ドラフト会議まで1週間!強肩強打の小山一樹(兵庫)は支配下指名に値する捕手だ≪2020ドラフト候補≫
あれから約1年―。今年もまもなく“あの日”がやってくる。
「NPBドラフト会議」。
昨年はその場で「兵庫ブルーサンダーズ・小山一樹」の名前がコールされることはなかった。悔しかった。とてつもなく悔しかった…。
帰宅し、すぐに自分の気持ちと向き合った。そして1枚の用紙にその思いをしたためた。と同時に、決意した。
「来年こそは必ずプロに行く!」と。
■去年よりも、去年よりも・・・
まず肩の完治に加え、自身がよりレベルアップしなければならないと考えた。(詳細は前回の記事⇒指名漏れの悔しさをバネに進化)
さらには技術面以外の精神的な部分や取り組み方なども大切にした。「去年よりもグラウンドに立ってるときに気合いが入ってるというか、集中している」とキッパリ言う。もちろん昨年がそうでなかったわけではないが、“より”という意味だ。
副キャプテンであり、正捕手でもあり、4番を張っていることから、責任感もより増した。
「今年は僕が(試合に)出て…っていう、やらないといけないという思いがあるので、去年よりも勝ちたいし、去年よりも0点に抑えたいっていう気持ちが強い」。
練習への入り方も変わった。
「早めに来て心の準備を整えて、体の準備もしっかりしている。そういうゆとりがある分、練習もいい取り組みができていると思う」。
実はこれ、井川慶投手(阪神タイガース―ニューヨーク・ヤンキース―オリックス・バファローズ―兵庫ブルーサンダーズ)の影響も大きいという。今季、1試合だけ非公式戦に登板した井川投手の行動を、つぶさに観察して唸った。
「自分が投げるって決まって、そこに向けての仕上げ方とかがすごいプロやなって感じた。当日も誰よりも早く来てストレッチしてたり、そういうところがすごく勉強になった」。
以来、それを見習って、これまでより早めに余裕をもって準備するようにしている。
「やっぱり去年のドラフトがあって、レベルアップしないといけないという思いがあるので、原点はそこ。そこから練習とか試合にも全部つながってると思う。グラウンドにいる間は隙がないようにしたいし、その間は無駄にしたくないから」。
練習メニュー自体に大幅な変化はないが、「気持ち的に『去年よりも』『去年よりも』っていう思いがある」と語る。
「去年のドラフトから、絶対にプロに行きたいという思いがより強くなって、時間だったり取り組み方だったり、1球に対する姿勢はすごく大事にしている。自分が意識しないうちにできるようになっているかなと思う」。
なぜ、なんのためにやっているのか―。原点が明確だから、思いが行動に表れる。
■上武大での習慣を取り入れている
さらには昨年から継続している“あること”にも変化が表れている。
小山選手はブルーサンダーズに入団してから毎日、その日に取り組んだことや感じたことなどを書き記してきた。いつでもすぐに書き込めて、すぐに見ることができるように、ノートではなくスマートフォンのメモ機能を使用している。
「一日たりとも無駄にしたくないなという思いがすごくあって、そのためには頭だけとか、その日の感覚だけじゃ物足りないと思って。書き残したら振り返ることができるんで」。
そのルーツは大学時代に遡る。上武大学では専用のアプリを使って、野球部全員が定められた項目に従って書き込むのが毎日の決まりだった。
「その日の天気からはじまって名前、体調、モチベーションを数字で表したりとか。最後に自分が思ったことを書いていた」。
とはいえ当時は18歳の学生だ。「正直言うと、やらないといけないからやってたみたいな、適当にやってたところがあった」と、“やらされていた感”があったことを明かす。
「でも、そんな感じでやってても、見返すと『あのとき、こういう気持ちで練習してたんやな』とか、やっててよかったな、残してたら便利やなと思えて。それで、一日を振り返ってもっと真剣に書いたら、もっと自分に役立つんじゃないかなと、そういう思いで始めた」。
そこで兵庫ブルーサンダーズに入団後の昨年1月28日、自主練習が終わって合同練習に入った日から自主的に書くことにした。練習日、試合日問わず書いてきた。
「基本は練習メニューに沿って、その日に取り組んでいることやバッティングでの新たな感覚とか変化とか、コーチに教わったこととか全部。バッティングでよかったときは『バッティング心得』というのも。あとは思ったこと、感じたことを素直に書いている。大事やなって思ったことは線を引いたりして」。
■「小山メモ」にも表れる昨年との違い
ただ、今年書いていることは明らかに昨年とは違う。内容が濃く、長い。自身で設けた項目も多くなった。昨年より意識も高くなり、思うことや感じることが増えているからだ。
そして書いたことをしょっちゅう見返しては、その後に生かしている。
「試合でこのピッチャーと組んで『こうすればよかった』と思ったことも書いて、次の試合では同じ失敗を繰り返さないようにとか、違う方向で試合を作っていこうというふうに利用している」。
