若者の政治参加は「選挙」だけなのか? 日常からの政治参加を考える
今年は18歳選挙権が認められてはじめての参議院選挙、都知事選が行われ、改めて若者の政治参加が議論される機会となった。また、8月15日には若者の政治団体「SEALDs」が解散したことも話題となった。
もちろん投票は民主主義を支える重要な権利の一つだから、候補者を吟味し、誰に投票するのかを考えることは大切だ。だが、本来「政治参加」とは、選挙期間だけに限られたものではないし、そうあるべきではない。過剰に18歳選挙や政治団体の動きが取りざたされることには、一抹の違和感を覚える。
実際に、みなさんは、「選挙で投票する」以外の日常的な政治参加や民主主義のあり方を具体的にイメージすることはできるだろうか?
「選挙で投票する」以外に、若者が政治に参加し、民主主義を実現していくために何ができうるのだろうか。18歳の選挙権が解禁され、若者の政治参加に社会的な注目が集まっているいま、労働や貧困という「日常の現場」から、若者の政治参加のあり方について考えてみたい。
ブラックバイトユニオンに参加した高校生
まず紹介したいのは、ブラックバイトユニオンに参加した高校生(Aさん)の体験だ。
彼が働いていたコンビニ「サンクス」では、(1)賃金が15分単位で計算されており未払い賃金が発生していたこと、(2)レジの違算金をアルバイトが自腹で補填しなければならないなどの違法行為が生じていた。
Aさんは、自身の通う高校でブラックバイトユニオンによる労働法の出前授業を受け、ブラックバイトユニオンの出張授業で、「時給は1分単位で支払わなければならない」ことなどを知り、自分の時給が15分単位で計算されていることに疑問を持った。そこでAさんは授業の後、ブラックバイトユニオンに電話で相談した。
上述の問題は、あまりにも「ありふれている」ため、違法行為であると認識せずに「そういうものだ」と思って働いている人は多いだろう。また、違法行為だと認識しても「どこも同じようなもの」だから「仕方がない」と諦めてしまう人がほとんどだ。
しかし、職場の違法行為を改善できないとういことは、国会で定めた法律が「日常レベル」では無視されているということを意味している。いくら選挙期間だけ「政治参加」をすることができたとしても、日常生活での権利行使ができなければ自らの主権者としての「権利」を実感することはできないだろう。
逆に、「どうせ選挙じゃ何も変わらない」という日常レベルの実感は、結局のところ若者の政治不信を募らせていく。だからこそ、違法状態への権利行使の経験は、若者が「政治参加」を実感する上で重要な役割を果たすのだ。
権利行使から社会とのかかわりを実感
ユニオンのスタッフ(彼らも大学生や大学院生だ)との相談のなかで、Aさんは、証拠集めなど団体交渉を進めていくための準備を進めていった。
2016年1月、Aさんはユニオンを通じて、自らが働いている会社に団体交渉を申し入れることにした。申し入れ直後には記者会見も開き、高校生がアルバイト先に改善を求めて声をあげたことが報道され、社会的な注目を集めることになった。
交渉にはAさんと彼の高校の先生も参加した。「Aさんを教える教員として、不当なことに対して諦めることをしてもらいたくない。おかしいことはおかしいということ、そういう経験をしてもらいたい。そのために協力したい」という思いからの参加だった。
ユニオンは、社会的な注目や団体行動権を背景に有利に交渉を進めた。交渉のなかでAさんは、会社側の主張に対して怯むことなく自分の主張や思いを伝えることができた。「おかしいと思っていたことを伝えられて良かった。でも言えなかったこともあった。次はもっと伝えられるようにしたい」。交渉を通じて、Aさんは権利侵害に対して自分の主張をすることを学んでいった。
また、そのなかで、労働組合の役割や団体交渉の意味を学び、団体交渉を行って改善するのは「自分のためだけじゃない」と思うようになっていったという。違法行為の是正を通じて、社会の一員として、そのあり方に関わっている実感を持ったというのだ。
実際に社会を動かす
実際に、Aさんが感じた「社会への関わり」は団体交渉を通じて実現している。
ユニオンは、計3回の団体交渉を通じて、労働協約の締結を実現した。その解決内容は、(1)全社員(約70人)へ未払い賃金を過去2年に遡って全額支払い、(2)全社員へレジの違算金の自己負担金を全額返還し、(3)今後は1分単位で給与を支払い(給料1分単位支払労働協約を締結)、(4)今後は違算金の自己負担を廃止するというものである。
