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「安倍氏国葬儀」企画演出業務発注で、内閣府職員に「競売入札妨害罪」成立の可能性

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
安倍元首相国葬が執り行われる日本武道館(写真:イメージマート)

安倍晋三・元首相の国葬儀の会場設営費(約2億5000万円)の大部分を占める企画演出業務の入札で、大手イベント会社「ムラヤマ」が、一者入札で1億7600万円で落札したことに関して、NEWSポストセブンの記事《【入手】安倍氏国葬の入札に出来レース疑惑 受注した日テレ系1社しか応募できない「条件」だった 44枚の入札説明書で判明》で、「官製談合」の疑いが指摘されている。

同社は、安倍内閣時代に首相主催の「桜を見る会」を5年連続で落札、2017~2019年の会では、入札前に同社と内閣府の担当者が打ち合わせをしていたことが発覚し、野党から「官製談合」と追及されたことがあった。

9月2日に行われた国葬の業者選定の一般競争入札が一者入札となったことについて、野党側が

「事実上の随意契約」

「政府が便宜を図ったのではないか」

と批判したのに対して、岸田首相は、

「武道館でこうした事業を担うことができる業者というのは、4社ほどに限られている」

「入札が行なわれた結果としてこの会社が落札した」

「当該会社の経営についても、今年から変わっている」

と説明したとのことだ。

同記事によると、同業務の入札説明書と関連資料を入手し、内容を精査したところ、その中に、事実上、ムラヤマ1社しか入札できないような、「履行体制証明書を提出し、審査の結果入札参加を認められた者であること」という条件がつけられていたとのことだ。

国葬の仕様書には、式壇など会場の設営から、折りたたみ椅子や車椅子、急患用の簡易ベッド、布団セットなどの必要な備品と数量、要人のセキュリティ確保、国葬儀の企画演出、ビデオなどの記録作成についての要件が細かく決められており、「履行体制証明書」はそうした国葬を準備し、履行できることを証明するもので、入札説明書に添付された「履行体制証明書」のフォーマットには、

〈日本武道館内の設備等を速やかに確認できる指定業者のスタッフを確保し得ること〉

〈警備業法第4条の規定による警備業の認可を受けていることの証明〉

などと並んで、

〈過去5年以内に、皇族、内閣総理大臣、衆・参両院議長及び最高裁判所長官の全て又はこれと同等の出席があった式典等(要人等を含む1,000人以上が出席)における当該業務に類似する業務(企画・演出及び警備)を行った実績(1回以上)について〉

というような記載が求められており、入札するためには、過去5年以内に国家的な式典の企画・演出、警備を行った実績が必要とされている。

同記事では、

「この規定で、国葬の入札には、事実上、ムラヤマしか参加できなくなったと見ていい。」

としている。

このような場合、仮に、内閣府側が、最初から、ムラヤマに受注させようと考えて、他の業者が受注できない条件設定をしたとすれば、「入札等の公正を害すべき行為」に該当し、公契約関係競売入札妨害罪等と官製談合防止法8条違反(以下、「競売入札妨害罪等」)が成立する可能性がある。

入札における条件設定が、特定の業者にとって当該入札を有利にする目的で行われたということで競売入札妨害罪等の成立が認められた事例として、大阪地検特捜部が、国立循環器病研究センター医療情報部長を同罪と官製談合防止法違反とで逮捕・起訴した「国循官製談合事件」がある。

同事件で、被告人の医療情報部長が行った入札の条件設定が、競売入札妨害罪等に該当すると認めた一審判決は、検察の主張を「丸呑み」し、一般論として、

特定の業者にとって当該入札を有利にし、又は、特定の業者にとって当該入札を不利にする目的をもって、現にそのような効果を生じさせ得る仕様書の条項が作成されたのであれば、当該条項が調達の目的達成に不可欠であるという事情のない限り、「公の入札等の公正を害する行為」に該当する

と判示していた。

控訴審判決(令和元年7月30日大阪高裁)も、

公契約においても、入札担当者等が、入札によって、より高度でより良いものの獲得を目指し、それを可能にする仕様書の条項を設定することは当然許容されるものと解される。しかし、競争入札として行われている以上、そのような中でも不必要な参入障壁を設けないよう注意し、可能な限り自由な競争を確保することが求められる。それにもかかわらず、特定の業者に有利にする目的で、他の業者の参入障壁となる条項を設定したり、特定の業者を殊更に排除する目的で、当該事業者の参入障壁となる条項を設定したりすることは、本来は可能である自由な競争を殊更に阻害するものであるから違法であり、職務違背に当たることも明白で、入札等の公正を害すべき行為に当たる。

と判示して、一審判決の一般論を肯定し、同罪の成立を認めた。

同事件で控訴審の弁護を担当した私は、

一審判決は、入札の条件設定による同罪の成立のハードルを不当に下げるもので、そのまま「司法判断」として確定すれば、同種の入札の実務における「犯罪の成立の範囲」を不当に拡大することになり、大きな影響を与えかねない

と主張したが、控訴審判決は、一審判決の判断を是認する判決を出した。同判決は、上告棄却で確定しており、上記のような入札の条件設定による競売入札妨害罪等の成立についての一般論が「司法判断」として確定した。

この裁判例からすると、今回の安倍元首相の国葬儀の企画演出業務の入札で、内閣府側が、ムラヤマに受注させたいとの意向を持ち、ムラヤマの受注に有利になるとの認識の下に、上記の条件設定を行った場合には、「当該条件設定が調達の目的達成に不可欠であるという事情」がない限り、「公の入札等の公正を害する行為」に該当し、競売入札妨害罪等が成立することになる。

