北海道「石北本線」寸断で垣間見えた鉄道迂回ルートの必要性 池北線復活はあってもよいかもしれない
2023年8月7日の大雨の影響で線路の土台となる土砂が流出し、上川―白滝間で不通が続いていたJR北海道の石北本線が8月21日に復旧し、同区間を経由する札幌・旭川―網走間の特急列車のほか、貨物列車の運転が再開される。
繁忙期のお盆シーズンを直撃
2週間の石北本線の運休は、お盆期間の帰省ラッシュを直撃した。札幌・旭川―北見・網走間の都市間輸送を確保するための、JR北海道は旭川―北見間の間に高速道路経由の直行便の代行バス2往復と、途中の主要駅に停車する代行バス2往復を設定。旭川―北見間の所要時間は、直行便で3時間10分。途中停車便で4時間5分となった。旭川から北見に向かう代行バスは、10時20分と15時40分に直行便と途中駅停車便のバスが同時に発車することから、事実上の2往復の設定だ。
鉄道・交通政策に詳しい北海道教育大学札幌校の武田泉准教授は、8月11日に実際に代替バスに乗車し、このときの様子を次のように語る。「この日の代行バスは全6台で運行。バスは道北バス、旭川観光バス、士別軌道バス、北見観光バス、網走観光交通からかき集めた印象で、高速道路を隊列走行。主要駅停車便のバスは1台のみで、途中の上川層雲峡インターで隊列から離れていった」。
通常であれば、札幌から網走までは特急列車で5時間20分前後の所要時間であるが、旭川―北見間の直行便の代替バス利用でも7時間程度と大幅に所要時間が伸び、利用客の混乱を招く結果となった。
影響は、札幌―北見・網走間の都市間輸送にとどまらず、東急が北海道で運行する豪華列車ザ・ロイヤルエクスプレス北海道の運行にも及んだ。8月7日に北見駅に取り残されたザ・ロイヤルエクスプレスはそのまま運行打ち切りとなり、その後、網走・釧路経由で札幌まで返却回送されている。
タマネギ輸送の貨物列車にも影響
JR貨物では、8月16日から北見産のタマネギを運ぶ臨時貨物列車の運行を開始する予定だったが、石北本線の運休によりトラックによる代行輸送を開始した。
地元新聞では、「1日1往復の貨物列車をトラックで代替輸送すると、約20台のトレーラーが新たに必要になるといい、こうした事態が長期化すると運転手の確保に影響がでる可能性がある」と報道された。
浮き彫りになった鉄道代替ルートの必要性
こうした事態から浮き彫りとなるのは、網走・北見方面と札幌方面を結ぶ鉄道代替ルートの必要性だ。2006年までは石北本線北見駅と根室本線池田駅間の140.0kmに第三セクター鉄道の北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線が運行されていた。ふるさと銀河線が存続していれば、特急列車やザ・ロイヤルエクスプレス北海道の迂回ルートだけではなく、貨物列車の迂回ルートとしての可能性も考えられたことから、活用次第では、混乱は最小限に抑えることができたと考えられる。
この路線は、もともとは国鉄池北線で国鉄時代に廃止対象路線とされたものを国鉄分割民営化後の1989年に第三セクター鉄道として存続したものだった。池北線の開業は1910年と古く、当時の名称は網走本線で池田―北見―網走間を結ぶ幹線の一部だった。1932年に新旭川―北見間を結ぶ石北線が開業すると、道央圏と北見・網走を結ぶメインルートをこちらに譲ることになった。
ちほく高原鉄道現役時代には、同路線を経由して札幌と北見方面を結ぶ特急銀河オホーツク号の運行が構想されていたこともあり、当時、北海道内の特急列車の主力車両であったキハ183系気動車の方向幕には「特急銀河オホーツク ちほく高原鉄道 陸別」「特急銀河オホーツク 北見(ちほく高原鉄道経由)」「特急銀河オホーツク 池田(ちほく高原鉄道経由)」 という行先が収録されていた。
例えば、新潟県のえちごトキめき鉄道はねうまライン(直江津―妙高高原間)と長野県のしなの鉄道北しなの線(妙高高原―長野間)では、首都圏や名古屋方面から長野方面への貨物列車のメインルートとなっている中央本線が被災した時に備えて、貨物列車の迂回運転ができるように整備がされている。これは、自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態に備えて被害を最小限にとどめておくためのBCP(事業継続計画)や、国家のリスク分散の観点からも必要な備えであるという。
北海道においても、食料安全保障の面からも国家としてのリスク分散という観点から鉄道ネットワークの重要性について議論がなされ、必要な路線については相応の財源を手当てした上で再整備がなされるという考え方があってもよいのではないだろうか。
(了)