ゴールドマンサックスの暗号通貨/ブロックチェーン関連特許出願について
ちょっと前に、「自称ビットコインの発明者」によるブロックチェーン関連特許出願について書きました。中身は気になりますが、出願公開されていない以上、あまり議論をしてもしょうがないので来年を待つしかありません。もう少し前には、バンクオブアメリカも数十件のブロックチェーン関連特許出願を行なっていたことも書いています。一般論として、テクノロジーの潮の変わり目の時期では強力な特許を取得できる可能性が高まりますので、多くのプレイヤーがブロックチェーン分野での特許出願を行なっていることは当然です。
今回は、金融業界のもうひとつのビッグプレイヤーであるゴールドマンサックスのブロックチェーン/暗号通貨関連特許出願をご紹介します。米国特許公開番号20150332395(” Cryptographic Currency For Securities Settlement”(証券決済のための暗号通貨)(訳は栗原による))です。優先日(実効出願日)は2014年5月16日、出願日は2014年10月30日であり、2015年11月に出願公開されています。
基本的なアイデアは、証券の決済をNational Securities Clearing Corporation(米国証券取引所決済機関)などの第三者を経ずに、暗号通貨(SETLcoinと名付けられています)でピアツーピアで行なうという点にあります。これにより、決済に要する期間を劇的に短縮できるとされています。
この出願は、ゴールドマンサックスが米国の早期審査制度であるTrack Oneを請求したため、2015年6月の時点でもう最終拒絶が出てしまっていました(一般に、早期審査を請求すると権利化できるときは早いですが拒絶される時も早いので、特許出願による他社の牽制という点では逆効果になり得ます)。
拒絶の第一の理由は、最近の米国特許庁で多くのソフトウェア関連発明が拒絶される根拠になっている通称Alice判決による「抽象的アイデアをコンピューターで実装しただけでは(新規性・進歩性の話以前に)特許の対象にしない」という審査運用が適用されたことです。その他に新規性・進歩性についても否定されています。
継続審査請求(RCE)が行なわれていますので、また別の権利範囲で権利化される可能性もないわけではありませんが、少なくとも上記のAlice判決の問題をクリアーするのは容易ではないと思えます。
暗号通貨を証券決済に応用しただけとも言える自明なアイデアなので権利化できないのもしょうがないと思いますが、なぜゴールドマンサックスはこれを自信満々でTrack One請求したのかはちょっと気になるところです。
追記:書き忘れてましたが、この出願が最終的に拒絶されたとしても、クリアリングハウスを暗号通貨で置き換えるというアイデアが実施できなくなるわけではありません(むしろ、特許の制約がなくなって誰でも実施できることになります)ので、特許化の話とビジネスとしての有効性の話は分けて考える必要があります。