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森保ジャパン「無秩序」の危機。久保のレアル・ソシエダ戦術はゲームチェンジャーになるか

小宮良之スポーツライター・小説家
森保監督が交代出場の久保に指示を与える(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 3月28日、大阪。コロンビア戦は、過去の森保ジャパンでも一番アナーキーなゲームだった。選手がいるべき場所、やるべきプレーが曖昧。結果、距離感は悪くなり、判断は遅れ、守備は混乱し、攻撃は効果的ではなかった。

 最後の15分間は、その極みだったと言える。トレーニングで試したことがない、4−4−2の中盤ダイヤモンド型が命じられたのもあるか。選手の多くが戸惑った。

 無秩序な戦いは、どこに行き着くのか?

森保ジャパンの不具合

 ウルグアイ戦に続いてコロンビア戦も、チーム、グループとしての形は見えてこなかった。「仕組み」や「チームデザイン」が見えない。コロンビアの方が、よほどプレーコンセプトが明瞭だった。

 カタールW杯後にリスタートした森保ジャパンは、「世代交代を図る」というのがエクスキューズだが、やはり異常事態と言える。吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹などベテラン選手たちが形成していた「仕組み」が消失した後、各選手のプレーに迷いがみられる。バックラインでは不必要な横パスが多く、それぞれのカバーは後手に回り、攻守に不具合が目立つ。

 連係はどこも“通信が断続的に切れる”状態だった。

 もっとも、偶発的に通信が繋がると、ビッグプレーに発展した。前半2分、バックラインからのロングパスをツートップで収めた後、守田英正がダイレクトでクロスをファーに送り、三笘薫が飛び込んで豪快にヘディングで決めたシーンは圧巻だった。選手の能力は非凡なのだろう。

 しかし、チームとしてペースを握ったのはコロンビアだった。

「W杯と親善試合は大会の規模が違い、選手の集中力も違うでしょう。W杯はコンディション面でも最高の準備で勝利のために挑めますが、親善試合はテストが目的。我々は日本のコレクティブなプレー上回ることができない場面もありました」

 コロンビアのネストル・アロンソ監督は、森保監督の立場を擁護していた。

 しかし、額面通りに受け取るべきではない。森保ジャパンがコロンビアの組織力に劣っていたのは明らかである。中盤のフィルターが全く効かない状況で攻められていた。危ないパスをいくつも通され、同点弾は必然だった。

 前半33分、右サイドはコロンビアのデイベル・マチャドの攻め上がりに悩まされており、菅原由勢は前半途中でイエローカードを受けていた。その直後、マチャドに守備ラインを突破され、カバーに入った板倉が振り切られると、マイナスのクロスを通される。そのコースを切るべきだった鎌田大地の帰陣は緩慢で、左足で叩き込まれた。

 チームとしての不具合の結果だ。

伊東、三笘、シュミット・ダニエル以外は・・・

 コロンビア戦で及第点を与えられるのは、シュミット・ダニエル、伊東純也、三笘の三人だけだろう。GKシュミット・ダニエルはファインセーブも見せ、健闘していた。つなぎのところで危ないシーンはあったが、そのスタイルのGKであれば折り込み済みだろう。伊東は守備面で強度を見せ、ドリブルからの突破でも脅威を与えていた。三笘はスーパーゴールだけでなく、一発のパスで怖さを見せたが…。

 三人では限界があった。

 左センターバックに入った伊藤洋輝のパスはテンポが遅く、板倉滉もそれに付き合うように横パスが多くなった。伊藤はウルグアイ戦は左サイドバックでも戦犯に近い。左サイドバックのバングーナガンデ佳史扶もビルドアップの出口になったり、攻撃の厚みを加えたりはできなかった。右サイドバックの菅原もウルグアイ戦から一転、この日は後手に回ることが多く、綻びになっていた。

 結果、ボランチの守田、鎌田も孤立。前線に入った西村拓真、町野修斗も先制点ではボールを収め、起点になったが、その後は相手のアンカーの選手にうまく消されていた。単純に局面で苦しかった。

 コロンビアは4-1-4-1のシステムをうまく運用し、ポジション的優位を作っている。前線の動きは変幻自在。8番は神出鬼没で、それに合わせて周りも動くことで、日本にダメージを与えていた。

