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ノルウェー、手術なしで6歳から「法律上の性別」変更が可能に?法案を検討へ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
平等先進国ノルウェーが歴史的な法の改正へ Photo:Asaki Abumi

ノルウェーの保健・ケアサービス省は、法律上登録されている性に違和感を感じた場合、6才からの性別変更を可能とする案を提出した。法案が通過すれば、診断症状や医療ケアの有無を問わず、本人の体験だけをもとに、性別変更が可能となる。

6~15歳の子どもと若者は、法的な変更手続きには保護者の同意が必要とされ、16歳からは本人の判断のみで変更可能に。これにより、女性が男性へと書類上の性別を変更しても、男性として妊娠する身体能力を維持することが可能になる。

名前の変更は16歳から可能に

性別変更には名前の変更も必要とされてくることが多い。よって、名前の変更も現在の18歳から16歳に条件を下げることが提案されている。

歴史的な一歩

「ノルウェーはレズビアン、ホモセクシュアル、バイセクシュアル、トランスジェンダーにおいて先を歩んできた。しかし、ジェンダー変更における法的な法律は、60年以上も変更されておらず、これは受け入れがたいこと」と保健・ケアサービス大臣のベント・ホイエ氏(保守党)は、プレスリリースで述べる。

性別は本人が決めること

「この法の変更は歴史的なものとなる。性別の変更は本人が自分で決めることで、健康サービスの一環ではなくなる。誰もが、その人らしくいられる権利をもっている」。

低すぎる年齢設定?

最大手全国紙アフテンポステンは、「性別の変更はもっと簡単にできるべき」という考えには賛成しつつも、同省の提案による年齢設定は低すぎるのではないかと懸念を示す。「デンマークでは性別変更ができるのは18歳からで、6か月間という考え直す期間も導入されている。ノルウェーでもこのような形で、若者の存在を真剣に受け止めているという態度をみせるべきでは」と編集部が社説を掲載した。

これに対し、同大臣は同紙に寄稿をした。「16~18歳という時期は、多くの人にとって難しい時期。16歳ではまだ自分の性を理解できないだろうという考えは、若者を真剣に受け止めていないこと証拠」だと反論。6か月という考え直す期間については、「法的に性別を変更したいと考える人々は、もう十分なほどに時間をかけて考えてきた」と、悩む本人の希望を延長させることは、その思いを信用していないとする表れだとした。

悩んできた者が、より社会に溶け込みやすいきっかけに

大臣の背中を後押ししたのは、ノルウェーのLGBTを支援する青年団代Skeiv Ungdomだ。「この提案が実現されれば、これまで悩んできた人々に与えるポジティブな効果は計り知れない。我々が今まで支援し続けてきた人たちが、より社会に介入しやすくなる」と大臣の行動を公式HPで称賛した。

性に悩む子どもの保護者の負担を減らす

ノルウェー国営放送局の取材に対し、1組の両親が答えた。彼らの6才の子ども「ミリア」は、女子の身体を持ちながら、男子になりたがっている。スポーツクラブに登録する際には、法律上の性別を申告しなければいけないが、2つの性別に挟まれる子どもにとっては大きな壁となる。両親は、学校やスポーツクラブのミーティングで何度も説明をしなければいけなかった。「もし法案が可決されれば、このような手間が省け、色々なことが楽になります」と母親は語る。

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Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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