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コロナ禍で威力を発揮、「全戸宅配ロッカー付き」マンションの注目度がにわかに上昇中

櫻井幸雄住宅評論家
従来の宅配ロッカーは設置数が限られ、すべて使用中になることが多かった。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 コロナ禍による外出自粛やステイホームが広まって以降、「設置してあって、よかった」と喜びの声が高まっている共用施設がある。

 それは、宅配ロッカー。それも、マンション住戸すべてに一つずつ設置された「全戸宅配ロッカー付き」だ。

従来の宅配ロッカーは、すぐ満杯になってしまうが……

 宅配ロッカーは宅配ボックスとも呼ばれ、留守中に届いた宅配便を収める鍵付きの箱である。

 宅配ロッカーをマンションに備えるケースは以前から多い。

 留守中に届いた荷物を宅配業者がロッカーに収め、郵便受けに荷物を収めたことを知らせる通知を入れる、受取人は、帰宅してから通知に書かれた暗証番号でロッカーを開けて荷物を受け取る、というのが基本的な操作方法だ(現在は、ICカードなどを使う利用方法もある)。

 マンションの入り口部分、集合郵便受けの横などに宅配ロッカーが設置され、昼間留守にすることが多い家庭にはうれしい設備である。

 ところが、近年、宅配される荷物の増加で、「宅配ロッカーがすべて使用中」となるケースが増えてしまった。そこで、国土交通省が宅配ロッカーの設置数を増やしやすくするため、宅配ロッカー設置部分の容積率不算入を決めたのが、2017年の11月。これにより、多くの宅配ロッカーが設置できるようになった。

 この規制緩和を受け、分譲マンションに登場したのが、「全戸宅配ロッカー付き」という新工夫。郵便受けのように、1戸に1個ずつ宅配ロッカーがつく仕組みである。

 不動産会社各社は、2018年から「全戸宅配ロッカー付き」のマンションを販売開始。その便利なマンションが完成し、入居できるようになったのが、2019年から2020年にかけて。まさに、コロナ禍によるステイホームが始まる直前に、「全戸宅配ロッカー付きマンション」の生活が始まったのである。

コロナ禍で、全戸宅配ロッカー付きが威力を発揮

 結論からお知らせすると、今回のコロナ禍で「全戸宅配ロッカー付き」は存分に威力を発揮した。

 コロナ禍で宅配物が増えたので、住戸数の1、2割しか設置していない宅配ロッカーは早々に満杯になり、利用不可となるケースが続出した。せっかく宅配ロッカーがあっても、役に立たなかったのである。

 その点、全戸宅配ロッカー付きマンションは自前の宅配ロッカーがあるので、長期間留守にしない限り、受け取り可能。しかも、全戸に設置される宅配ロッカーは、大型になっていることが多い。ゴルフのキャディバッグを宅配で受け取り、さらに、棚で区切った別のスペースにもうひとつダンボール箱の荷物を受け取ることができるくらい広いものもある。

 余裕で留守中に届いた荷物を受け取り続けたのだ。

 さらに、昨今、問題になっている置き配による盗難被害も防ぐことができる。コロナ禍の今だからこそ、「あってよかった」と喜ぶ人が多いわけだ。

全戸宅配ロッカー付きの仕組みを解説

 ここまで読んで、「全戸宅配ロッカー付きマンション」に興味を持った方のために、その仕組みを解説したい。

 全戸に宅配ロッカーを設置する方法はマンションによって異なる。

 マンション全体の入り口にあたるエントランスに全戸分の宅配ロッカーを備えるマンションがあるし、各住戸の玄関そばに宅配ロッカーを配置するケースもある。

 各住戸のそばに宅配ロッカーがあったほうが便利だが、その場合、宅配業者の館内立ち入りをどのような方法にすればよいか、が問題になる。

 現状、各住戸の玄関横に宅配ロッカーを設置する場合、2つの方法が採用されている。

 ひとつは、インターホンIoTシステムを活用し、スマホでオートロックを解除する方法だ。

 まず、留守中に宅配業者がエントランスのインターホンを押すと、外出先のスマホで応えることができる。

 居住者は宅配業者の顔や姿をスマホで確認して、スマホでマンションのオートロックを解除する。これで、宅配業者はマンション内に入ることができ、住戸の玄関横にある宅配ロッカーに荷物を収める。

 非常に賢い方法だが、問題は、就業中、私用の電話に出ることができない人がいること。宅配業者からの連絡がスマホにきても「ただいま、電話に出ることができません」となれば、このシステムは活用できない。

 その短所を解消するのが、ICカードを活用する仕組みだ。

 特定の宅配業者(ヤマト、佐川急便、日本郵便など)にオートロックを通過できるICカードを渡し、留守中であってもオートロックを通過できるようにする(時間制限があり、深夜などは入館できない)。

 荷物を運び込んだ宅配業者は、各住戸の玄関前に設置された宅配ロッカーにICカードをかざす。これで扉が開き、宅配ロッカー内に荷物を収め、扉を閉めれば配達完了となる。

 この場合、居住者との電話のやりとりが不要。指定された宅配業者であれば、勝手にマンション内に入り、勝手に荷物を収めて配達完了となる。

 ただし、この方式では、長期の旅行中でも宅配物を収められてしまうことがある。それが食品であれば、大変なことになりそうだ。

 どちらの方式がより便利なのか。もっと便利な新方式が生み出されるのか。まだ検証の余地は多そうだが、「全戸宅配ロッカー付き」は、マンション生活において非常に有効であることが、今回のコロナ禍で実証された。

 今後、全戸宅配ロッカー付きのマンションは、全国で確実に増えてゆくことになるだろう。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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