コナミが対サイゲームスの訴訟で使用した(と思われる)特許の分析
「人気ゲーム”ウマ娘”の特許権巡り、コナミがサイゲームス提訴…損害賠償40億円求める」というインパクトのあるニュースが舞い込んできました。「コナミ側は、人気ゲーム”ウマ娘 プリティーダービー”の特許権を巡り、サイゲームスに40億円の損害賠償や提供の差し止めを求めている。サイゲームスによると、ゲームシステムとプログラムの一部について、コナミ側と特許権に関する協議を続けてきたが、折り合わなかった」とのことです。
ゲーム業界における特許権侵害訴訟といえば任天堂対コロプラの訴訟(和解金推定33億円で和解)に続く大型事案です。訴えられた側のサイゲームスはプレスリリースを出していますが、現時点では、コナミ側からは公式なリリースは出ていません。いずれにせよ、この訴訟に使用された特許の番号については明らかになっていません。単なる当事者どうしの契約の争いとは異なり、特許権の効力はあらゆる人に及びますので、特許番号を公表することには社会的意義があると思います。どなたか、東京地裁まで裁判資料を閲覧に行っていただけないものでしょうか?(追記:5月19日に自分で中目黒のビジネスコートまで行ってきましたが、訴状は裁判官が使用中のため閲覧不可でした。)
損害賠償に加えて差止が請求されていることから、現在も権利が存続している特許が使用されていることがわかります。特許権が満了していても、過去の侵害に対する損害賠償を請求することは可能ですが、過去の行為の差止を請求することは不可能だからです。ネットの様々な情報を総合すると、特許5814300号とそのファミリー特許が使用されている可能性が高そうです。加えて、他の特許も使用されている可能性もあります。今後、特許番号が明らかになった場合には加筆・修正するという前提で、この特許5814300号の内容について解説していこうと思います。
特許5814300号の発明の名称は「ゲーム管理装置及びプログラム」、出願日は2013年5月13日、登録日は2015年10月2日です。コナミの「実況パワフルプロ野球」(パワプロ)のシリーズで使用されているアイデアに基づいています。俗にサポカ(サポートカード)と呼ばれるゲームシステムに関する特許です。メインのキャラ以外にサポートキャラを選択することでゲームの進行を変えていくという、育成ゲーム系ではよく使われるアイデアと思います。
驚くべきはその権利範囲の広さです。請求項1の内容は以下のとおりです。
また、「発明が解決する課題」には以下のように書かれています。
要するに、サポートキャラクタの選択に応じて、ゲーム中で発生するイベントを変えると言っているだけです。サポートキャラクタの選択に応じてゲームのパラメーターが変わるアイデアは自明と思いますが、発生イベント自体が変わるアイデアは2013年5月13日以前には知られていなかったことを、コナミは特許庁に認めてもらったということになります。
また、もう1点驚くべきは、分割出願によるファミリー特許の数で、現在、第7世代まで分割が進み、14件が特許登録済であり、かつ、審査係属中の出願が1件残っています(侵害訴訟の進行に応じて新たなクレームを作ることができるのでコナミにとってはかなり強力な武器です)。このように分割を繰り返すこと自体が、この特許がコナミにとってきわめて戦略性が高いことを意味しています。
一般に、特許権は広ければ広いほど侵害を認められやすいが無効にされやすく、狭ければ狭いほど侵害は否認されやすいが無効にされにくくなります。広い特許と分割出願の繰り返しより得られた狭い特許のバリエーションで攻められると、攻められた方にとってはかなりやっかいです。最近の分割出願を見るとかなり実装に近い狭い範囲の権利になっています。たとえば、(「ウマ娘」のリリースより後の)2021年7月8日に出願され、2021年10月27日に登録された特許6967320号の請求項1は以下のとおりです。
私は本件の調査のために「ウマ娘」をインストールしたばかりなので確証は持てないですが、これって、意図的に「ウマ娘」に寄せているのではないでしょうか?そうなると、非侵害の主張は困難(仮に設計変更で侵害回避しても過去の侵害の損害賠償の責は免れない)、無効の主張も困難(1件だけなら何とかなっても同じような特許が他に10件以上あります)ということでなかなか厳しそうです。
追記:このようにゲームのリリース後に後付けで特許の方を寄せていくことが可能なのかと疑問に持たれている方がいるようなので解説しておきます。分割出願への補正が原出願(このケースでは、5814300号)の明細書に既に記載されていた内容に基づいたものであれば問題ありません。また、新規性・進歩性の判断は原出願の出願日(このケースでは2013年5月13日)を基準に行われます。このケースからも分かるように、戦略的な発明の出願では、後の分割出願も想定して様々なバリエーションを最初から明細書に書いておくことが重要です。
少なくとも現時点で公になっている情報から判断すると、サイゲームス側は不利なように思えますが、あえてライセンスに応じなかったということは、何か秘策があるのかもしれません。ただ、任天堂対コロプラの時も、当初コロプラが強気に見えたので何か秘策(強力な無効資料、反訴に使用できる強力な特許等)があるのかと推測していたら、実はそうでもなかったので何とも言えないところです。