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まだ必要か? 「濃厚接触者」の行動制限 アメリカとの違い

倉原優呼吸器内科医
イラストACより使用

「5類化」の議論がすすめられる中、「濃厚接触者」の扱いをどうにかしてほしいという声が高まっています。家族内で陽性になった場合、一家全員が行動制限になってしまうためです。この策は、まだ必要でしょうか?

濃厚接触者とは

現時点での濃厚接触者の定義は以下の通りとなっています(図1)。当初感染すれば致死的になる可能性があり、周囲への感染性も高かったことから、このような定義になっています。パンデミック当初から、長らく定義は変更になっていません。

図1. 濃厚接触者の定義(筆者作成)
図1. 濃厚接触者の定義(筆者作成)

濃厚接触者の特定と行動制限

一般事業所、保育所・幼稚園・小中学校等、高齢者・障害児者の通所・訪問系事業所等では、現在濃厚接触者の同定や行動制限までは保健所は求めていません。個々で対応してもらえればよいということです。

小学校から「今週の陽性は●人です。濃厚接触者に該当する児童・教師はいませんでした」と定期的に連絡がくる地域もあるでしょう。「そこまでやらなくてよい」であって、「やったらダメ」というわけではありません。

現在、保健所が濃厚接触者の特定と行動制限を求めているのは、医療機関同居家族内の2つのシーンです。

医療機関についてはやむを得ない側面があります。院内クラスターの火種になる可能性があるので、この対応を残しておく必要があるかもしれません。

同居家族内では、それなりの確率で感染が成立することから、行動制限を求めています。しかし、「家族が陽性になったら5日間自宅待機」は厳しすぎるという意見が出ています。

現在の規定では、濃厚接触者は、接触した日(同居家族の場合は感染対策を講じた日)を0日目とし、6日目に解除となります(図2)。同じ家族内で次々に感染したとしても、適切に感染対策を講じておれば、基本的に隔離期間を延長しなくてもよいという自治体が多いです。

図2. 濃厚接触者の待機期間(筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)
図2. 濃厚接触者の待機期間(筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)

検査を用いれば、待機期間を短縮することが可能です(図3)。医療機関の職員はこういった運用を適用して働いていますが、一般的には広く活用されていない印象です。

図3. 濃厚接触者の待機期間の短縮(筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)
図3. 濃厚接触者の待機期間の短縮(筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)

アメリカの濃厚接触者の扱いは?

アメリカでは濃厚接触者の扱いはどうなっているでしょうか。

日本と同じように当初自宅待機を要請していた州もありますが、2022年9月から濃厚接触者に対するこうした規定は撤廃されました。

アメリカの内科専門医・感染症専門医の安川康介医師によると、「アメリカの場合、職場によって対応にはバラつきはありますが、家族が感染した場合、現在はそのまま働き続けることが多いです。医療機関などでは、6日目に検査を受けるよう指示されることはあります」とのことです。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の推奨では、濃厚接触者と分かった場合、まず「マスクの着用」が推奨されます(1)。約10日間、マスクが着用できないような場所を避けるよう明記されています。マスク着用率が高い日本では、ちょっとビックリしてしまう指針ですね。

感染者数が多く、濃厚接触者が多すぎると社会が回りません。特に人手が不足している場合、アメリカでは「就業制限を必要としないこと」をまず念頭に置いて社会を回している点が、日本と大きく異なります(2)。

アメリカは感染した人の割合が日本よりも高いので、「周りの誰が感染しているか」を気にするフェーズを過ぎたというのも、1つの理由と思います。

写真:イメージマート

濃厚接触者の行動制限は必要か?

そもそも、日本とアメリカの手法のどちらが最適解かは、誰にも分かりません。「人間の社会活動をできるだけ阻害しない」というアメリカの考え方も納得できるものですし、濃厚接触者の自宅待機を促して死亡者数を最少化することを優先するという日本の考え方も間違っていません。

人が社会活動を続けることと、感染抑制を優先することのバランスは、国によって異なります。残念ながら両者はトレードオフの関係にあります。濃厚接触者の行動制限を緩和すれば、感染リスクは直線的に上昇していきます。

この影響なのか、現在アメリカではインフルエンザ・新型コロナが再び流行し始めています。

濃厚接触者が感染を広げているという構図ではないことから、日本の規定はもう少し緩和できるかもしれません。ただ、死亡者数が増えるリスクは国民に周知すべきと考えます。この話は、避けて通れません。

具体的な緩和策としては、新型コロナワクチンの接種数や最終接種からの期間によっては対象者から外す、あるいは無症状の濃厚接触者に一律の行動制限を求めない、といった緩和はあってもよいと思います。

まとめ

パンデミック当初と比べて、行政は濃厚接触者を同定しない方向にすでに舵を切っています。そのため、各個人の判断にまかされている部分が大きくなっているのは事実です。

なので、敢えて行政が立ち入らなくても、それぞれ判断してくださいというモードに移行していく形でもよいのかもしれません。

「濃厚接触者に該当する場合、症状に留意しながら、マスク着用を遵守いただき、周囲に感染させない配慮をお願いします」というメッセージは残しつつ、医療機関以外の場面においては、濃厚接触者の規定をダウングレードしていくのが妥当な落としどころなのかもしれません。

(参考)

(1) What to Do If You Were Exposed to COVID-19(URL:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/your-health/if-you-were-exposed.html

(2) Strategies to Mitigate Healthcare Personnel Staffing Shortages(URL:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/mitigating-staff-shortages.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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