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即時停戦の呼びかけから2ヵ月。止まない暴力と、拡大する感染症の流行

谷口博子東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)
産科病棟が襲撃を受けたアフガニスタンのダシュ・バルチ国立病院(5月12日)(写真:ロイター/アフロ)

昨年12月の記事で、同月4日にアフガニスタンで銃撃を受け、命を落とされた中村哲医師と現地スタッフのことをお伝えした。それから5ヵ月、今月12日にアフガニスタンの首都カブールでは、国境なき医師団(MSF)が支援するダシュ・バルチ国立病院の産科病棟が武装集団の攻撃を受け、MSFによると、妊婦、新生児と母親を含む20人以上が殺害された。亡くなった女性のうち3人は分娩室にいたという。MSFスタッフとして活動していたアフガニスタン人助産師も犠牲となった。

襲撃を目撃したスタッフによると、12日の朝10時頃、武装集団は正面玄関を突破して、他の建物には目もくれず、産科病棟へ向かったという。この非道な攻撃に、英国、ドイツ、トルコ、パキスタンなど各国政府も非難の声を上げている。MSFは産科病棟の運営を当面中断するが、閉鎖はせずに、今後も現地のひっ迫した医療に対応していくとしている。

アフガニスタンでは2月末、米国政府とタリバンとの間で、駐留米軍の条件付き段階的撤収およびアフガニスタン人同士の交渉開始等を含む合意が署名され、両国間のアフガニスタン和平に関する共同宣言が発表された。和平への期待が高まる中、今回の襲撃や別の地域でも起きている攻撃は、暴力が止まらない現実を突き付けるかたちとなった。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月24日、新型コロナウイルス感染症が世界的危機となる中で、世界全体での即時停戦を呼びかけた。敢えて、全文を引用する。

私たちの世界はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症:筆者注)という、共通の敵と対峙しています。

このウイルスには、国籍も民族性も、党派も宗派も関係ありません。すべての人を容赦なく攻撃します。

その一方で、全世界では激しい紛争が続いています。

女性と子ども、障害をもつ人々、社会から隔絶された人々、避難民など、最も脆弱な立場に置かれた人々が、最も大きな犠牲を払っています。

こうした人々がCOVID-19によって壊滅的な被害を受けるリスクも、最も高くなっています。

戦争によって荒廃した国では、医療制度が崩壊していることを忘れないでおきましょう。

すでに数少なくなっている医療従事者が、標的とされることも多くなっています。

難民やその他、暴力的紛争で故郷を追われた人々は、二重の意味で弱い立場に置かれています。

ウイルスの猛威は、戦争の愚かさを如実に示しています。

私がきょう、世界のあらゆる場所でグローバルな即時停戦を呼びかけているのも、そのためです。

紛争を停止し、私たちの命を懸けた真の闘いに力を結集する時が来ています。

紛争当事者に対し、私は次のように訴えます。

戦闘行為から離れてください。

不信と敵意を捨ててください。

銃声を消し、砲撃を停止し、空襲をやめてください。

それがどうしても必要なのは…

救命援助を届けるための道を確保できるようにするためであり、

外交に貴重なチャンスを与えるためであり、

COVID-19に対して最も脆弱な人々が暮らす場所に、希望を届けるためでもあります。

COVID-19対策で歩調を合わせられるよう、敵対する当事者間でゆっくりとでき上がりつつある連合や対話から、着想を得ようではありませんか。しかし、私たちにはそれよりもはるかに大きな取り組みが必要です。

それは、戦争という病に終止符を打ち、私たちの世界を荒廃させている疾病と闘うことです。

そのためにはまず、あらゆる場所での戦闘を、今すぐに停止しなければなりません。

それこそ、私たち人類が現在、これまでにも増して必要としていることなのです。

出典:国連広報センター

紛争や暴力が続く国・地域では、例えば人工呼吸器は、南スーダンは国全体で4器、シリア北部では11器に留まる(国際救済委員会 The International Rescue Committee:IRC調べ)。イエメンでは、MSFがアデンで運営する新型コロナウイルス感染症治療センターが同国南部で唯一の専門医療施設だ。

人材、物資、アクセスすべてにおいて脆弱な医療と、病気やけがの治療を受けられない患者さんや市民に、感染症がさらなる追い打ちをかけている。新型コロナウイルスは人を選ばないが、感染症から身を守ったり、治療を受けたりする機会と手段は、公平ではない。世界で拡大する感染症の流行も、止まない暴力の連鎖も、粘り強い国際社会の関与なくしては止められない。

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)

医療人道援助、国際保健政策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ。広島大学文学部卒、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻で修士・博士号(保健学)取得。同大学院国際保健政策学教室・客員研究員。㈱ベネッセコーポレーション、メディア・コンサルタントを経て、2018年まで特定非営利活動法人国境なき医師団(MSF)日本、広報マネージャー・編集長。担当書籍に、『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』(MSF日本著/合同出版)、『「国境なき医師団」を見に行く』(いとうせいこう著/講談社)、『みんながヒーロー: 新がたコロナウイルスなんかにまけないぞ!』(機関間常設委員会レファレンス・グループ)など。

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