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やっぱりオンラインの波からは逃れられない?ースカラ座TV誕生

中東生Global Press会員ジャーナリスト、コーディネーター
スカラ座の正面入り口に掲げられたLaScala.TVの大きなポスター(筆者撮影)

 クラシック音楽界は新型コロナのダメージを最も強く受けた業界の1つであろう。欧州の有名なオーケストラや歌劇場、音楽祭を巡る「音楽鑑賞ツアー」が出来なくなり、外国から来る聴衆が減った事に加え、平均年齢の高いクラシックファンが感染を恐れて音楽会に行かなくなったケースも多い。

 ロックダウンを経て「やはり生演奏がいちばん!」と証明されたにも拘らず、オンラインの需要が増えているのが欧州の現状だ。

 日本ではどうかという点を、ヤフー株式会社が提供するビックデータ分析ツールの「ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT」を通して分析してみた。直近1年間で「クラシック」と検索した人が、「クラシック」検索の前後1年間でよく検索している他のキーワードを可視化すると、「クラシック 名曲 youtube」が調べられているなど、YouTub関連のワードが多いことに驚いた。

「DS.INSIGHT」が示した「クラシック」キーワードの時系列関連検索ワードのデータ(出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT、期間:2022/02/21-2023/02/26)
「DS.INSIGHT」が示した「クラシック」キーワードの時系列関連検索ワードのデータ(出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT、期間:2022/02/21-2023/02/26)

 さらに、「クラシック」との関連検索のボリュームを詳細に見てみると、

「名曲」や「Youtube」に加え、「ピアノ」が多く検索されていることが見受けられる。

「DS.INSIGHT」が示した「クラシック」キーワードの関連検索ワードのデータ(出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT、期間:2022/01/01-2022/12/31)
「DS.INSIGHT」が示した「クラシック」キーワードの関連検索ワードのデータ(出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT、期間:2022/01/01-2022/12/31)

 そう言えば、このところピアニストの取材が多いなあ、と納得した。

 でも映像の恩恵を一番受けられるのがオペラだ。そう思って検索すると次のような結果が出た。

「DS.INSIGHT」が示した「オペラ」キーワード検索の詳細データ(出典:ヤフー・データソリューション| DS.INSIGHT、期間:2022/01/01-2022/12/31)
「DS.INSIGHT」が示した「オペラ」キーワード検索の詳細データ(出典:ヤフー・データソリューション| DS.INSIGHT、期間:2022/01/01-2022/12/31)

 女性の比率が非常に高く、関連キーワードにはメイク道具などの検索も出て来た。日本では「オペラ」は化粧品ブランドとしての認知も高く、純粋に音楽の「オペラ」だけの結果ではない可能性も高いが、40代以降の検索ボリュームが大きいことから一定音楽に関連する検索結果を反映しているともいえそうだ。

 そして、「クラシック」に戻して男女比を確認すると、ほぼ同割合になるのが興味深い。

「DS.INSIGHT」が示した「クラシック」キーワード検索の詳細データ(出典:ヤフー・データソリューション| DS.INSIGHT、期間:2022/01/01-2022/12/31)
「DS.INSIGHT」が示した「クラシック」キーワード検索の詳細データ(出典:ヤフー・データソリューション| DS.INSIGHT、期間:2022/01/01-2022/12/31)

 さらに「クラシック」と「YouTube」の組み合わせでの検索について詳細に

見てみると、地域差が非常に大きいことも見受けられた。

「DS.INSIGHT」が示した「クラシック」と「YouTube」検索の詳細データ(出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT、期間:2022/01/01-2022/12/31)
「DS.INSIGHT」が示した「クラシック」と「YouTube」検索の詳細データ(出典:ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT、期間:2022/01/01-2022/12/31)

 いずれにしても、欧州と同様に日本でもオンラインでのクラシック音楽視聴の需要が高まっていることがうかがえる。そんな気流に乗って、欧州本場のクラシック音楽を楽しめるプラットフォームがまた1つ誕生したことをご紹介したい。

