物価上昇で「老後に2000万円」では足りなくなる? 今から生活を見直して対策を #生活危機
ウクライナ情勢や米国の金融引き締めから過去にないスピードの円安と物価高が起こり、家計に大きな打撃を与えています。特に光熱・水道料金、食費の家計負担が重くなっています。
2022年に値上げされた食料品は約2万800品目と、過去30年で例のない多さとなっており、23年も値上げは進行中です。
総務省の家計調査(二人以上世帯 2022年11月)によると食料費の平均額は8万1509円で対前年同月(名目増減率)では3.8%増、光熱・水道は2万2265円で対前年同月(同)では12.3%増です。まさに2つの項目だけでも月4500円程度の負担増になります。
更に一部の旧一般電気事業者が、「従量電灯」など規制料金の値上げを検討しており、東北電力、中国電力、四国電力、沖縄電力などは経済産業大臣に規制料金の値上げを申請しています。値上げ予定日は2023年4月です。
このようなインフレの中、一番ダメージを被るのが年金生活者です。給料所得者の場合、遅れるものの賃金に反映される場合が多いからです。年金は物価や賃金の変動率のほかに、マクロ経済スライドによる調整が行われています。物価が上がっても、実質賃金が下がれば、年金は減らされる場合もあるのです。かつて、「老後2000万円が必要」と話題になったことがありますが、このままインフレが進めば2000万円では足りなくなる可能性もあります。
もともと年金生活者は年金だけでは家計はギリギリもしくは赤字に陥っているケースが一般的です。家計調査(2020年)によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の場合、実収入は256,660円、可処分所得は225,501円、消費支出は224,390円、平均消費性向は99.5%です。65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の場合、実収入は136,964円、可処分所得は125,423円、消費支出は133,146円、平均消費性向は106.2%と赤字になっています。そんな中、月5000円前後生活費が上がれば、節約をするかアルバイトなどを増やさないと一気に生活は苦しくなってしまうのです。
定年後、キリギリスにならないために やるべきこと
老後必要金額を計算するには、早期からライフプランと資金シミュレーションをしっかりと考える必要があります。重要なポイントは老後の収入と支出のバランスをしっかりと管理するということです。収支が黒字になるのであれば、それほど大金を必要としない場合もありえます。まず、収入を知るには年金額の試算をする必要があります。
日本年金機構の公的年金シミュレーターでは自分の働き方と年収によって年金額を試算することができます。
単純な例として現在40歳、年収400万円で22歳から65歳まで働く場合、将来もらえる年金額の目安は年間約175万円と見積もることができました。各自が自分のケースで見積もってみましょう。
老後の生活費に関しては、現役時代の7割程度と想定して概算するという方法もあります。子どもがいる人の場合、子どもにかかる費用などはかからなくなるのでその分は減らすことができます。しかし、毎月の生活費のほかに介護費用などの臨時支出がかかる可能性があります。50歳を迎えたら徐々に支出を減らす準備を始めるほうがベターです。
いきなり生活レベルを変えることは難しいのでまずは減らしても満足度が落ちない支出から節約を始めるとよいでしょう。例えば、住宅ローンや保険の見直し、自動車のダウンサイジング、携帯プランの見直し、などが考えられます。
住宅ローンを組んでいる人は遅くとも定年前に完済ができるようなプランにしましょう。この先いつ金利が上昇するか分からない時世となってきました。変動金利で借り過ぎないように、変動金利の残債が多い人はいつでも繰り上げ返済ができるように貯金額を増やしておくなどの工夫をしましょう。
資金シミュレーションをする上で便利なツールがあります。日本FP協会のホームページでは、未来家計簿の役割を果たすキャッシュフロー表をダウンロードすることができます。また、詳細のキャッシュフローをプロに見積もってもらいたい場合は、有料でFPに相談をするという方法もあります。
資産運用で一発逆転の発想は危険
