Yahoo!ニュース

2013 総括ー“オッサン的働き方”が、ニッポンを潰す!

河合薫健康社会学者(Ph.D)

2013年は、日本の高度成長期を支えてきた“オッ様”たちの働き方が問われた一年だった。

「なんで最近のヤツラは残業が多いと、ウツだのなんだのってなるのかね。普通は仕事がたくさんあるとうれしいんじゃないのかね」

「昔は上司からの暴力なんて日常茶飯事だったけど、僕はその上司のことが嫌いじゃない。どちらかと言えば、好きだったですけどね」

「イクメンって言えばカッコいいけど、要は仕事でうだつが上がらないから、育児に逃げてるだけ。男は仕事ができてなんぼでしょ?」

これが、“オッ様的働き方”を美徳とする方たちのホンネだ。

そりゃ、オッ様たちが働き盛りだったときには、会社は「安心して働きなさい」と終身雇用してくれたし、「長く働いた分、お給料も役職も上げますよ」と年功序列で評価した。でも、そんなもんは過去の亡霊。会社が社員をまるで家族のように、大切にしてくれた時代はとっくに終焉を迎えている。

にもかかわらず、“オッ様的働き方”だけは、ゾンビのようにしぶとく残る。なんせ、女性たちにまで、「女性もリーダーにならなきゃダメ」「育児とキャリアを両立しなきゃダメ」のダメダメ攻撃で、“オッ様的働き方”を強要したのだ。

ホントは誰もが家族は大切だし、自分の時間だって欲しい。仕事だけを強要される人生より、自分らしい人生を歩みたい。そう思っているはずなのに、それができない。

上司の評価が下がる気がして残業してしまったり、フリーライダー呼ばわりされる気がして育休を取りたいのに我慢したり……。ストレスは溜まるばかりだ。

ブラック企業という言葉が広がった背景にも、そんな“オッ様的働き方”へのジレンマも潜んでいるのではあるまいか。

でも、なんでそんな不毛な働き方から、抜け出したいと願いながらも抜け出せない現実が存在するのか? 

不安が根底にある――。私は、そう考えている。

グローバル化が加速し、競争が激化する中では、誰もが「どうにかして自分を守りたい」と願うようになる。最高の保身術は、人は息を潜めること。

つまり、先行きが読めない不安定な状況化で、「群衆=オッ様 の中で息をひそめる」という、保身の最高の掟の罠に多くの人たちがはまっているのだ。

だって、下手に目立たてば厄介なことになりかねない。今あるポジションを失うような事態だけはどうにか避けたい。そんな思いがあるのだろう。

とはいえ、群衆に紛れて最低限の“安心”を手に入れても、何一つ問題は解決しない。むしろ、ますますストレスが溜まり、働くことがしんどくなる。

人間には自分の生き様をコントロールしたいという欲求、あるいはコントロールできる感覚を失いたくないという気持ちがあり、それができないとストレスの雨が降り注ぐのだ。

一般的には、「ワーク・ライフ・バランス」とは、仕事に費やす時間とプライベートに費やす時間を半々にすることと理解されているが、実際は違う。思いきり仕事にのめり込む時期があってもいいし、仕事以外のことに熱中する時間があってもいい。

家族も大切、自分の時間だって欲しい。仕事だって、やるからにはそれなりに頑張る。自分の能力だってできる限り発揮したい。

大事なのはその割合ではなく、その時間を自分でコントロールできる自由をもつことだ。

「自分でコントロールできる自由がある」という感覚を持てれば、職務満足感や人生の満足度も高まっていく。

そんな自由を認める空気が職場に漂うようになれば、その人の中に潜む内的な力を引き出され、企業の生産性を高められる。

つまり、企業のトップ、上司たちは、「悪しき伝統」の壁を越える勇気を持つことが、今のこの競争の激しい時代だからこそ、求められているのである。

私は、今年の初めに、「やりたいと思ったことは、やろう!」と決めた。ついつい仕事に追われ、自分の時間を持つことを躊躇したり、誰に叱られるわけでもないのに罪悪感を抱くことがあったで、それをやめようと決めたのだ。

結果的には、その目標は、半分できて、半分はできなかった。

でも、「自分でコントロールする自由」を持とうと決めた意義は、大きかったと思っている。

「一回しかない人生なんだから、仕事ばっかしてるのはもったいない!」と常に意識すると、ちょっとした隙間時間を見つけて、仕事から解放される自分がいた。週末を利用して思い切って遠くに旅することもあったし、会いたいと思った人には仕事の合間に会うようにもなった。余計忙しくなった? わからない。でも、自由になれた。明らかに去年より心に余裕があった。不思議だ。

「自分でコントロールする自由」が持てる社会を目指すのも大事だけれど、「自分でコントロールする自由」を持とうと自ら決意することも大切なのだ。

というわけで、本気で生き残りたいと思うのなら、2014年は上司や組織のせいばかりにするんじゃなく、群れを飛びだす勇気をお持ちください。

自分らしい生き方、働き方を手に入れるために……是非!

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

河合薫の最近の記事