 バレンタインデーに、聖バレンタインの祖国イタリアでは新しいストリーミング・プラットフォームがスタートした。その名もオペラの殿堂スカラ座のLaScala.TVだ。世界5大歌劇場の中でも、メトロポリタン歌劇場などは早くからストリーミング用のアプリを作っていたが、オペラ誕生の地に君臨するこの歌劇場でオンラインに舵を切るには、それなりの反発もあっただろう。

 栄光なる初生中継はヴェルディ作曲《シチリア島の夕べの祈り》。指揮は、現在我が国のNHK交響楽団首席指揮者を務めるファビオ・ルイージで、上映機会が少ないこのオペラを聴けるのはオンラインでも嬉しい。

 それに続き3月14日にはプッチーニ作曲《ボエーム》、3月24日にはオッフェンバック作曲《ホフマン物語》…と7演目続く。バレエも《海賊》、《ロメオとジュリエット》(プロコフィエフ)、…と3演目が予定されている。コンサートとなると9公演も生配信される。2月18日のハーディング指揮モーツァルトの交響曲第39、40、41番のストリーミングを終え、次は3月10日のヴィオッティ指揮ハイドン、コルンゴールド、R.シュトラウスだ。

 ライブストリーミング以外にも、マスネ作曲のオペラ《タイース》、ベッリーニ作曲《カプレーティ家とモンテッキ家》、バレエ《ジゼル》、当歌劇場の芸術監督リッカルド・シャイーが指揮するマーラーの交響曲第2番《復活》がオンデマンドのアーカイヴに入っており、世界中から観ることができるのだ。

 スカラ座のドミニク・メイエ総裁は「これはスカラ座が世界に向けて解放されているという証だ。」と、2月9日の記者会見で語った。総裁に就任した時からこのプロジェクトを実現させるために働いてきたという。コロナ禍のロックダウンと重なった就任初年を経験すれば、自然な成り行きとも言える。

 ペレイラ前総裁が準備を重ねてきた2020年の日本公演もコロナ禍で実現できず、ロックダウンを経た後も世界からの観客は戻って来ていない。「それならオペラ界のネットフリックスだ」と考えたそうだ。

ドミニク・メイエ総裁とスカラ座内部(スカラ座提供)
ドミニク・メイエ総裁とスカラ座内部(スカラ座提供)

 4Kのカメラ9台を駆使し、高度な騒音消去効果を使って生公演を撮影した映像が、2.90ユーロから11.90ユーロの値段で観ることができる。今まで他劇場のストリーミングで見られた音と映像の微妙な誤差も解決し、流石スカラ座と言える丁寧なカメラワークと鮮明な画像に、顔面の小さなマイクで声を拾うため、小さな綻びも聞こえてしまうライヴ感は、劇場体験とは違うリアルさがある。

 今回劇場で販売されている《シチリア島の夕べの祈り》プログラムには、唯一のヨーロッパ圏外言語として日本語であらすじが載っていた。2010年から10年間ウィーン国立歌劇場の総裁を務めたメイエ氏は、日本人クラシック音楽ファンの情熱を知っているのだ。ぜひ現地で体感していただきたいところだが、現地へ赴くことがまだ難しいと感じる方もいるだろう。

 そんな方々にも、そしてYouTubeに飽き足らなくなった方々にも、「解放された」スカラ座の素晴らしい演奏を、ぜひLaScala.TVで堪能していただきたい。

後方を増築中のスカラ座外観(筆者撮影)
後方を増築中のスカラ座外観(筆者撮影)

ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT

※この記事は、Yahoo!ニュース 個人編集部、ヤフー・データソリューション

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Global Press会員ジャーナリスト、コーディネーター

東京芸術大学卒業後、ロータリー奨学生として渡欧。ヴェルディ音楽院、チューリッヒ音楽大学大学院、スイスオペラスタジオを経て、スイス連邦認定オペラ歌手の資格を取得。その後、声域の変化によりオペラ歌手廃業。女性誌編集部に10年間関わった経験を生かし、環境政策に関する記事の伊文和訳、独文和訳を月刊誌に2年間掲載しながらジャーナリズムを学ぶ。現在は音楽専門誌、HP、コンサートプログラム、CDブックレット等に専門分野での記事を書くとともに、ロータリー財団の主旨である「民間親善大使」として日欧を結ぶ数々のプロジェクトに携わりながら、文化、社会問題に関わる情報発信を続けている。

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