。
その後も儲けようとしては、失敗を重ねていく。借金を返さない。暢子の所持金を持ち逃げ。競馬で有り金をスる……。詐欺の相手に続けて騙されては、怪しげな健康飲料を母親に買わせたり、マルチ商法に手を出して暢子のレストラン開店資金200万円を支払わせたり。本人は本気で家族に報いようとしていたのだが。
朝ドラ史上まれに見るトラブルメーカーぶりで、SNSに「くず」「うざい」「イライラする」といった言葉を溢れさせた。その分、演じた竜星涼はインパクトを残し、今月18日スタートの『スタンドUPスタート』でドラマ初主演する。
『舞いあがれ!』の父の急死から兄の動きは?
放送中の『舞いあがれ!』では、ヒロイン・舞の兄の悠人を横山裕が演じている。子どもの頃から合理主義で両親とは折り合いが悪く、東大に合格して上京後は電話にも出なかった。
在学中から株で大金を稼ぎ、卒業後はファンドマネージャーとして名を上げる。前作と打って変わり優秀な兄だが、家族への温かみは見えず、実家に帰ると言い争いばかり。リーマンショックで経営が厳しくなった工場の売却を勧めて、父親と喧嘩別れしたまま、死別となった。
舞から瀬戸際に立つ工場への投資を懇願されても、「投資家の判断」として断っている。来週の予告編では、母親に「工場取り壊してマンションにせえへんか」と。何か思うところがあるようでもあるが……。
ジャニーズの関ジャニ∞のメンバーの横山は、自身に複雑な生い立ちがありつつ、バラエティでは明るくよくしゃべる。だが、俳優としては『ザ・クイズショウ』や『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』などの屈折を抱えた役で、強く引き付ける演技をしてきた。『舞いあがれ!』のクールな悠人もそっち系だが、いつかは彼なりのやさしさを見せてくれるのか、注目だ。
改めて振り返ると、確かに朝ドラでヒロインの兄は、物語に波風を立たせることが少なくない。同時に、今振り返ると名だたる俳優たちが演じてきたこともわかる。彼らの演技力が、兄たちをインパクトのある存在として引き立たせてきたのだろう。