「書くこと」自体が目的ではないので、「書かねばならない」と自身を追い詰めないようにはしているという。
「ふと気づいたときとか、お風呂で湯船に浸かっている間とか、そういう隙間に書くことが多い。できるときに振り返って書いている」。
だからノートにペンで書くより、スマホのメモに書くほうが便利がいいのだ。
「去年よりレベルアップしたいという思いが強いので、より1球でとらえるつもりでやってるけど、それでもNPBとの試合でもまだまだ全然足りないと感じた。そういう経験をすることによって、去年よりも文が長くなって、その分、1球とか1分1秒を大切にできるようになったんじゃないかなと思う」。
1球、1分1秒…昨年も大事に取り組んできたが、やはり今年はそれ以上だ。情熱も意気込みもグレードアップしている。それが、今年のメモにも如実に表れているのだ。
もちろん、昨年のドラフトの日も書いた。「指名漏れ」と題し、先述したA4の用紙とともにスマホにも。そこに記されたあの日の思いは、いついかなるときでも自身を突き動かしてくれる。
■目標となる選手像は森友哉選手
昨年と違うのは、選手プロフィールからも窺える。昨年は“憧れの選手”の項目が空欄だった。しかし今年は「森友哉選手」(埼玉西武ライオンズ)と明記した。
「去年、成績がすごかった。首位打者もMVPも獲って。より『打てるキャッチャー、かっこいいなぁ』という思いで、今年は森選手の名前を書いた」。
トレーニングやアルバイトなどもあり、リアルタイムで試合を見るのは難しいが、動画サイトなどをよく見て、すべての動きを観察しているという。
「森選手といったら、やっぱりスローイング。肩で魅了できる選手。僕も『このキャッチャーやったら走られんぞ』って思わせるくらいの、肩だけでその場を『おおっ!』と言わせるくらいのキャッチャーになりたいという思いがあるから」。
これまでは尋ねても名前が挙がらなかったのが、なぜ今年は具体名が出てきたのか。
それはこういうことだ。じっくり取り組んできたリハビリが奏功し、完治した肩が武器として機能してくれている。「打てて、肩で魅せられる」という自身の目指すべき選手像が明確になったからだ。そして、それを体現しているのが森選手なのだ。
そもそも小学生のころ、「思いっきり盗塁を刺すのが魅力的」と憧れたのがキャッチャーというポジションだった。(詳細は昨年の記事⇒キャッチャーをやりたい)
なんとしてもキャッチャーがやりたいと渇望し、その思いがここまで自身を支えてきてくれたのだから。
勝たせる、ピッチャーを活かす、チームを牽引する…それらは当然の前提として、小山選手が描く青写真は「お客さんが『肩を見たい』と来てくれるような、スローイングで魅了できるキャッチャー」だ。
加えて「元気とか、溌溂としたプレーを見せられる選手になりたい」と、笑顔を輝かせる。
■ライバルの存在
そんな小山選手には、絶対に負けたくない相手がいる。上武大時代のチームメイトであり、同じポジションの古川裕大選手だ。
当時は違う班だったため、練習で一緒になることはなかったが、野球を離れたプライベートではとても仲のいい友人として今も親交は続いている。好敵手だけに負けるわけにいかない。
「同じポジションだし同い年だし、絶対に負けたくない。古川には言ってないけど、心の中では(笑)」。
相手の能力の高さを認めているからこそ、強い対抗心を燃やす。そして今後、お互いにプロの世界に入って切磋琢磨していくことが願いでもある。
■10月26日、運命の日を待つ
昨年のカレンダーには、10月17日の欄に丸で囲んで「人生が変わる日」と書き込んでいた。あの日の悔しさを忘れないよう、思いをしたためた用紙とともに部屋の、常に目につく場所に今も掛けてある。
今年のカレンダーの“その日”には、シンプルに「ドラフト会議」とだけ記した。
やれることはすべてやってきた。
完治した肩は誰にも負けない自信がある。打撃もずば抜けた数字を残している。正捕手として、副キャプテンとして、投手陣を牽引し、チームをまとめてきた。
これまで、独立リーグの選手の指名は「育成でも」という傾向があった。しかし、小山一樹はモノが違う。十分に支配下で指名する価値のある捕手である。
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)
【小山 一樹(こやま かずき)*プロフィール】
1998年12月16日生(21歳)/兵庫県出身
180cm・85kg/右投右打/O型
済美高校→上武大学→兵庫ブルーサンダーズ(2019~)
【小山一樹*2020年成績】(10月19日現在)
打率.453 出塁率.538 長打率.563 OPS1.101 得点圏打率.368
試合数18 打数64 安打29 四死球13 三振6
(リーグおよび球団の公式記録、公式成績が公表されていないため、筆者の計算によるもの)
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