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タバコを吸って酒も飲む男性の「胆管がんリスク」は高くなるか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 喫煙は胆嚢系の病気の明らかなリスク因子だ(※1)。日本人の胆嚢がんのリスクを調べた研究によれば、1日21本以上(もしくは年801〜1000本)吸うヘビースモーカーで3.18〜3.44倍、タバコと酒のカップリングの場合のリスクは最大で3.6倍になる(※2)。喫煙と飲酒、肝内胆管がん、胆道がんのリスクの関係について、国立がん研究センターが新たな論文を出した。

5年後生存率が低い胆嚢・胆管がん

 喫煙は、肺がんや膵臓がん、口腔・咽頭がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、心筋梗塞、脳卒中などのリスク因子だが、タバコを吸いながら酒を飲むとさらにリスクが上がることがわかっている。こうした関係では、これまで肝内胆管がんや胆道がんについて、あまり明らかになってきていないという。

 肝内胆管がんとは、肝臓から胆汁を十二指腸まで送るための胆管で、肝臓にできたがんのことをいう。胆道がんは、肝内胆管がん以外の胆管がん、胆嚢がん、十二指腸とのつなぎ目の胆管にでき十二指腸乳頭部がんの総称だ。

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2006〜2008年、がんの部位別の5年相対生存率。がんと診断された後、5年後に生存している人の割合が、日本人全体(性別・生年・年齢の分布が同じの日本人集団)で5年後に生存している人の割合に比べ、どれくらい低いかを表す。胆嚢・胆管がんは膵臓がんに次いで低い。Via:データ:"Monitoring of Cancer Incidence in Japan- Survival 2006-2008 Report." Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, 2016、Matsuda T, Ajiki W, Marugame T, Ioka A, Tsukuma H, Sobue T; Research Group of Population-Based Cancer Registries of Japan, "Population-based survival of cancer patients diagnosed between 1993 and 1999 in Japan: a chronological and international comparative study." Japanese Journal of Clinical Oncology, Vol.41, 40-51, 2011:グラフ作成筆者

 国立がん研究センターの予防研究グループが、これまで行われてきた多目的コホート研究(※3)をもとに、喫煙・飲酒と肝内胆管がん・胆道がんとの関係を調べ、このほど論文にしてオンライン版に先行して発表した(※4)。国立がん研究センターのリリースによれば、調査開始時(1990年と1993年)のアンケート調査により喫煙と飲酒の量でそれぞれ4つのグループ(※5)に分け、その後、肝内胆管がんと胆道がんにかかったかどうかリスク評価(罹患リスク)したという。

タバコを吸い酒を飲む男性のリスクは

 2012年の追跡終了までの間に該当者の男性約4万8000人のうち、80人が肝内胆管がんに、246人が胆道がんにかかり、女性約5万5000人のうち、60人が肝内胆管がんに、227人が胆道がんにかかった。年齢や地域、BMI、胆石症・糖尿病・慢性肝炎や肝硬変の既往、緑茶摂取量(※6)の交絡変数を調整して解析した結果、特に喫煙数や飲酒の多い男性で、タバコを吸わない人に比べて肝内胆管がんにかかるリスクが上がっていたことがわかったという。

 これに酒を飲む飲まないという条件を加味すると、統計学的に有意さはなかった(偶然の影響を排除できない)ものの、アルコール摂取量の多い男性で肝内胆管がんのリスクが高くなる傾向がうかがえた。飲酒の量別に喫煙習慣の影響を解析すると、酒を飲む群で喫煙者の肝内胆管がんのリスクも高くなっていた。

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男性における喫煙、飲酒、喫煙+飲酒と肝内胆管がん、胆道がんの罹患リスク。統計学的に有意だったのは、喫煙と肝内胆管がん、喫煙習慣+飲酒の量と肝内胆管がん。Via:国立がん研究センターのリリース

 一方、胆道がんのリスクは喫煙や酒の量と関係していなかったといい、女性でもこうした関係はみられなかったという。ニコチンは体内で代謝された後、ニトロソアミン類という発がん性のある物質に変わる。アルコール代謝の無害化(アセトアルデヒド→酢酸)は肝臓で行われるため、酒を飲むことでニコチン代謝が促進されるのかもしれない。

 国立がん研究センターのリリースによれば、肝内胆管がん、胆道がんは罹患率(かかる人の割合、胆嚢・胆管がんの2013年の男女罹患粗率17.4%)が低く、大規模な集団を長期間追跡した研究データをもとにしているとはいえ、統計学的な有意さ(偶然を排除できる)がはっきり出たとは言い切れないという。

 胆嚢系の病気や胆管がんなどと喫煙や飲酒の関係についての研究は少ない。今後の調査研究が必要となるが、5年後生存率をみても胆嚢がんや胆管がんになると治療が厄介になることは確かだ。喫煙者ならタバコを止め、飲酒量はほどほどにし、なるべくリスクを低くしておくことが重要だろう。

※1:Dagfinn Aune, et al., "Tobacco smoking and the risk of gallbladder disease." European Journal of Epidemiology, Vol.31, 643-653, 2016

※2:Kiyoko Yagyu, et al., "Cigarette smoking, alcohol drinking and the risk of gallbladder cancer death:a prospective cohort study in Japan." International Journal of Cancer, Vol.122, Issue4, 924-929, 2008

※3:多目的コホート研究(The Japan Public Health Center-based Prospective Study、JPHC Study):1990(平成2)年と1993(平成5)年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2018年現在)管内に在住していた40〜69歳の男女約10万3千人を2012(平成24)年まで追跡した調査結果

※4:Takeshi Makiuchi, et al., "Smoking, alcohol consumption, and risks for biliary tract cancer and intrahepatic bile duct cancer." Journal of Epidemiology, doi.org/10.2188/jea.JE20180011, 2018

※5:喫煙習慣:「吸わない」群、「やめた」群、「吸う(パックイヤー30未満)」群、「吸う(パックイヤー30以上)」群の4つ:パックイヤーはタバコ1箱を20本として1日当たりの喫煙箱数と喫煙年数を掛けた値:飲酒:「酒を飲まない(月に1回未満)」群、「時々飲む(月に1〜3回)」群、「飲む(週1回以上飲酒し、エタノール換算で週300g未満)」群、「飲む(週1回以上飲酒し、エタノール換算で週300g以上)」群の4つ

※6:緑茶を多く飲む群で胆道がんのリスクが低くなったという同じ国立がん研究センターの多目的コホート研究による:Takeshi Makiuchi, et al., "Association between green tea/coffee consumption and biliary tract cancer: A population-based cohort study in Japan." Cancer Science, Vol.107, No.1, 76-83-, 2016

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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