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多くのプロ野球選手が登場曲として使用する、西の巨漢シンガー・ソングライターBigfumiの魅力

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/VAA

プロ野球選手がこぞって登場曲として使用する「西日本で最も体が大きなシンガー・ソングライター」Bigfumiとは?

これまで、プロ野球阪神タイガース梅野隆太郎選手が「Life」「繋いでいけ」「それでも生きていくんだ」、同小野寺暖選手が「Giant Killing」、東京ヤクルトスワローズ(現在クラブチームでプレー)成田翔投手が「Soar」、オリックス・バファローズ(現北海道日本ハムファイターズ)山﨑福也投手が「Life〜福也Ver〜」、北海道日本ハムファイターズ(現オリックス・バファローズ)井口和朋投手が「Trust」、そして昨年は千葉ロッテマリーンズ山口航輝選手が「後悔なき航海」、横浜DeNAベイスターズ山本祐大選手が「Soar」、東北楽天ゴールデンイーグルス鈴木翔天投手が「繋いでいけ」 同村林一輝選手が「手を上げて」など、多くのプロ野球選手が彼の楽曲を登場曲として使用している――全てBigfumiの楽曲だ。なぜこれほどまでに彼の楽曲がプロ野球選手から愛されているのだろうか。しかもプロ野球選手だけにとどまらず、サッカーやラグビー界からも支持されている。

2月に自身最大キャパの会場・サンケイホールブリーゼを満杯にする

1stフルアルバム『Bigfumi1』(2023年11月10日発売) ベリーグッドマン・HiDEXプロデュース。『太陽のような人でありたい』『それでも生きていくんだ』他人気曲を収録した名刺代わり一枚
1stフルアルバム『Bigfumi1』(2023年11月10日発売) ベリーグッドマン・HiDEXプロデュース。『太陽のような人でありたい』『それでも生きていくんだ』他人気曲を収録した名刺代わり一枚

「西日本で最も体が大きなシンガー・ソングライター」というキャッチフレーズも気になって、2月25日、自身最大キャパの会場。大阪・サンケイホールブリーゼ公演を観に行った。ライヴを観て、そして翌日インタビューをし、Bigfumiの音楽がなぜこんなにもスポーツ選手から支持されるのか、多くの人の心に響くのかがわかった気がした。

ようやくここまで辿り着いた――2月25日、大阪・サンケイホールブリーゼは満員。Bigfumiの歌、言葉からはそんな思いが溢れ、伝わってきた。このライヴは昨年11月に発売した1stフルアルバム『Bigfumi 1』を引っ提げ、12月からスタートさせたソールドアウトとなった東名阪でのワンマンツアー『それでも生きていくんだ』の追加公演だ。

トレードマークのタキシードに蝶ネクタイのBigfumiが大きな拍手に迎えられ登場。その巨漢は愛くるしさを感じさせてくれる。オープニングナンバーは「繋いでいけ」だ。しかしいきなり歌い出しの歌詞を間違え「もう一回いきましょう」と仕切り直す。客席からは大きな拍手が起こる。

アットホームな雰囲気、客席との距離の近さ、人間味あふれるライヴが魅力

後日インタビューでこのことを聞くと、大きなプレッシャーと緊張で押し潰され「最大の敵は自分でした。不甲斐ないです…」と自省していた。10年間の活動を経て、これまでで最大キャパの会場が満員になった重要なステージ。ファンと彼に関わっている全ての人の思いを背負い、その責任感の大きさがプレッシャーになったようだが、それも彼の人間臭さと捉えれば、その歌がなぜ老若男女から愛されるのか、その理由の一端を見た気がした。

大汗をかきながら懸命に歌い、度々スタッフのことを口にし感謝したり、楽屋のケータリングがホットミールだったことを素直に喜んだり、さらに客席から見ていた幼い息子に話しかけたり、そんなアットホームな雰囲気、客席との距離の近さも彼の人間味あふれるところで、それも魅力のひとつになっている。

「何回ステージに立っても感謝しか出てこなくて」と語り、何度も「ありがとうございます」と感謝の言葉を伝える。決して自分は特別な存在ではないとオーディエンス一人ひとりに寄り添う歌を届け続けている。

その後ライヴは、大きな体から繰り出される伸びやかで繊細、そして圧倒的な歌声で客席を沸かせる。アップテンポの曲でもそして本人が「真骨頂」というバラードでも、涙を流しながら聴いているオーディエンスが目立った。Bigfumiが客席に「今日初めて僕のライヴを観る人?」と問いかけると2階席の多くの人が手を挙げ、野球をきっかけにBigfumiの存在を知ったというファンも多く、確実に彼の音楽が広がっている。

