エルニーニョ終息 この夏猛暑は本当か?
最大級のエルニーニョが終わり、この夏はラニーニャが発生する見通し。この夏は本当に猛暑になるのだろうか?
史上最も長かったエルニーニョ
世界規模で、天候に影響を及ぼすエルニーニョ現象。過去3番目の規模となった今回のエルニーニョはこの春、終息しました。発生期間は2014夏から2016春の8シーズンで、記録が残る1949年以降で最も長くなりました。
昨夏の西日本の冷夏、昨冬の記録的な暖冬と日本の天候に大きな影響を及ぼしたことは記憶に新しいところです。
海洋の状態は現在、平常に戻り、赤道域を流れる貿易風が強まり始めています。少しずつですが、海洋と大気の歯車がこれまでとは逆に回り始めたようです。
気象庁の予測によると、今後は東部太平洋熱帯域の海面水温が基準値より低くなり、早ければこの夏にもラニーニャ現象が発生する見通しです。
猛暑説が独り歩き
すでに、ラニーニャ発生の可能性を受けて、この夏は猛暑になるとの話があるようですが、統計的にみると、ラニーニャと夏の気温には有意な傾向はみられません。ただ、夏の降水量は沖縄・奄美で多くなる傾向があります。
猛暑説が独り歩きしている背景には今年と同じように、春にエルニーニョが終わり、夏にラニーニャが発生した2010年が過去最も暑い夏だったことがあるのかもしれません。気象の世界では状況が似ている年を予想の参考にするという考え方があります。
これはなにも気象に限ったことではありませんが、ひとつ大きな問題があるのです。それは参考にする例(サンプル数)が少ないことです。2010年は過去最も暑い夏といいました。
では、「過去」とはいったいいつからでしょう。答えは1898年(明治31年)です。夏は一年に一回ですから、参考にできる夏は118回しかありません。
本当に猛暑になるのか?
毎日毎日、天気は休みなく動き、一日として同じ天気は現れません。今年に似ていそうだというだけで判断するには、118回の夏は少ないと思います。
もちろん、現在は数値予報といって、スーパーコンピュータを使った精密な予測が行われています。数値予報によるこの夏の予報は全国的に気温は平年より高くなる可能性があるものの、2010年ほど突出した暑さとはなっていません。
エルニーニョが終わり、続く季節にラニーニャが発生した年はほかにも、1998年、1988年があります。1998年は天候不順、1988年は冷夏でした。どれを類似年として取り上げるかによって、この夏のイメージが変わってしまう。これは正しいことでしょうか。
【参考資料】
気象庁:エルニーニョ監視速報(No.285) ,2016年6月10日発表
気象庁:2014-16 年のエルニーニョ現象について (参考資料),2016年6月10日
田中昌太郎,牛田信吾,萱場亙起,2012:第1章2010年夏の日本の天候と大気循環場の特徴,気象研究ノート第225号 2010年夏日本の猛暑,日本気象学会,1-16.
日本経済新聞:エルニーニョ、春に終息 今夏、猛暑の可能性,2016年6月11日朝刊