大都市自治体を経営改革する-臨床的知見をもとに(上)
政令指定都市や東京都などの大都市自治体は、財政規模や職員数で大企業を凌駕(りょうが)し、手掛ける事業の領域も産業振興から福祉・教育まで幅広い。よって経営の対象として見た場合、大企業よりもはるかに難しい存在だ。さらに、改革をやろうとすると、二元代表制のもと、首長と議会の間での政治的対立が起こりやすい。
そんな中、筆者はこの20年間に、福岡市の山崎市長のDNA改革(2000年~2007年)、大阪府・市の橋下氏・松井氏・吉村氏の維新改革(2008年~現在)、新潟市の篠田改革(2007年~2018年)、東京都の小池改革(2016年~19年3月)などに参画してきた。今回はそこから得た、いわば臨床的な知見を紹介したい。
○自治体の経営改革とは何か
自治体の経営改革には様々なタイプのものがある。大きなものだと、隣接自治体との合併、区役所の組織再編、病院や大学・博物館の独立法人化、地下鉄の民営化など。これらは個々の事業体の経営体制を変える大きな改革だ。また、経営改革のメニューの中には、補助金制度や施設の廃止なども含まれるが、政治的に難航することが多い。
○首長の総合判断
多種多様な事業にまつわる経営改革の課題(テーマ)は尽きない。その中のどれを、いつ、どこまで抜本的に改革するかの選択は、首長の判断による。その際には地域の経済状況、財政事情、議会や労働組合の協力度合い、担当部局の改革意欲と能力、首長の次期選挙への姿勢等が斟酌(しんしゃく)される。もちろん首長の経営センス、改革意欲、経験、自信、性格なども影響する。つまり改革の中味も成否も大半は首長の力量によって決まる。
筆者が一緒に仕事をした方々の中で言うと、本格的な経営改革に取り組んだ例は冒頭の4都市の首長らに加え、北川知事(三重県)、中田市長(横浜市)、大村知事(愛知県)、村井知事(宮城県)など限られる。
○改革のスケールは地域事情を反映
このように経営改革のスケールの大きさと成否は首長によって決まるが、第2の要素は地域事情の厳しさだろう。たとえば村井知事(宮城県)は人口減と震災復興という厳しい状況を前にして、空港や上下水道の民営化に取り組んだ。篠田市長(新潟市)は人口と経済の先行きを懸念した上で、大型合併と政令指定都市化に取り組んだ。大阪府・市の改革も大阪の地盤沈下を背景に始まった。
一方、財政的にも地域経済的にも他地域より恵まれた東京都の小池改革と福岡市の山崎市長のDNA改革はややマイルドだった。福岡市は対アジア貿易等で経済は好調だ。2000年前後に山崎市長のもと、行政経営改革に取り組んだが、手法は企業が行うTQC(全社的品質管理)活動と庁内手続きの簡素化等が中心だった。東京都の小池改革では、当初は五輪予算の見直しや入札制度改革に切り込んだが五輪開催に向けた特殊事情や議会との政治的対立を経てやがて現場発の業務改善活動に変化した。
このように自治体の経営改革は一様ではなく、中身もスピードも様々である。
○内容は極めて個別具体的
企業でも自治体でも、経営改革というものは極めて個別具体的(サイト・シチュエーション・スペシフィック)な営みである。経営コンサルタントなどは、えてして定型的な手法、たとえばBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)やCS(カスタマー・サティスファクション)評価等を掲げた改革を提案する。しかしこれらは改革をやる上でのツールのごく一部にすぎない。
経営改革とは、現場組織が仕事のやり方の改善を常に意識し、それを進化発展させ続けていく活動をいう。また、経営改革は様々な手法を次々に駆使する総合芸術、いわばオペラのようなものである。だから経営改革の実態は、行政サービスが現場で変化する姿を見なければわからない。経営改革の内容は、行政改革大綱や首長の施政方針に目標とともに文章化されるが、所詮は書き物、脚本でしかない。
○4つの大都市自治体の改革事例
大都市の経営改革はどういう場合に始まるのか。
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