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「あまちゃん」と同じロケ地も! 「ウルヴァリン」新作の、おもしろすぎる日本

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ウルヴァリン:SAMURAI』9月13日(金)全国ロードショー

ここまで本格的な日本ロケは異例!

ハリウッド大作が日本を舞台にしたとき、“なんちゃって”日本の風景が映像になっていて、苦笑したり、愕然としたりすることがある。まぁそれも映画の楽しみではあるのだが…。最近ではアクション超大作『G.I.ジョー バック2リベンジ』での東京のシーンが、このパターン。空撮で新宿の高層ビル街をとらえていたものの、室内のシーンは完全にスタジオだったので仕方ない。つまり、ちゃんとロケしてくれ!ってことなんだが、そんな鬱憤を晴らしてくれたのが、『ウルヴァリン:SAMURAI』だった。

増上寺では本殿内部でも撮影。気温35度の夏の日に、真冬の葬式シーンが撮られた
増上寺では本殿内部でも撮影。気温35度の夏の日に、真冬の葬式シーンが撮られた

ヒュー・ジャックマンの当たり役、ウルヴァリンが日本にやって来るストーリー(原作にもある)であるこの新作は、ハリウッド大作としては異例の日本ロケが行われたのが話題になっている。これまでもクエンティン・タランティーノの『キル・ビルVol.1』のように日本ロケを行った作品はいくつかあるが、今回は東京・芝の増上寺を借り切るなど大がかり。昨年の夏にこの現場を取材したときは、日米にオーストラリアのスタッフも混じり、増上寺の屋根を刺客が飛び回り、どでかいスケールで撮影が行われていたのは、正直、びっくりした。さらに秋葉原のパチンコ屋や、高田馬場駅周辺、新宿でも撮影。さらにNHK朝ドラ「あまちゃん」で、たびたび登場する上野駅も登場。アキとヒロシが別れるシーンや、夏ばっぱの上京シーンなどが撮られた駅のペデストリアンデッキ、まさに同じ場所でヒュー・ジャックマンが熱演しているのだ!

その他、「崖の上のポニョ」のモデルとなった広島県福山市の鞆の浦や、愛媛県今治市にまでロケは移動し、都会の喧噪と、のどかな自然を網羅するという、理想的な日本での撮影が続いた。

リアルさと奇抜さの絶妙なブレンド!?

それで、完成作はどうなっていたか?

これがもう、いい意味でリアル。そして、いい意味で奇抜。そのバランス感覚が絶妙!

前述したように、日本ロケのシーンは、ハリウッド作品にいまだに出現する「変な漢字の看板」などがなく安心して観ていられるうえ、ロケではない、スタジオで撮影したシーンが、リアル日本を基本にしつつ、そこから過剰に装飾した部分が、結果的にわれわれ日本人も楽しませることになった。代表例を挙げると、走行中の新幹線の屋根での戦闘シーンで、当然、ロケでは不可能なので、セットの車両に背景は合成なのだが、新幹線のスピードを体感させる、本作でも最高にアドレナリンを上げる映像となった。そして、もうひとつ、ウルヴァリンが宿泊先を探してラブホに入るシーン。これもスタジオ撮影の部分だが、日本人でも素直に笑える名シーンだ。つまり、しっかり日本でロケをしたことで、製作陣にも日本の本当の風景がしみついて、そこからの発展型に無理が生まれず、さらに真田広之ら日本人キャストを多用したことで、ギリギリセーフな表現が模索されたのだろう。昨年あたりからアメリカでの活躍も注目された、由紀さおりの曲が使われるあたりも、“通(つう)”なチョイス。

だいたい主人公はアメコミヒーローで、ありえない能力を駆使し、ニンジャやサムライという、これまた現在の日本ではありえない要素を詰め込んでいるわけだから、リアルに徹したら、しらけてしまう。ほぼ全編を日本で撮影した『ロスト・イン・トランスレーション』は、登場人物も“リアル”だったから同等に論じることはできない。『ウルヴァリン:SAMURAI』は、現地ロケに、ハリウッドから見た“おもしろ日本”な要素をうまく組み込むことで、結果的に、日本をよく知る観客にもうれしい驚きを与えることになった。日本が舞台となる「ワイルド・スピード」の次回作も、このアプローチでいってもらいたい。「ワイルド・スピード」は3作目が東京が舞台だったが、映像はやや消化不良だった。撮影許可が厳しい東京で、今回はどこまで車をぶっとばせるか、果たして…?

『ウルヴァリン:SAMURAI』

(c) 2013 Twentieth Century Fox.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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