ICJ提訴への布石? 国連人権理事会での日韓の「慰安婦バトル」
慰安婦問題をめぐる日韓のバトルが場外でも演じられた。ジュネーブで開かれた国連人権理事会で昨日(24日)、慰安婦問題を巡って日韓の間で激しいバトルがあったと、報道されている。
事の発端は、前日に韓国の崔鍾文外交部第2次官が理事会ハイレベル会合でのビデオ演説で「我々が取り組むべき緊急の問題は、紛争中、そして紛争後の性暴力である」とし、「慰安婦の悲劇を普遍的な人権問題として取り扱い、こうした深刻な人権侵害の再発を防がなければならない」と述べ、慰安婦問題を持ち出したことによる。
韓国は2015年の日韓合意で「韓国政府は今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で,日本政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える」ことを約束していた。
韓国は実際に2015年の日韓合意後、日本との申し合わせに基づき国連などの国際舞台で慰安婦問題を取り上げなかった。しかし、日韓合意を交わした朴槿恵政権から「この合意には問題がある」と主張していた文在寅大統領が政権の座に就くと「韓日合意に問題があった」と発表し、2018年からは国連人権理事会で慰安婦問題を続けて取り上げていた。
しかし、今年は、ソウル地裁が先月日本政府に対して慰安婦被害者らに損害賠償を命じた判決もあってこれまでとは少し事情が異なるようだ。
「解決した」「していない」で揉めに揉めている慰安婦問題について当事者の一人である元慰安婦の李容洙さんが今月16日にソウルで記者会見を開き、国際司法裁判所(ICJ)に付託して解決するよう求めたのは周知のとおりである。
この李さんの訴えに韓国外交部は「慎重に検討する」方針を明らかにしていた。というのも文在寅大統領が終始一貫「被害者が納得しなければ」と言い続けていたからだ。しかし、ICJに提訴するにしても、勝算を見極めなければならない。国際社会の反応を探る必要がある。国連人権理事会はまさにその格好の場である。
(元慰安婦の「ICJ提訴」爆弾発言で吹っ飛んだ文在寅政権の「解決策」)
崔次官のこの発言に対して日本は黙ってはいなかった。早速、日本のジュネーブ代表部は答弁権を行使し、「日本としては韓国の2月23日の演説を受け入れられない」として、「日韓両国は2015年12月の日韓合意に基づき、国連など国際社会でこの問題と関連した非難と批判を自制することを確認した」こと、また「合意に従い、日本が10億円の拠出を含め約束したすべての措置を取った」として韓国側の発言に異を唱え、この問題における日本の正当性を主張した。また、ソウル地裁が日本政府に損害賠償を命じたソウル地裁の判決についても「非常に遺憾で受容できない。明白な国際法違反であり、両国の合意にも反している」と主張した。
日本の反論に対して韓国のジュネーブ代表部も反論権を行使し、「慰安婦問題は2015年の日韓合意で完全に、不可逆的に解決した」との日本の主張に「両国間の公式合意と言う点で政府次元では追加請求をしていないが、被害当事者らの問題提起は妨げることはできない」と主張していた。
この国連人権理事会での日韓のバトルをみると、まるでICJの前哨戦のようでもある。
慰安婦問題では李明博政権下の2012年にも国連総会第3委員会で応酬があったが、この時は、日本は防戦に追われていた感じだった。しかし、今年は日本も一歩も引かず、論戦に真っ向挑んでいたようだ。
テーマがなんであれ、2国間の問題を国連の場に持ち出すのは得策ではない。いかに反論したとしても相手から非難されれば、対外イメージを損なう。
日本も、韓国も国際社会の「理解」と「支持」を期待しているようだが、国際社会は日韓の問題にほとんど関心を寄せていないのが実情だ。どうにもならない問題を持ち出されても困るというのが多くの国の共通認識ではないだろうか。