2年目・北條史也選手、初めての1軍昇格。
■流れることはなかった、「ヒゲのテーマ」
聴きたかったなぁ・・・「ヒゲのテーマ」。1軍の舞台で、ぜひとも聴きたかった。きっとスタンドから大きな手拍子が送られたことだろう。
9月29日。2年目の北條史也選手がプロに入って初めて1軍昇格した。チームは2位争い真っ只中。“消化試合”になれば、もしかすると…と淡い期待を抱いていた本人も、この状況下での昇格に驚きを隠せなかった。だが、9月はファームでも打率・421で好調だった。初昇格を素直に喜んだ。
昨年の秋季キャンプで、掛布育成&打撃コーディネーター(DC)から「ヒゲダンス打法」を伝授された。あのザ・ドリフターズでお馴染みのヒゲダンスのように、膝を柔らかく使ったバッティングということだ。
それが報道されるや、面白がったのが関本選手。甲子園球場で打席に入る時に流れるテーマ曲を「ヒゲのテーマ」にしろと、強制的に決めてしまった。先輩の命令に逆らえるわけはない。
既に、甲子園球場で行われたウエスタン・リーグの試合では、ファンの方は耳にしている。最初はスタンドにも戸惑いが見られたが、段々と馴染み、回を追うごとに手拍子も増えていった。1軍の大観衆の中で流れたら、大ウケするんじゃないだろうか。ワクワクして北條選手の打席を待ったが、出場する展開にはならなかった。
29日は朝6時に目が覚めたという北條選手。甲子園に到着しても、どこか落ち着かない様子。緊張感が手に取るように伝わってくる。
和田監督は「どれくらい成長したのか見てみたい」と話した。練習を見守った関川打撃コーチは、「線が細かったけど、体も大きくなったね。力強くなっているし、スイングの軌道がいいね」と、原石に目を細めた。
この日のゲームはサヨナラ勝ち。初昇格でいきなり緊迫も歓喜も味わった。サヨナラの瞬間の“飛び出し”のタイミングも、「隼太さんに教えてもらいました」と、ゴメス選手が打席に入った時から身構え、しっかりとウォーターシャワーにも加わった。
雰囲気を体感した翌日の練習では「今日は自分の思うように動けた」と落ち着きを取り戻していた。
しかし試合は、またしてもベンチから見るだけに終わった。
■苦しんだ1年目
「プロ野球選手やったら、町歩かれへんなと思ったけど、意外に普通に歩けるな」。昨年プロ入りして、最初に北條選手が感じた素朴な疑問だ。「でも、わかった。それは2軍におるからやって」。“甲子園のスター“として藤浪投手とともに注目の入団をしたが、プロの壁の厚さを痛感した1年目だった。
卒業式後から開幕1ヶ月で約7kg体重が減少した。早朝からと試合後の特打、特守の日々は「高校時代よりきつかった」と、北條選手をヘトヘトにさせた。
また金属から木のバットになったことで苦心した。「木は飛ばないと感じて、飛ばそう飛ばそうと思って形が崩れた」。直接的な材質の違いというより、自身の意識過剰によるフォームの崩れが原因で、バッティングにも苦慮した。
相手投手も高校生とは格段に違った。「まっすぐは、投げた瞬間はそんなに速いと思わないのに、見逃して自分の前を通過した時に『速っ!』と思う。変化球はどのピッチャーもキレがあった。高校やったらエースくらいしかキレがなかったのに…」。
それでも夏頃には対応するようになり「慣れてきたね。いいものが出始めている」と八木ファーム打撃コーチから褒め言葉も出るようになった。
また嬉しい対面もあった。遠征で東上した際、森田選手を通じてジャイアンツの坂本選手と食事をする機会を得た。母校の先輩である坂本選手は「走攻守そろった、自分が目指すプレースタイル」という理想の選手像だ。会えたことで、改めて自らの方向性を確認した。
■成長を実感できた2年目
今季はフレッシュオールスターにも選ばれ、同年代の選手たちから刺激を受けた。「レベル高いなって思ったし、ボク、まだまだやなって思いました」。改めて自身のレベルアップを誓った。
「調子いい時はある程度打てるけど、悪くなるとずっと打てない」と振り返った昨年と比べ、「今年は、悪い時に悪いなりに四球1コ選んだりということができるようになった。四球は打率下がらないから」と、自分なりに成長を実感できた。しかし今季、ファームで102試合に出場して打率・259。「・280以上」と掲げた自身の目標はクリアできなかった。
出場はなかったが、今回のこの1軍ベンチでの経験が北條選手の成長に何らかの作用を起こすことを、関川打撃コーチも期待している。「自分に何が足りないか、これから何をしなければならないか。きっと今後の取り組み方も変わってくるだろう」。
そして残念そうに一言、付け加えた。「打席に立たせてあげたかったね」。打席に立ってこそ得られるものも大きいだろう。それは、来季に持ち越しとなった。
来季以降の1軍での活躍は、チームにとってもファンにとっても非常に楽しみだ。その時にはきっと、町を歩いたら大変なことになるだろう。