筑後遠征・その2 「贅沢な打線に投げさせてもらった」才木投手の経験《阪神ファーム》
9月22日から24日まで、タマホームスタジアム筑後で行われたウエスタン・ソフトバンク3連戦は、阪神の2敗1分けで終了しました。きょうは2戦目。23日の試合詳細をご紹介します。この日はドラフト1位ルーキーの田中正義投手がウエスタン公式戦初登板初先発。さらに故障明けの川崎宗則選手、内川聖一選手が揃って実戦復帰とあり、マスコミもかなり多かったですね。
対する阪神の先発もルーキーで、ドラフト3位の19歳・才木浩人投手です。いきなり川崎選手に初球先頭打者ホームランを浴び、2回も先頭の長谷川勇選手に1発を許したものの、吉村選手、内川選手、長谷川勇選手というクリーンアップの3番と4番はしっかり抑えました。「いい経験をさせてもらった」ことに感謝しつつ、それを抑えるために何が足りないかを学んだようです。
なお試合は、10回で引き分けた前日と同じく5回までに点を取り合い、そのまま延長戦へ。この日は10回表に北條選手がタイムリー二塁打を放って勝ち越しましたが、その裏にメンデス投手が4連打されてサヨナラ負けを喫しています。
《ウエスタン公式戦》9月23日
ソフトバンク-阪神 29回戦 (タマスタ)
阪神 020 010 000 1 = 4
ソフ 110 100 000 2x = 5
※延長10回
◆バッテリー
【阪神】才木-山本-柳瀬-●メンデス(1勝5敗23S) / 小豆畑
【ソフ】田中(3回)-古谷(2回)-長谷川宙(1回)-伊藤祐(1回1/3回)-加治屋(1回2/3)-児玉(2/3回)-○小澤(6勝3敗)(1/3回) / 栗原-張本(7回~)
◆本塁打 ソ:川崎2号ソロ、長谷川勇6号ソロ(才木)
◆二塁打 神:北條 ソ:茶谷、幸山、曽根
◆打撃 (打-安-点/振-球/盗/失) 打率
1]左中:高山 (3-0-0 / 0-2 / 0 / 0) .315
2]中:荒木 (4-0-0 / 1-0 / 0 / 0) .217
〃打左:キャ (0-0-0 / 0-1 / 0 / 0) .307
3]三:今成 (3-0-0 / 0-2 / 0 / 0) .242
4]遊:北條 (5-2-1 / 0-0 / 0 / 0) .217
5]指:新井 (4-0-0 / 3-1 / 0 / 0) .293
6]二:板山 (3-0-0 / 2-1 / 1 / 0) .201
7]一:西田 (3-1-1 / 2-1 / 0 / 0) .211
8]捕:小豆畑 (4-2-1 / 0-0 / 0 / 0) .239
9]右:緒方 (3-0-0 / 1-0 / 0 / 0) .244
◆投手 (安-振-球/失-自/防御率) 最速キロ
才木 6回 93球 (6-5-2 / 3-3 / 4.88) 149
山本 0.2回 17球 (2-1-0 / 0-0 / 2.98) 135
柳瀬 1.1回 21球 (1-0-0 / 0-0 / 1.85) 143
メン 1.0回 19球 (4-0-0 / 2-2 / 3.48) 152
《試合経過》 ※敬称略
1回の攻撃は三者凡退。その裏、才木は先頭の川崎に初球の真っすぐ(147キロ)を打たれ1点を失いますが、そのあとは難なく3人で片付けました。すると打線は2回、2死から板山が四球を選んで盗塁成功。西田の放った痛烈な打球はファーストベースに当たり、これが右前タイムリー!さらに暴投で二塁へ進んだ西田は、小豆畑の中前打で生還!この回2点で逆転です。
しかし2回裏、才木は先頭の長谷川勇に今度は122キロのスライダーをライトへホームラン…。あっさり追いつかれました。1死後に釜元を左前打で出すも、小豆畑が盗塁阻止、古澤は見逃し三振。3回も1死から川瀬に内野安打を許しますが、栗原の三振でまた小豆畑が盗塁を刺して併殺!ホッとした笑顔で戻ってきた才木。でも4回は2死を取ってから長谷川勇に左前打され、茶谷の左翼線二塁打で勝ち越しを許しました。
打線は5回、西田が四球を選び、小豆畑は初球で右前打、緒方がキッチリ送って1死二、三塁。高山への初球でキャッチャー栗原が三塁へ送球するも、これが大きく逸れて西田はホームイン!同点です。ただし6回は今成の四球と北條の中前打で無死一、二塁としながら3連続三振、7回は1四球のみ、8回と9回は三者凡退で追加点を奪えません。
一方の才木は5回が三者凡退。6回は1死から吉村に四球、次いで代打の斐紹に死球(右手)を与えてしまいました。斐紹は才木を見据えながらマウンドに正対したまま仁王立ち。思わず今成が取りなしに行きかけますが、エキサイトすることなく収拾。久保投手コーチと内野陣がマウンドで集まり、そのあと長谷川勇を三振、茶谷は二飛に打ち取って無失点。ベンチへ戻る斐紹に、帽子を取って再び頭を下げた才木でした。
7回は山本が登板し、先頭の釜元に左前打され、1死後に盗塁を決められます。これでリーグトップで1軍にいる阪神・植田と1つ差の24盗塁。2死後に川瀬の内野安打で一、三塁となったところで柳瀬に交代。張本への2球目で一塁走者の川瀬がスタート。ここで、三塁側カメラマン席にいた私の目の前で、珍しい光景が展開されたのです。
