それパクいよいよ最終回第10回目の簡単な法的解説と感想を書いていきます。未見の方にはネタバレになりますのでご注意下さい。

第10回目のネタは、第1回と同じ冒認出願（盗用した情報に基づく特許出願）でした。ハッピースマイルビバレッジが月夜野ドリンクの機密情報を盗用して冒認出願で特許取得し、月夜野に対して権利行使し、月夜野は情報盗用の証拠を見つけ出して、交渉し、ハッピースマイルに特許権を無償譲渡させるという流れはまったく一緒でした。今回は特許権侵害訴訟まで行った点が違いますが。

ネタの使い回しかあと思いましたが、よくよく考えてみると、第1回で冒認出願とはこういうものであると視聴者に説明しておいた上で、最終回の大ネタに持っていった方が親切ではありますね。

この手の専門分野を扱うドラマでありがちですが、「実は分割出願という方法がありますのでそれを使います」「こういった場合は官能評価を行えばよいのでそうします」と重要概念が後出しで急に出てきて問題解決されると、視聴者としては、あたかも自分がルールを知らないスポーツの試合を見せられているように感じてしまうでしょう。

ところで、弁理士も特許権侵害訴訟を代理できるという話がありましたが、これは、弁理士が所定の試験に合格して付記弁理士という資格を得た場合だけです。重岡大毅さんも田辺誠一さんも付記弁理士だったんですね。ただし、付記弁理士が訴訟代理できるのは、別途、弁護士が代理人になっていることが前提です。口頭弁論のシーンで、バッジを付けた見たことない人がいましたが、それがその弁護士です。

口頭弁論のシーンで、重岡さんが、クレームで記述した温度範囲と月夜野が実施している製法の温度範囲が異なるので特許権を侵害していないと主張したのに対して、田辺誠一さんが「それは屁理屈だ」と主張していましたが、これは、別に屁理屈でも何でもなく、特許権侵害訴訟の充足論（侵害か非侵害かを争う局面）における普通の主張です。この場合であればどう見ても非侵害です。充足論では本質的でない相違はないものとして扱うという均等論という考え方があります（大雑把な説明です）が、それを視聴者にわかりやすく説明したつもりだったのかもしれませんが。

なお、仮に、冒認出願を立証して、ハッピースマイルの特許権を無効にしてしまうと、その発明は誰もが実施できる状態になり、しかも、発明の内容も特許公報で公開されてしまっているので、月夜野にとって非常にまずいことになってしまうのですが、交渉による特許権の無償譲渡で解決したのでこの問題はなくなりました。まさか、第1回とまったく同じパターンは使わないだろうと思わせておいて、使ったのでそういう意味では意表を突いたとも言えますが。ただ、月夜野が出願していれば取り込めるはずだった様々なバリエーションが特許公報に反映されなかった（後から追加することは不可能です）ので、月夜野としてもノーダメージというわけではありません。

総評としては、視聴率的にはやや残念でしたが、知財というテレビドラマでは扱いにくい題材（ちゃんと説明すると教養番組になってしまう）を、ドラマとしての面白さとバランス良く扱うことに成功していたと思います。知財も弁理士もほとんど関係ない恋愛ドラマあるいは人情ドラマにしてしまうこともできたのにそれをしなかった点は評価できます。あと、芳根京子さんは演技が上手いなあと思いました（こういう新米役って役者さんが下手だと単なるウザい役になってしまいますよね）。