変わり始めたKPI 就職一択支援からの脱却
2年延長された就職氷河期世代支援
令和4年12月27日、内閣官房より「就職氷河期世代支援に関する新行動計画2023」が公表されました。
就職氷河期世代支援は、令和元年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019」において、就職氷河期世代に対する3年間の集中的な支援に取り組み方針でした。
2020年に入ってからは、新型コロナウィルス感染症の影響から、就職氷河期世代のみならず、さまざまなひとたちにとって雇用情勢は厳しいものとなり、政府が当初掲げた該当世代の正規雇用者数が伸び悩みました。
これを受けて、令和4年度までの3年間の集中支援期間を「第一ステージ」と捉え、令和5年度から2年間を「第二ステージ」と位置づけていく流れになっています。
就職一択支援から排除されるひとたち
2022年12月28日には、親の介護に直面する就職氷河期世代の問題が取り上げられました。
『手取り16万円・・・就職氷河期世代・非正規団塊ジュニアに迫る「親の介護」という大問題』(幻冬舎GOLD ONLINE)
育て上げネットの相談現場にも、子育てのみならず、両親の介護や家族のケアをしなければならない事情を抱えながら、働くための相談に訪れる方々が来ています。
そのなかには、公的事業としてPRされる就職支援で掲げられる「正社員」や「安定した就職」という言葉を回避するように、使える施策を探されているひとたちがいます。
例えば、親の介護や子育てによって、決まった時間に決まった場所で働ける状況にない女性は、就職のため複数の相談機関を訪れ、就職支援プログラムを受けたものの、採用されることはなかったと言います。いまの状況のなかで雇われることをあきらめてしまっていました。
ある地方の男性は、そもそも居住地域に雇用がなく、あったとしても非常に限定された求人内容で、事情によってそれらの仕事に就くことができません。公的施設で相談しても、新しい仕事が出てくるわけもなく、途方に暮れていました。
私は、就労支援をそのひとに合った「働く」を一緒に考え、その実現に伴走する行為だと考えていますが、政府による就労支援は、就職支援であり、つまりは、企業などに雇われるための支援となっています。
さまざまな施策で打ち出されるKPIも、正規雇用が何名、週30時間以上で働くひとは何名かという設定になっており、被雇用者ではない選択をしたひとたちは、成果としてカウントされないこともあります。
就職支援をどれだけ充実させたとしても、被雇用者として働くことが難しい条件を持つひとたちにとっては、就職一択支援からは排除されてしまうことになっています。
変わり始めたKPI
先日公表された「就職氷河期世代支援に関する新行動計画2023」には、これまでの対面および就職一択から脱却しようとする表現が入りました。
私たちの日常では、SNSやオンラインを利用したサービスが当たり前になっていますが、対面が前提とされていた対人支援領域においても、その指針のなかでオンラインを利活用が入りました。
これにより社会参加や就労に向けた活動のネックとなっていた経済的負担の軽減が図られることになりますが、そもそも地域に本人が望む相談・就労のための支援がない場合でも、他地域のものを利用することができるようになります。
また、従前の就職説明会やマッチングセミナー、求人開拓員による企業訪問に加えて、スモールビジネス(小商い)等の多様な働き方の提供という一文が掲載されることになりました。
副業や兼業の流れのなかで、いわゆる正業とは別に、スキル・知識の提供を通じたさまざまな働き方が選択可能になっており、たくさんのプラットフォームが、その機会を提供しています。
そのひとに合った働き方を一緒に模索し、実現のために行動できるようになることは、就職一択支援で取り残されてしまっていたひとたちにとっても、その存在を認識していても何か手を打つことができなかった現場支援者にとっても大きな一歩であることは間違いありません。
内閣府からは、就職氷河期世代支援のさまざまな施策のなかにおいて、地方公共団体に対して、KPIに就職以外の働き方が示されたとのことです。これまで求職者などがどうしたら就職、雇われるようになるのかというKPIに縛られる形で提供サービスを設計していた時代から、そのひとに合った働き方に向かって伴走できる支援設計になっていくことを期待しています。