トナカイ頭骨400個をノルウェー国会前に「展示」 若い先住民族の生き方を規制する政府に抗議
5日、ノルウェー国会前に400個のトナカイの頭の骨が展示された。
マーレト・アンネ・サラ(Marat Anne Sara)氏によるアート「パイル・オ・サーミ」(Pile o Sapmi)は、ノルウェー政府のトナカイ減少政策に対する抗議だ。
現在、最高裁判所ではマーレト氏の弟であるヨヴセット・アンテ・サラ(Jovsset Ante Sara)氏が政府を相手に裁判中。
トナカイを遊牧する先住民族サーミ人。その牧畜生活にメスを入れようとする政府。サーミ人の姉と弟は、「おかしい」と声をあげた。その抗議の姿勢を、サーミ議会は後押ししている。
トナカイの頭骨アートは国内外で大きな注目を集め、ドイツの芸術祭ドクメンタ14でも披露された。
この抗議は、政府の大きな力が小さな一個人を襲う結果と、先住民族の権利をめぐる闘いのシンボルとなりつつある。
ノルウェーの農業・食糧省は、トナカイの数を規制するため、各農家(サーミ人)に一定量の割合でトナカイを減らすことを命じた。
サーミ人らは、複数の家族が共になって牧畜業を行うことが多い。家族によっては何百頭ものトナカイ、その半数以下の数で暮らす者もいる。政府の命令は、少ないトナカイを飼育する者にとっては、理不尽な政策だった。
例えば、家族A(トナカイ800頭)と家族B(トナカイ100頭)が、同じ地域で共に飼育していたとする。家族同士でどれだけのトナカイを減らすかで合意に至らなかった場合、政府は両家族に「同じ割合」での減少を命じる。そうすると、経済的に大きな打撃を受けるのは、頭数が少ない家族Bだ。
政府が求める減少目標は、いずれにしてもサーミ人家族らが想定した以上の数だった。
この政策によって、弟のヨヴセット氏はトナカイを116頭から75頭に減らすように命じられた。
先住民族の権利と人権を侵害する行為という主張は、第一審・二審で認められ、弟はすでに法廷で2度勝利している。
政府がトナカイの数を減らそうとしているのは、北部フィンマルク県にはトナカイが多すぎるからだ。
持続可能なトナカイ牧畜を維持するためには、十分な牧草が必要。牧草が食べられすぎないように、トナカイの数のバランスをとる必要があるのだ。
一方で、サーミ人にとっては土地をどんどん占領しているのは政府側だ。
トナカイの数が多すぎて、制限する必要があることには同意すると話すのは、トナカイ牧畜・サーミ人の農業連盟のエリノール・マリタ・ヨーマ(Ellinor Marita Jama)代表だ。
「今回の裁判で問題なのは、彼は牧畜業を始めたばかりの若者だということ。若い農家が十分な収入を得るようになるまでには、長い時間がかかります。75頭に減らせと政府が介入すれば、彼はもう自活していくことができなくなるでしょう」と取材で答える。
「トナカイの減少政策の議論はノルウェーでは以前からありました。しかし、裁判となったのは初めてです。彼のようにビジネスを始めたばかりの若者が、政府を相手に訴訟を起こす行為は、よほどの勇気がなければできません」。
「多くのサーミ人は彼の行為を応援しています。たくさんの家族が彼と同じような状況にいますが、誰もが政府の決定をただ受けいれるしかありませんでした」。
「ノルウェー政府はどんどんサーミ人の土地を占領しています。別荘の建築、風力発電設備の設置など、トナカイの場所はどんどん減っています。サーミ人とトナカイの土地は守られていかなければ、私たちの場所はなくなるでしょう」。
Photo&Text: Asaki Abumi