小豆畑が盗塁を刺すと思ったら、二塁ではなくセカンドの守備位置から前進してきた板山に送球しました。板山はボールを持ったままマウンドの前を通過して三塁付近まで行き、三塁走者・釜元を追い詰めながら送球、今成がタッチしてアウト!2-4-5挟殺です。板山選手の動きに驚いていたら、いつの間にかチェンジになっていました。
8回は二塁打があったものの0点に抑えた柳瀬。9回はメンデスが登板して三者凡退です。というわけで、2日連続の延長戦に突入。そういえば6回くらいからナイター照明も点いていたんですね。前夜は引き分けていますが、この日は10回に2死から代打のキャンベルと今成が連続で四球を選び、北條が左翼線にワンバウンドでフェンスまで届く大きなタイムリー二塁打!これで4対3とします。
ところが…2イニング目に入ったメンデスは曽根に左中間二塁打を浴び、川瀬はバントヒットで無死一、三塁。代打・城所の右前タイムリーで同点となり、続く代打・谷川原にも右前タイムリー。連日の延長戦、今度はサヨナラ負けでした。
こういう人を抑えないと1軍では投げられない
掛布雅之監督は才木投手について「3、4回くらいから力が抜けて緩急もつけられていたかな。まあ川崎に初球を打たれて、立ち上がりのリズムがつかめなかったかもしれない。次の回は長谷川の1発だからね。まあそのあとは、いいバランスで投げていましたよ。まだ1年目で、経験を積んでいくピッチャーだからね」と話しています。
そして才木浩人投手は、まず川崎選手の先頭打者ホームランを「低いかなと思ったんですけど、ちょっと甘く入ったかな。いやそんなには。ちょっとだけ内にいきました」と振り返り「すごいですね!」という感想も。長谷川勇選手の1発は「ちょっと甘かったです」と反省の弁でした。
斐紹選手への死球で、威嚇されたというか睨まれたというか。かなり迫力あったでしょう?「ああいう感じで来られたのは、ちょっと初めてだったんで。わ、ってなりましたけど。でも焦ってもしょうがないので、切り替えていきました」。そのあともインコースを攻めていたのは大したものです。「びびって、外、外になったら自分のピッチングじゃなくなるので」
全体的を振り返って「きょうは川崎さんとか内川さんとか、すごくいい経験をさせてもらいました。すごく贅沢な打線に投げさせてもらったので、きょうの感じを忘れずに次からもやっていきたいです」と才木投手。内川選手を抑えたことが自信になるのでは?「うーん、ケガ明けだし…。空振りを狙いにいっても取れず、うまくカットされた。真っすぐのレベルがまだ低いですね。こういう人を抑えていかないと、上で投げられない。いい経験です」
こう受け止めてほしいという、そのお手本のようなコメントでした。初々しく、かつ頼もしい19歳ですね。
北條選手も小豆畑選手もマルチ
北條史也選手は前日に続くタイムリー二塁打を10回に放ち、その前の6回にも中前打しています。また凡退した打席もいい打球が飛んでいました。「いいスイングができている時もありますね。今は打球方向とか、どっちに打とうとか、あまり決めずに、素直に打つ意識でやっています」。残念ながらヒーローになり損ねた?「はい」。ちょっと苦笑いです。
次は、試合経過にも書いた7回の守備について。最初に送球した小豆畑眞也選手に、自分の判断で?と尋ねたら「あれはサインプレーですよ」と言う返事でした。つまり練習でやっているということですね。ただそれを試合で実践できるかどうか。「決まってよかった!」と小豆畑選手も言っています。
また2試合続けて(しかもナイターとデーゲーム)の延長戦に、フルでマスクをかぶったのはプロ初かもしれません。この日も引き分けか、もしくはあのまま勝っていればよかったけど、盗塁をされたり刺したり、先ほどのサインプレーもあり、小豆畑選手にとっての充実感は飛びっきりだったでしょう。
打っても22日はタイムリー二塁打を含む2安打、23日もタイムリーありのマルチ。常々、守備が仕事と言っているものの「今回はしっかり打てていますね。継続します」という返事でした。最近、小豆畑選手のバットが宙を舞うシーンをよく見ます。残り3試合も華麗に飛ばしてください。
おまけの斐紹選手
阪神の選手たちを見送ったあと、球場の通路で斐紹選手に会ったので聞いてみました。「死球を当てた才木投手に対して、マウンドへ向かう気配はまったくなかったものの、かなりグッと睨んでいたでしょう?あれは “1年目のピッチャーだし、ここは最初にガツンと見せておかなきゃ” って感じですよね?」と。
すると斐紹選手は「そういうことです。うちが負けていましたしね。でも失敗。抑えられた」と苦笑い。高校の大先輩である掛布監督にも、帰り際に「手は大丈夫か?」と聞かれ「はい、全然問題ないです」と張り切って答えていたので、ひと安心。いや~ほんと迫力ありましたねえ。そんな斐紹選手に「失敗」と言わしめた、才木投手の度胸も一級品です。
<掲載写真は筆者撮影>