暑さはイライラを加熱する?:気温と感情の心理学
< 暑さは、冒険心を生み、無謀さを生み、恋も生むけれど無気力やケンカも生む。>
■異常な暑さとイライラ
殺人の動機は、「太陽が眩しかったから」(カミュ『異邦人』)。これは小説ですが、暑くてイライラしている人は、たくさんいそうです。なぜ、夏はイライラするのでしょうか。そのメカニズムと対処法を心理学からご紹介します。
■猛暑が心に与える影響
心理学の研究によれば、気温が高くなると人は活動的になります。ところが気温が高くなりすぎると、パフォーマンスが下がります。暑い暑いと感じれば、仕事も勉強もはかどらないでしょう。
暑すぎる状態は、体にとって危険な状態です。そうすると、体は何とかコア体温(深部体温)を下げようと努力します。その結果、他の活動が鈍くなります。私たちが体温を下げることに手間とエネルギーを使ってしまえば、肝心の仕事や勉強への順調に進まなくなります。
暑さ、そして高い湿度は、集中力を低下させ、眠気をもたらします。意欲が下がりスッキリしない気分のまま、仕事や勉強をしなくてはならないと思えば、イライラもつのるでしょう。夜も暑くて寝不足になれば、なおさらです。イライラは、物事が思い通りにならない時の感情です。
気温が高くなると、攻撃的になるという研究もあります。日照時間が長くなると、楽観的になり、不安が下がるという研究もあります。さらに気温が高くなると、落ち着いて熟慮することできなくなり、短絡的な思考と行動をしやすくなるという研究もあります。ゆっくりじっくり考えることが面倒になってしまうのです。
楽観的に前向きになれば、異性に声をかけて夏の恋が始まることもあります。思い切った冒険もできるわけです。けれども、普段ならしない安易なナンパやケンカ、乱暴な運転や、無謀な行動も、夏ならできてしまうわけです。
このような活動が全てうまくいけば、青春映画のようにスッキリ爽やかになれるでしょうが、上手くいかなければまたイライラするでしょう。
気温が高くなりすぎると、人を助ける行動が減るという研究もあります。自分のことで精一杯で、周囲に気を配り、困った人に気づいて助けることができにくくなるのです。人に親切にできないと、人からも親切にされませんから、またイライラします。
暑くなると、心拍数が上がるなど体は覚醒状態は高まるのに、脳の働きは鈍くなって認知機能は下がり、意欲は減退します。このアンバランスからイライラや乱暴な行動が生まれるとも言われています。
対人心理学の研究によれば、心地よい環境で人と会うと、その人のことを好ましく感じます。一方、不快な環境で人と会うと、その人のことを好ましく思えません。涼しい高原で美味しいものを食べながら人と会えば良い人間関係を持ちやすいのですが、蒸し暑く景色も悪いようなところで会えば、仲が悪くなりやすいでしょう。
互いに暑くてイライラして、その上、相手が良い人とは思えなければ、小さなきっかけでケンカも始まります。
■猛暑と犯罪と地球温暖化:夏のイライラを乗り越えて
豊かな四季の変化があり、温暖な気候のもとで穏やかな性格の人が育つという研究者もいます。アメリカの研究では、気温が4度上がると、殺人や強盗など凶悪事件が10万件増えるという報告もあります。
さらに、将来地球温暖化が進んで異常気象による洪水や大型台風などが増え続けると、慢性的なストレスにされされることで、その欲求不満が爆発しやすくなることを危惧する研究者もいます。
もちろん、そんなことになっては困ります。暑さが心に与える影響はなかなか防ぐことはできないのですが、できるだけ夏でも快適に過ごす工夫でしょうし、地球温暖化防止でしょう。そして、何より猛暑が心に悪影響を与えている自覚が大切だと思います。そして「イライラするのは誰かのせいではなく、自分の感情は自分の責任だと理解しましょう」(「イライラと怒りを抑える認知行動療法:大人にも子供に教えられる心理学活用法」Y!ニュース有料)。
暑さが心に与える悪影響は、28度程度から表れますが、30度超え、さらに32度を超えると強く表れます。また、個人差もあります。暑くて短気になっていると自覚できる人は、注意しましょう(自覚できずにイライラしている人はもっと危険です)。
あなたがイライラすると同時に、相手もイライラします。猛暑は、私たちの体だけではなく心にも攻撃してくるのです。夏のアバンチュールも素敵ですが、ケンカせず、人生のやけどをせず、互いに楽しい夏を過ごしましょう。