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ロシア軍はトーチカU弾道ミサイルをまだ保有している

JSF軍事/生き物ライター
2022年4月8日、ウクライナのクラマトルスク。トーチカU弾道ミサイルの残骸(写真:ロイター/アフロ)

 ロシア軍はトーチカU短距離弾道ミサイルを未だに保有しており実戦で使い続けています。本来ならばロシア国防省の帳簿上では2019年12月までにイスカンデル短距離弾道ミサイルへ更新済みで、計画が遅れながらも2022年1月に第47ロケット旅団がイスカンデルに更新されて、トーチカUは退役済みとなっている筈でした。

 しかしロシア軍によってトーチカUが未だに現役で使用されていることは、複数の報告例があります。先ず思い出していただきたいのですが、ロシアによるウクライナ侵攻の開戦当日である2022年2月24日にロシア軍によるトーチカUの使用があったと、国際人権団体HRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)が報告しています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、入手した写真に基づき、この兵器の残骸が9M79型トーチカ弾道ミサイルに搭載された9N123クラスター弾のノーズコーンとレーダー高度計アンテナであると特定した。このクラスター弾には、9N24小型弾頭が50個入っている。この弾頭を生産するロシア企業によると、各子弾にはそれぞれ1.45kgの爆発物を含んでおり、約316個の均一な大きさの破片に砕ける。

出典 | ウクライナ:ロシアがクラスター弾で病院を攻撃 | ヒューマンライツウォッチ(2022年2月25日) ※日本語版

Ukraine: Russian Cluster Munition Hits Hospital | Human Rights Watch (February 25, 2022) ※英語版

 開戦当日のHRWの報告はトーチカU短距離弾道ミサイルの部品の証拠写真付きです。9N123クラスター弾頭のノーズコーン部分です。ロシア軍は開戦当日に既にトーチカUを使用しています。

 トーチカUはロシア軍とウクライナ軍の双方が使用しているミサイルです。このミサイルはクラスター弾頭型は子弾を放出すると親弾(子弾収納スペースの芯とロケット推進部分)の残骸が丸ごと落ちて来ます。この残骸は不発弾ではないので必ず残ることになり、戦場で頻繁に見掛けることになります。

 こうしてお互いがこの残骸を利用して「相手が撃ったミサイルだ」とプロパガンダの宣伝戦を行う可能性があるのですが、ただしロシア側の言う「ロシア軍はトーチカUを装備していない」という主張は虚偽であり、ロシア正規軍あるいはドネツク人民共和国/ルガンスク人民共和国の軍隊がトーチカUを保有しているのはほぼ間違いありません。

 何処の国の軍隊でも、退役した兵器を暫く予備役扱いで保管しておくのは普通に行われていることです。ましてや戦争が目前に迫っているというなら、あるいは戦争中だというなら、使える弾薬類を急いで廃棄する理由がありません。

ロシア軍(露軍)とウクライナ軍(宇軍)の使用ミサイル

  • トーチカU短距離弾道ミサイル・・・露軍と宇軍の双方が使用
  • イスカンデル短距離弾道ミサイル・・・露軍のみ使用
  • フリム2短距離弾道ミサイル・・・宇軍(開発が間に合わず未使用)
  • スメルチ多連装ロケット・・・露軍と宇軍の双方が使用
  • ウラガン多連装ロケット・・・露軍と宇軍の双方が使用
  • グラド多連装ロケット・・・露軍と宇軍の双方が使用
  • カリブル巡航ミサイル・・・露軍のみ使用
  • オーニクス巡航ミサイル・・・露軍のみ使用
  • 9M728巡航ミサイル・・・露軍のみ使用
  • Kh-101巡航ミサイル・・・露軍のみ使用
  • Kh-555巡航ミサイル・・・露軍のみ使用
  • Kh-31P対レーダーミサイル・・・露軍のみ使用
  • キンジャール極超音速ミサイル・・・露軍のみ使用

※ソ連時代の古い装備が両軍の共通となっています。

※対地攻撃に使用された主なミサイルのリストです。

追記:2022年7月17日 ロシア軍によるトーチカU使用の証拠

しかし、元ロシア軍幹部でウクライナ東部の親ロ派武装勢力を率いていたイゴール・ガーキン氏は12日、ロシア軍がウクライナに対して短距離弾道ミサイル「トーチカU」を使用していることに言及し、意図せずロシア政府の「嘘」を証明してしまったようだ。

出典:ロシアの「嘘」がバレた動画...やはり問題のクラスター弾搭載ミサイル配備していた | ニューズウィーク日本版(2022年7月15日)

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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