国葬という国家的大規模イベントを盛り上げる演出を行うためには、過去に同様の国家的プロジェクトでの同種業務の実施経験があることが望ましいというのは理解できる。しかし、果たして、そのような条件設定が「不可欠」と言えるのか。

国循官製談合事件では、国循のNCVCネットワーク運用・保守業務について①「病床数500床以上」、②「複数の医療機関での」、③「病院情報システムでの仮想化構築経験」を要求したことついて、被告人は、以下のように説明していた。

仮想化構築実績を重視した理由は、2008年1月に、鳥取大学医学部附属病院において利用者の利便性向上とシステムセキュリティ向上を目的として仮想化システムの導入を行った際の経験による。その導入過程で、仮想化していない状況だと何の問題もなく動いているようなアプリケーションが、実際に使う段になると、障害が出るということを何度も経験し、非常に苦労したことから、技術者が、実際の医療現場でアプリケーションがどのように使われるかという病院での実務運用をよく知っていることが重要だという教訓を得たことから、国循においても、そのような障害に適切に対処するために仮想化に関する経験が重要と考えた。

もう一つは、ナショナルセンターとして医療の先端を行く国循においては「臨床研究」の推進が重要であり、臨床研究に必要とされる仮想化システムをきちんと稼働させる必要があった。そこで、2011年9月に国循に着任した後、鳥取大学時代に「シンクライアントの構築に非常に苦労した」経験に基づき、必要な経験を有する技術者として、Thin-Client Computing(仮想化システム)の経験が豊富な技術者を求めた。

被告人が説明する上記条件設定の理由は、十分に合理的なものだ。

ところが、控訴審判決は、

病院情報システムの仮想化構築の実績が多くない中で、一定の病床数を求めた上で、複数回の構築経験を現実に有する技術者の手配を求めることは、運用保守能力を確保する手法として過剰であることは否定できず、少なくとも、仮想化構築実績の対象を「病床数500床以上の複数の病院の病院情報システム」に限定した点が不可欠ではないとした原判決の認定に誤りはない。

と言って、このような条件設定は「不可欠ではない」として競売入札妨害罪等の成立を認めたのである。

このような控訴審判決の判断が、既に最高裁で確定しているのである。それを、国葬の企画演出業務の入札に当てはめた場合、

「過去5年以内に、皇族、内閣総理大臣、衆・参両院議長及び最高裁判所長官の全て又はこれと同等の出席があった式典等(要人等を含む1,000人以上が出席)における当該業務に類似する業務(企画・演出及び警備)を行った実績」

を求め、しかも、国葬を準備し、履行できることを証明する「履行体制証明書」の提出まで求めるというのは、企画演出業務実施の「能力を確保する手法として過剰であることは否定できず」ということになる。

発注者の内閣府側が、安倍元首相の国葬の企画演出を、少しでも質の高いものにしようという「正当な目的」で条件を設定したとしても、そのことは、上記裁判例からすると、犯罪成立を否定する理由にはならない。

競争入札として行われている以上、「入札担当者等が、入札によって、より高度でより良いものの獲得を目指し、それを可能にする仕様書の条項を設定する」中で行うのであっても、「特定の業者に有利にする目的で、他の業者の参入障壁となる条項を設定したり、特定の業者を殊更に排除する目的で、当該事業者の参入障壁となる条項を設定したりすることは、本来は可能である自由な競争を殊更に阻害するものであるから違法」ということになるのである。

上記有罪判決を受けた被告人の医療情報部長は、その就任前まで、国循の情報システムに関する業務はN社がほぼ独占し、高い価格で非効率な業務が行われていたことから、情報システムに関する発注では、業務の内容を熟知している既存業者が圧倒的に優位な立場にあるN社と他社との競争条件を対等にし、新規参入を可能にしようとしていたものだった。

一審判決も、

「国立循環器病研究センターを含め、本件に至るまで病院における情報システムの責任者として、職務に精励し、相当に高い評価を得ていた」

「本件各犯行の結果、納入されたシステムそれ自体は調達機関で相応の評価を受けており、明確に濫費に繋がった事案とは異なる」

と判示している。

しかし、そのように発注者側の目的が正当であっても、上記の要件に該当する場合には、「入札等の公正を害すべき行為」に該当し、犯罪が成立するということなのである。

今回の国葬の企画演出業務の入札において、「履行体制証明書を提出し、審査の結果入札参加を認められた者であること」という条件がつけられたことに関して、「調達の目的達成に不可欠であるという事情」があるとは思えない。上記高裁判決を前提にすれば、競売入札妨害罪等に問われる可能性が否定できない

もちろん、内閣府の担当者側にも言い分はあるだろう。

大規模イベントの企画演出業務というのは、本来、価格だけの競争ではなく、その業務の品質による競争の方に重要性があり、企画競争やプロポーザル方式で業者選定行うか、総合評価方式で発注することに適した案件だったはずだ。

このような「品質重視」の選定を行う場合には、第三者性・客観性を有する選定手続が必要となる。国葬の実施までの期間が短期間だったために、そのような方法がとり得ず、やむなく、一般競争入札で発注したということかもしれない。

その結果、犯罪に該当するような入札の条件設定をせざるを得なかった、他に方法がなかったということであれば、そもそも、今回の「国葬儀」の企画演出業務の発注を適法な手続で発注することが困難だったということだ。

「統一教会問題」も絡んで安倍元首相への評価が厳しいものとなり、国民の「分断」「対立」が一層深まる中、岸田政権が強行しようとしている「国葬儀」によって、首相の直属の部下である内閣府職員に競売入札妨害の犯罪の疑いまで生じさせているのである。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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