米国を中心にFIRE(Financial Independence, Retire Early)ムーブメントが起こりました。貯蓄の目標は「年間生活費の25倍」でそれを4%の利回りで運用し、生活費は金融資産の4%を上限とすることで貯蓄を取り崩すことなく生活が可能という考え方です。
例えば、簡単な例として1億円ある場合、4%で400万円の利回り(税引前)となり、その範囲で生活ができれば一生涯お金が減らないということです。1000万円の元本の場合は40万円となりますが、それでも年金やアルバイトに加えて投資による収益があれば生活を楽にします。
しかし、「年間生活費の25倍」を貯めるには、現役時代にかなり生活費を抑える必要があります。例えば年収の25%を貯金(75%で生活)すると3年間で1年分の生活費、30年で10年分の生活費が貯まる計算です。30年の間に資産運用等で資産を2倍程度に増やすことができれば、年間生活費の25倍の貯蓄を達成できなくもない数字ではあります。
FIREができたのも、リーマン・ショック後の12年間が低金利で株式市場がよいという投資環境がたまたま整っていたからかもしれません。2022年のS&P500のリターンは▲19.44%でした。2022年はプロ投資家にとっても一般個人投資家にとっても非常に厳しい1年間でした。
FIREを実現させるには時代によっては難しいかもしれません。しかし、概念自体は有効であって、時代に合わせてリターン率や貯蓄額の目標などの微調整は必要になるかと感じます。
さて、日本で老後資金を少しずつ育てていくのにぜひ活用したいのが「個人型確定拠出年金(iDeCo)」です。公的年金制度に上乗せして給付を受け取れる私的年金制度で、2017年1月から原則として60歳未満のすべての人が利用できるようになりました。60歳まで毎月一定額を拠出して、自分が指定した金融商品で運用をし、それを老後資金に充てることができます。
iDeCoのポイントは税制優遇が手厚いことです。拠出時(拠出した金額が全額所得控除され、所得税率が10%の人の場合は住民税と合わせて20%の節税効果となる)、運用時(一般的な預金の口座や証券口座では利益に対して約20%の税金がかかるが、この制度では非課税)、受取時(年金受け取りの場合は公的年金等控除が、一時金受け取りの場合は退職所得控除が適用される)の3段階で税制優遇が受けられます。
ただし、この制度の最大の注意点として、拠出したお金は原則60歳まで引き出せないという点が挙げられます。さらに、加入期間が10年未満だと受給開始が可能となる年齢が60歳ではなく61~65歳になる点も忘れてはいけません。iDeCoを利用する場合、老後まで引き出さないお金が原則になります。
もう少し中期的に運用をしたい場合は少額投資非課税制度(NISA)の利用をおすすめします。年間投資枠の中なら、株式投資に対する収益(配当や売却益)に対して税金がかかりません。2024年からNISA制度が拡大する予定なので、まずは税優遇のある制度を活用すればよいでしょう。
最後に老後の安心を確保する上に重要なことは健康と人とのつながりです。健康であれば医療費を削減することができます。私が住んでいるシンガポールでも体育館などの運動施設予約アプリに政府がポイントを付与してくれており、コート代などに使用することができています。また、アプリで運動の記録をするとスーパーのバウチャーをもらえたりします。政府の非常に賢い政策だと感じますが、個々人も医療費削減のためにも運動を継続することが重要です。歩いたり、ランニングなどお金のかからない運動でもよいでしょう。
また、人と人とのつながりがあれば孤独死などを避けることができます。また、ルームシェアをすれば賃料をシェアすることができるので住居費を減らすことができます。幸せな老後を作るにも日々の努力が必要です。こんなはずではなかったと後悔しないためにも現役時代からコツコツ努力をして、貯蓄、人脈、健康等を蓄積し続けておきましょう。
―――――――――
「#生活危機」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。
急速な円安の進展、相次ぐ値上げ、光熱費の高騰ーー私たちの生活は今後どうなるのか、危機に陥った生活をどのようにして立て直すのか。Yahoo!ニュースと一緒に考えてみませんか。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
―――――――――