水素は自動車よりバイオマス発電?
このところ話題の水素自動車(燃料電池車)。ハイブリッド車の次は水素自動車だ、究極のエコカーだと世間の耳目を集めている。
先日、その説明を聞く機会があった。
水素ステーションづくりも大変だろうが、大きな技術革新の始まりだ。単に自動車の推進機関の新技術に留まらず、社会全体を変える可能性に触れられた。いわゆる水素社会の到来である。
私は、燃料電池車とは積み込んだ水素で発電しつつ走る仕組みだという程度にしか知らないうえ、もともと自動車や機械系には弱い。だから「なるほど~」と感心ばかりしていた。ただ、それでもいくつか疑問と、別の視点からの興味を持ったのである。
一つは肝心かなめの水素の調達方法だ。
尋ねてみると、やはり天然ガスからの改質が主流であるらしい。ま、想像どおりではあるが、それでは完全なエコ、CO2排出ゼロというわけにはいかない。天然ガスだって化石燃料だ。改質の段階でCO2を出すだろう。
私の立場からは、できれば再生可能なバイオマス、つまり木質材料から水素を取り出してほしい。その方が「究極のエコ」だし、国内資源を利用するのだから、資源安保的にも意味がある。
木材から水素を取り出す技術そのものは私も視察したことがあるが、そんなに難しいものではないようだ。木粉からメタノールを作り出すプラントもあった。メタノールはそれ自体も燃料になるが、そこから水素を取り出せる。
ほかに木質のガス化も行われているが、そこで発生する可燃性ガスとは、一酸化炭素やメタンなどのほか、水素も含む。
そこで現在行われているバイオマス発電と比較してみた。
バイオマス発電は、基本的に火力発電と変わらない。単に木片を燃やして熱を発生させ水蒸気でタービンを回すという前世紀の技術である。そのエネルギー効率は、せいぜい15%、頑張っても20%に達しないと言われている。残りは熱として排出してしまうわけだ。だからバイオマス発電は熱利用を考えないとダメだと言っているのたが……。
では、水素を発電に供した場合の効率はどれぐらいだろう。
木質から水素を取り出せる効率はわからなかった。ただ天然ガス改質による製造効率は、70%を目標にしているそうだ。さらに燃料電池の効率は、水素自動車の資料によると40~50%程度。これらを掛け合わせると、全体で30%前後ではないか。今後の技術開発も含めれば、そんなに大きなズレはないだろう。
こりゃバイオマス発電より高いぞ。そう思った(笑)。
もっとも、水素を自動車で使うためには圧縮して積み込まねばならないから、そのためにエネルギーを費やす。これが馬鹿にならない。おそらく、効率は20%台に落ちるだろう。なんだ、燃料電池車は究極のエコカーと言っても、あまり省エネにはならない。
しかし水素を運ぶ必要がなく、そのまま発電に供するのなら圧縮工程はいらないのではないか。すると効率は高まる。言い換えると、水素は自動車に使わず、水素発電する方が合理的じゃないか。また熱利用も欠かせないだろうが、これも小型で移動する自動車より、地域と結ばれている発電所の方が圧倒的に有利だ。
バイオマスから水素を取り出し、それで水素発電を行うシステムが有望に思えたのである。これぞ、究極のバイオマス発電にならないだろうか?
また水素には別の使い道があることも、先の説明で聞いた。
それは蓄電効果だ。現在の蓄電池は何かと問題がある。時間とともに放電してしまうし、機材も長持ちしない。車のバッテリーや、スマホの充電池を思い出してもらえば想像がつくだろう。
そこで電気を電気として溜め込むのではなく、水を分解するなどして水素として蓄えるというのだ。これなら蓄電ロスが減る。この場合、消費する電気は、不安定とされる太陽光や風力で発電した電力を使えばよいだろう。あるいは夜間電力も使える。これまで原子力発電所では、夜間電力で揚水発電(ダムの水を上流に運び上げることで水力発電を行う)を行っていたが、それと同じことを水素に置き換えて再生可能エネルギーで行えないか。
……夢物語だろうか? あるいは燃料電池車の普及に水をさす意見か?
水素社会が来るというが、それは水素だけをエネルキー源にすることではない。むしろ様々なエネルギー源をミックスして無駄なく安定的に供給する体制をつくることだ。水素にバイオマスも含めた再生可能資源とのハイブリッドに期待したい。