「夢は大阪フェスティバルホールでのライヴ。僕が夢を叶えるその時もあなたに拍手して欲しい」

「夢は大阪フェスティバルホールのステージに立つこと。僕が夢を叶えるその時もあなたに拍手して欲しい。スタッフさん、先輩、後輩、友達、そして家族にも全員に拍手してもらえるように生きていくので、あなたもどうか生きて下さい」と熱いメッセージを贈り、代表曲のひとつ「太陽のような人でありたい」を歌うと、客席に感動が広がっていく。アンコールのラストは、阪神・梅野選手、日ハム・山﨑選手の登場曲でもある「Life」を客席と大合唱し、締めくくった。

「常に自分に負荷をかけている人生。何かいいことがあると、その後悪いことが起こるのでは?と考えてしまう」

――ライヴの翌日、興奮冷めやらぬBigfumiにインタビューすることができた。

早速ライヴ一曲目の“やり直し”について聞くと「動員が増えるたびに、お客さんやお世話になっている人、バンドメンバーや裏方のスタッフさんのことや、その思いを背負いがちというか…。やっぱり常に自分に負荷をかけているような人生なので」と大きなプレッシャーに押し潰されてしまったことを素直に吐露してくれた。大きな体で全てを受け止め、背負ってしまうが「何かいいことがあると、喜びよりもこの後悪いことが起こるのでは、と考えてしまう」タイプだ。

ポジティブなことを歌っているが、それはネガティブからくるポジティブ、自分を奮い立たせているという見方もできる。だからBigfumiの歌は伝わる。その根っこにあるものと、誠実さ、温かさ、人間力がストレートな歌詞と相まって伝わってくる。ライヴでもそう感じた。

「お客さんが内に秘めていることを振り返って、僕の歌を通して答え合わせをして欲しい」

「もうちょっと頑張ろう!ということも僕が言うからいやらしく聴こえないというか、嫌味に聴こえないのかもしれません。そんな人でありたいと思うし、敢えてストレートな歌詞を歌うことで、常々皆さんが思っていても内に秘めていることを振り返って、その答え合わせを僕の歌を通してして欲しいと思いながら歌っています」。

「ライヴに来てくれる人は、みんな僕と同じように弱くて、戦っている人。そう思って歌を届けている」

Bigfumiと同じように、誰しも弱い部分がある。Bigfumiの音楽によって救われた、あの歌のあの言葉に救われたという人も多い。

「ライヴにわざわざ足を運んでくれる方というのは、本当に音楽に救われたり、感銘を受けたりした経験があると思います。サンケイホールブリーゼのライヴでもあの空間にいた人たちは、多分全員僕と同じように弱くて、戦っている人だと思って歌を届けています。本編最後で歌った『それでも生きていくんだ』は、みなさんが一緒に歌って下さったのですが、強い言葉を口に出して歌うことで、心に強く残っていくと思っています」。

言葉を歌う“音届者”

Bigfumiは歌うことが好きな一家に生まれ、3人兄弟でとにかく歌がうまくなることを競ったという。高校、大学とレスリング部で活躍し、部は違うものの阪神・梅野選手は福岡大学の先輩にあたる。2014年、20歳の時に福岡・警固公園でストリートライヴをスタートさせ、初めはゆずやコブクロ、阿部真央等のカバーを歌っていた。

「ゆずさんやコブクロさん、路上ライヴをきっかけに大きくなっていたアーティストに憧れていたし、兄が地元・宮崎で路上ライヴをやっていて僕もやってみようと。“言葉を歌いなさい”と父から言われ、それをずっと守って自分のことを、言葉を歌う“音届者”と言っています」。

ストリートライヴで培った、人を引きつける力の基礎

だから歌のうまさはもちろんだが、その前に“Bigfumiの歌”がしっかり存在している。ストリートライヴもオリジナル曲を歌うようになり、自分の言葉で思いを伝えていった。現在のライヴのスタイルやオーディエンスを引きつける力の基礎が、この時代に培われた。そしてライヴハウスに出演するようになり、ファンを増やしていき、2017年自主制作の1stアルバム『いただきます。』をリリースすると、阪神・梅野選手から「登場曲として使いたい」と連絡をもらった。これをきっかけに数多のプロ野球選手がBigfumiの曲に注目する。梅野選手を入口に、阪神ファンにもっと自分の音楽を知って欲しいという思いから、2018年から活動拠点を大阪に移した。