 日本は時間が経つにつれ、プレスも弱まり、守備のスイッチも入れられなくなっていった。主導権を奪い返せない。押し込まれる時間が増えた。

 そして61分、ロングボールに瀬古歩夢が競り勝てず、カバーに入った板倉滉もあっさり抜かれる。シュートはどうにかシュミット・ダニエルがブロックも、エリア内のこぼれ球をバイシクルで決められた。

 日本は勝ち逃げを許すことになった。

鎌田の不調が物語る不安

 エースとしてチームを動かす役割が求められた鎌田は、攻撃の連続性を得られず、プレーが単発になった。右サイドに素晴らしいサイドチェンジのボールを展開しても、コントロールミス。どこかチグハグだった。そして守勢に回ったことで、同点にされたシーンでは、ボランチとして切るべきコースを切れていない。

 不調のチームのシンボルのようになってしまった。

「鎌田のボランチ起用は、戦いの選択肢を増やしたかったのはあります。所属クラブでプレーしているし、ドイツ戦でもやっているので」

 森保監督はそう説明している。

「ウルグアイ、コロンビア戦とスムーズに攻撃ができたとは言えない状況で。コンビネーションをあげる必要はあると思っています。ただ、リスタートで最初から全てうまくいくのは難しいので。理想は、自分の良さを出してもらうことですが」

 鎌田をボランチで起用したアイデアは悪くない。フランクフルトでもプレーしているポジションで、プレーメイクに能力の高さを見せるだけに、一つの選択肢だった。しかし能動的なプレーを見込むなら、前線の陣容から変更すべきで、噛み合わせが悪い。例えば、久保建英を近くに起用するべきで、久保のコンディションに問題があったなら、鎌田も後半途中からでよかったはずだ。

「自分たちがどこでボールを保持したいかが大事だと思うし、今は低い位置でボールを回していることが多く、相手にとってあまり怖さがない。前につける選択肢がある時は前につけるべきだと思うし、もう少し相手陣内の深い位置でボールを持てるのが理想かなと」

 鎌田の言葉だ。

 4−4−2をテストするなら、久保、鎌田を組ませてほしかった。

久保レアル・ソシエダの4-4-2の可能性

 では、この連戦からどのような展望があるのか?吉田、長友、酒井が形作っていたプレーが消失。代わるべきものは見えていない。

 だからこそ、森保監督は緊急的に久保が在籍するレアル・ソシエダと同じ4-4-2の中盤ダイヤモンド型を使ったのだろう。新しいコーチもコーチの経験はないに等しく、欧州で主力選手がプレーしているシステムを導入するしかない。そもそも、カタールW杯で突如として採用したのも鎌田が所属するフランクフルトのシステムに近かった(実際は森保監督の色が滲む、守りの比重が高すぎたが)。

 個人的には、たとえ思いつきだったとしても、今回使った4-4-2の中盤ダイヤモンド型を追求してほしい。(技術+スピード)×コンビネーションで機動力とひらめきを用いるシステムは、日本人選手のキャラに合っているからだ。

 レアル・ソシエダのプレーからも明らかなように、「つなぐ」に固執する戦術ではない。縦にもボールを入れるし、敵陣でのプレー時間を増やし、スペースを占拠し、そこに人が湧き出るようにして陣形を崩す。失ったら、攻撃を再開するためにボールに食らいつき、連続攻撃を仕掛けるコンセプトだ。

 そこで、ノッキングするポジションがあってはならない。

 有力な左利きのサイドバック、高さとポストワークに長けたストライカー、ボランチ的性格のアタッカーなど、最低3人は必要だろう。一人目は冨安健洋を推す。右利きだが、高いレベルで左足を使った左サイドバックをこなしている。二人目は、コロンビア戦も存在感を見せた上田綺世に任せたい。ポストは無骨だが、単純にゴールの予感があるし、強さ高さもある。そして三人目は、今回メンバー外になった旗手怜央がまさに適役。どのゾーンでもインテリジェンスを見せる。

 森保監督が、カオスの中からチームを組み直す覚悟があるなら、それも良しだろう。しかし、まずは公平に選手を選び(古橋亨梧、旗手、中村航輔が選ばれないのは明らかな違和感。また、所属クラブで1点の浅野がレギュラーで、14点の上田がサブというのは奇妙)、その良さを引き出すためにグループを構築するところから出発すべきだ。さもなければ、無秩序は崩壊につながる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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