テレビカー・市電・新幹線・・・関西の「鉄道展示施設」が変わる!
この春、関西では鉄道をテーマとした展示施設に大きな動きが見られた。かたやファンに愛された車両が再び姿を現し、かたや多くの人を魅了した施設が閉館の時を迎える。今回は、そんな関西の「博物館」事情をお伝えしよう。
○京阪特急の「デジタル動態保存」
関西人には「テレビカー」でおなじみの京阪特急。現在活躍中の8000系は、編成中に組み込まれたダブルデッカー(2階建て)車両が特長だ。特急料金不要で乗車できるとあって、お子様をはじめ利用客に大人気、いつも満席となっている。登場から25年を迎えた同系はリニューアル工事が行われ、今後も京阪の看板車両として活躍することだろう。
その一方で、昨年引退した車両が今春ふたたび注目を集めることとなった。その車両とは、先代特急車両・旧3000系である。8000系の導入とともに大部分が引退したものの1編成のみが残り、8000系と同様にダブルデッカー車両を組み込んで活躍を続けてきた。だが老朽化に伴い、8000系のリニューアル工事が完了した2013年春に惜しまれつつ引退。ダブルデッカー車両が富山地方鉄道へと譲渡される一方、残った車両は次々と解体された。最後に残った先頭車は、登場時の姿に復元の上で保存されることになり、同年6月にトレーラーで陸送。2014年3月12日、樟葉駅前の商業施設「くずはモール」に設けられた資料展示スペース「SANZEN-HIROBA」のオープンとともに、再び姿を現したのだ。
展示されているのは、晩年は8531号車として活躍した3505号車で、車内外は可能な限り製造当初の姿に戻されている。車両番号や前面の幌、側面の「テレビカー」表記や車内の座席モケットなども復元され、とても懐かしい。運転台もオリジナルのツーハンドル式に戻されるとともに、その操作に合わせて前面・側面のスクリーン映像や走行音が変化し、まるで実際に走っているようなリアルな雰囲気がが楽しめる。「デジタル動態保存」と名付けられたこの展示手法は、鉄道ファンで知られる音楽プロデューサーの向谷実さんによるもの。「実際に寝屋川工場内を走行させて収録した」という各種走行音は、さすが向谷さんならでは、だ。また、京阪電鉄では1983年に電車が動く電気を直流600Vから直流1,500Vへ上げたのだが、このデジタル動態保存では走行時の挙動を直流600V時代に合わせていて「プロなら違いが判るはず」と細部まで徹底してこだわっている。5月頃からは運転体験・車掌体験もできるとのことで、今から楽しみだ。
「SANZEN-HIROBA」ではこの他にも、ホンモノの部品を使った8000系車両の運転シミュレーターや沿線風景を再現した大型ジオラマ、京阪電車の歴史をつづった年表コーナー、これまでに使用されたヘッドマークやレールなども展示されている。夜21時まで営業しているのもうれしい。ショッピングモール内の施設ということで、買い物のついでにフラッと立ち寄って雰囲気を楽しめるのは魅力だ。
○京都市電8両を公開展示
続いてご紹介するのは、京都市・梅小路公園。日本最大のSL展示施設・梅小路蒸気機関車館と隣接するこの公園に、2014年3月8日にオープンしたのが「市電ひろば」である。京都市電の廃止後、京都市交通局によって大切に保管されてきた車両4両を移設、2両はカフェ・物販施設として利用されることになった。残る2両も休憩スペースとして開放され、自由に車内へ入ることができる。
「市電ひろば」のもう一つのウリは、公園内の「すざくゆめ広場」との間を往復する路面電車だ。明治後期に製造された京都市電「N27号車」がそれで、1994年に登場時の姿へ復元、動態保存されていた。今回の梅小路公園再整備に合わせて同車も大掛かりな改造整備が実施され、なんとリチウムイオン電池によるバッテリー駆動という、最先端の技術を搭載して戻ってきたのだ。「公園内に架線を張ると景観が損なわれる」というのが理由だそうで、筆者としてはその景観も含めてこその動態保存なのではないかと思うのだが、何はともあれ再び動く姿が見られるのはありがたい限りである。もちろん実際に乗車することもでき、たった200mだけだが公園内をゴトゴト走るのは楽しいものだ。車庫を兼ねた施設内には、同じく明治時代に製造された「広軌29号車」も展示されている。(こちらは静態保存)
公園内にはこの他にも2両の京都市電が、総合案内所として設置されている。こちらは雨ざらしなのが少々不安だが、これまで車庫内で大切に保存されてきた車両が、気軽に見られるようになった意義は大きい。ぜひとも今後もしっかりとメンテナンスをして、10年・20年と末永くきれいな状態を維持してほしいものである。
○いよいよ閉館間近、交通科学博物館
さて、新たな展示施設がオープンする一方、この春でその役目を終えるところもある。ご存知の方も多いと思うが、大阪・弁天町にある「交通科学博物館」(交博)がそれだ。交通科学館として1962(昭和37)年にオープンし、当時は東京の交通博物館とともに日本で唯一(2館なので唯二か)の交通関係博物館であった。東京の交通博物館が老朽化などのために閉館となり、後継施設として大宮市に「鉄道博物館」ができたのと同様、交博も2016年に開館する「京都鉄道博物館」にその役割を譲ることとなり、展示品移設等のために一足早く今年4月6日で閉館となる。
交博では、0系新幹線の第1号車両や1880年にアメリカから北海道へ輸入された蒸気機関車「義経号」、時速517kmを記録したリニアモーターカー試験車両「ML-500」など貴重な車両を数多く展示。鉄道車両だけでなく、夜行高速バス「ドリーム号」の第1号車や昭和初期の自動車「ダットサン」、戦後の日本航空機技術の礎となった川崎航空機KAL-1形小型機など、バスや自動車、飛行機なども収蔵されており、鉄道ファンだけでなく広く交通ファンに人気があった。また当初の「交通科学館」という名前が示す通り、モーターやエンジン、ATS装置の仕組みが解説されていたり、ポイントの操作が実際に体験できるなど、鉄道に関する仕組みや技術が学べるようになっている。展示品は大部分が「京都鉄道博物館」へ移設されるとのことだが、こういった展示・解説もぜひ移設して欲しいところだ。
交博では、4月6日の閉館に向けて、数々のイベント企画を実施。普段は公開していない実物車両の車内に入れたり、これまで展示することのなかった資料や模型車両の「蔵出し公開」などが行われている。半世紀に渡って関西の鉄道ファンに愛された「交博」で楽しめるのもあとわずか、最後にもう一度訪れてみてはいかがだろうか。
・・・余談であるが、筆者が大好きなのが、交通科学博物館のホームページに連載?されている「交博こぼればなし」というコラム。交博スタッフの熱い思い?があふれているので、皆さんもぜひ一度ご覧あれ。