「プロ野球選手は音楽好きが多い。だから登場曲もオリジナル曲を求めている」

最新デジタルシングル「WE RISE UP」(3月2日配信)
最新デジタルシングル「WE RISE UP」(3月2日配信)

「大学の寮で一年間梅野選手とは一緒でしたが、僕は3年の時に大学を辞めているので、それ以来ぶりの連絡でした。覚えていてくれて嬉しかったです。それ以降たくさんのプロ野球選手が僕の曲を登場曲として使ってくれているのは、もちろん僕が野球コミュニティに近いところにいることも大きいと思うし、例えば野球選手が好きなブランドや車のメーカー、ご飯屋さんってコミュニティの中で流行っていくことが多くて、僕の曲もそんな感じで伝わっていったのかなと感じています。もちろん気持ちを奮い立たせ、背中を押すような曲が多いので、そこは気にいっていただけていると思います。選手達は普段からすごく音楽を聴いています。練習中もずっと音楽が流れているし、移動のバスの中でも聴いているし、ラジオもよく聴いているので、音楽の情報をゲットするのが速いんです。でも最終的には、自分だけのオリジナル曲が欲しいと思っている選手が多いんです。自分だけのテーマソングを書き下ろして欲しい、作りたいというのが根底にあって、僕はそれをやっているという実績があったり、選手たちと仲良くなることが多いので、お話をいただけるのだと思います」。

選手ととことん話し、オンリーワンの登場曲を書き下ろす

選手と食事をし、考え方や思いを聞き、密な関係を築いた上でオンリーワンの登場曲を書き下ろす。

「例えば千葉ロッテ・山口航輝選手に書き下ろした『後悔なき航海』は、山口選手と話をする中で、座右の銘が“夢なき者に成功はない”ということを聞いて、それを歌詞にしてしまおうと。名前に“航”という字が入っていて、マリーンズなので海をイメージして書きました」

「今書いているのは今シーズン、オリックスから日ハムに移籍した山﨑投手の曲です。彼は去年まで『Life~福也Ver~』を使ってくれていて、でも歌詞に名前が3回も出てくるのが恥ずかしいというので(笑)、今新しい曲を書いています。彼は僕の『Life』をYouTubeで探し当てて連絡をくれました。15歳の時に脳腫瘍が見つかって、死を意識したこともあったけど奇跡的に復活して、プロ野球選手にまでなりました。どん底を経験しているので、全てのことをプラスと捉え、座右の銘がないんです。でも『病気の子供たちに夢を与えられるような選手になりたい』という言葉を聞いて、“与えられた人生”ということをテーマに書こうと思い『Life』を超える曲を書き下ろすと彼と約束しました」。

4月2日、日ハムのホーム開幕戦で山﨑福也投手が新しい登場曲でマウンドへ

4月2日、日本ハムのホーム開幕戦のマウンドに向かう山崎投手を奮い立たせるように、新しい登場曲(タイトル未定)が、北海道エスコンフィールドに鳴り響いた。Bigfumiはこの曲についてSNSで「与えられたこの人生を燃やしつづけんだ おこがましくも誰かに夢見てもらえるような瞬間を 与えられたこの人生に明日なんてないから 僕にもそんな君にもどうかどうか福あれ!」と曲に込めた想い(歌詞)を発信した。

「プロ野球選手やサッカー選手、スポーツ選手への楽曲提供を通じて多くのことを学んできた」

「プロ野球選手やサッカー選手、スポーツ選手への楽曲提供を通じて多くのことを学んできた」と語るBigfumiは、これからも老若男女から愛されるJ-POPのど真ん中を突き進み、一人ひとりの心に寄り添い、そっと背中を押す歌を歌い続ける。夢は大阪フェスティバルホールでのライヴと、母に連れられて初めてライヴ(スターダスト☆レビュー)というものを体験した地元・宮崎市民文化ホールでの“凱旋”ライヴを行なうことだ。

5月から東名阪ツアーがスタート

今年は5月4日の東京・渋谷クラブクアトロを皮切りに全国4カ所を回る『Bigfumi Oneman Live 2024~太陽のような人でありたい~』 を行なう。6月8日福岡Gate’s7、6月15日大阪・梅田クラブクアトロ、6月22日愛知・名古屋ell.FITS ALLで、大きな体から放たれるとびきり優しく強い歌で、大きな愛を伝える。

Bigfumiオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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