さらにユニオンは団体交渉の中で、給料が15分単位で切り捨てられていた原因が、フランチャイザーである株式会社サークルKサンクス(以下、サンクス本部)の提供する勤務管理システムにあることを突き止めた。実は、サンクス本部がフランチャイズ加盟店に提供する勤務管理システムは、「15分・10分・5分」の単位で給料を切り捨てられるような、違法行為を誘発する設定がなされていたのである。
そこで、ユニオンはサンクス本部に対し、同社の加盟店(約6350店舗)で使用されている勤務管理システムにおいて、「15分・10分・5分」単位での給料切り捨て設定を廃止し、全ての加盟店で給料を1分単位で支払うことを求める公開要望書を提出した。
これに対して、サンクス本部側から3月28日付で、「一分を超える実労働時間を切り捨てることの無いよう指導する」、「勤退システム中の勤務時間丸め設定廃止の要求につきましては、できる限り早急に対応したい」などの回答を得ることができた 。
高校生がユニオンに入って権利主張することで、たんにバイト先職場の労働環境を改善させるだけではなく、大手コンビニチェーン全体を改善することができた。しかも、同様の問題は他社も抱えており、今後さらなる波及効果が期待できる。
高校生が中心となって労働協約を結んだ例は過去になく、画期的な事例になった。「行動を起こすって、こんなに大きいんだ」とAさんは感じている。
ユニオンに参加することで会社と対等に話し合える
たった一人の高校生が声を上げることで、ここまで大きな成果を得ることができた。声をあげた高校生の勇気も素晴らしいが、ここで注目したいのはユニオン(労働組合)という「社会参加の回路」だ。
労働組合が、労働条件について要求をまとめ、使用者と話し合いを行うことを団体交渉という。使用者が正当な理由なく団体交渉に応じないことや、誠意をもって交渉にあたらないことは不当労働行為として禁止されている。このことは、憲法にも明記されている。
憲法28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
高校生アルバイトは、雇用者と被雇用者という関係以上に、大人と子供という権力関係も働いているため、アルバイト先で人権侵害的な被害を受けているケースも多い。
しかし、「子供扱い」されがちで、職場の「大人」から都合よくあしらわれてしまうような高校生アルバイトも、労働組合に参加して団体交渉を申し入れることで、会社と対等に話し合うことができるのだ。
この権利は働いている人すべてに保障されるものだから、投票権のない18歳未満の高校生アルバイトにも保障されている。ユニオンに参加することで、自分の置かれている違法・不当な状態を解決することができるのはもちろんのこと、Aさんが実際にやってのけたように、会社全体、さらには業界全体の解決に向けた取り組みも可能なのだ
ユニオンへの参加が若者の政治参加を促す
ばくぜんと「選挙は重要だから投票に行こう」と呼びかけられても、判断材料が少なければどこに投票して良いのかわからないし、その重要性を理解することも難しい。「政治は自分にとって遠い世界のこと」だと感じている若者も少なくないだろう。こうした実感を変えられなければ、若者の政治参加は進まない。
私は、ユニオンへの参加は、選挙を含めた若者の政治参加を促すことにつながるものと考えている。若者自身が当事者となっている労働問題に取り組むことで、社会のあり方や政治のあり方について目を向け、具体的な関心を持つことができるようになるからだ。
実際に、「自分自身の日常の権利」に関わることで、ブラックバイトやブラック企業、奨学金問題など、自分たち若者をめぐる政策に各政党がどのようなスタンスを取っているのかを考えることができるようになるだろう。自分自身の問題を考えることが、選挙の際にも重要な判断材料となるのである。こうして、若者と政治の距離が近づいてくる。
さらに、ユニオンに参加した若者たちは、自分たちの行動で社会を動かした経験をもっている。「行動を起こすって、こんなに大きいんだ」というAさんの実感は、政治に対してアクションを起こしていく際の原動力となっていくだろう。
もちろん、こうした「日常の権利」は労働問題やユニオン活動に限られるものではない。自分自身の通う学校でのいじめや体罰などを自ら問題化していくことや、地域参加などへの参加も同様の「回路」となり得るだろう。
「選挙で投票する」こと以外にも、民主主義を実現するためのさまざまな回路が、実は存在している。日常のなかの人権侵害や違法行為に向き合うことは、選挙の結果がどうであれ、「主権者」として必要不可欠なことである。こうした日々の 実践や経験こそが、自分たちのもつ「一票」の意味を変え、若者の政治参加を促進するのではないだろうか。
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