ヘルプマークの商標登録について
”ヘルプマーク、赤十字マークに酷似した椎名林檎グッズに「誤認を招く」「やめてほしい」と批判の声続出”という記事を読みました。最近発売された椎名林檎さんのアルバムの関連グッズが「ヘルプマーク」と「赤十字マーク」に酷似していると、Twitter上で批判の声が出ている、ということです。
ご存知の方も多いと思いますが「ヘルプマーク」とは「義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくするようにするためのマーク」です。
このマークは、東京都を権利者として商標登録されています(タイトル画像参照)。指定商品は、「要支援者表示プレート(金属製のものを除く。),ネームプレート及び標札(金属製のものを除く。),アドバルーン,木製又はプラスチック製の立て看板」です。東京都によるヘルプマークの使用が商標的使用にあたるかは微妙なところですが、偽物に対する牽制という点では一定の効果はあると思います。
しかし、問題のグッズがこの商標権を侵害することはないと思います(図形としての類似・非類似の話以前に、ネームプレートは20類、カードケースは18類なので商品非類似です、また、ノベルティグッズが商標法上の「商品」に当たるかという論点もあります)。
この件は商標権の問題ではなく、倫理的な問題でしょう。ヘルプマークが機能するためには、その意味が周知されていなければなりません。よくあるデザインとして一般化してしまいヘルプマークだか、単なるおしゃれアイテムだかわからなくなってしまうと意味がありません。
私事ではありますが、だいぶ昔(ヘルプマークができる前)に、手術跡がまだ痛む状態で電車通勤しなければならなかったことがありました。外見上はまったく健康なので、駅でちんたら歩いてると迷惑な奴と思われないか、優先席に座っていると正義マンに怒られたりしないかと結構気を使いました。外見ではわからないが援助が必要な状況を口にすることなく伝えられる手段はきわめて重要です。なので、ヘルプマークの話を最初に聞いた時はこれは素晴らしい試みと思いました。
なお、元記事に写真はないのですが、別のグッズである、赤十字が付いたマスクケースも問題になっているようです。赤十字マークの使用については、日本赤十字社からガイドラインが出ていますが、赤十字社や軍隊の衛生部隊等の者以外が使用すると法律(赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律)違反です。ちなみに商標法では、赤十字マークに類似した商標は登録できないとしていますが、使用については定めていません。ただ、これも法律的にどうのこうのというよりもモラル的な話だと思います。
おそらく、この件はレコード会社が配布を中止、(既に流通しているのであれば)回収して終わると思いますが(強行したらびっくりです)、CDのジャケットやビジュアルだけに限らず、販促グッズについても法務のチェックはちゃんとした方が良いのではと思いました。明らかに椎名林檎さんは社会への影響力が大きいのでなおさらです。
追記)ジャケットのデザインが薬のパッケージやファイザー社のロゴに似ているのが問題ではとの声が2ちゃんねる等で上がっているようです。こちらについては、消費者の混同による問題が生じるとは思えませんので、パロディとして許容範囲だと思います(個人的には好きなセンスです)。