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「リアル北斗の拳」と呼ばれるソマリアの今ー2022W杯カタール大会出場へ向けた戦い

下村靖樹フリージャーナリスト
ソマリア代表チームのホームグラウンドだったモガディシュスタジアム(撮影/著者)

約1ヶ月にわたり熱戦が続いたW杯も、フランスの優勝で幕を閉じました。

フランス代表には、アフリカにルーツを持つ選手が14人もいるため、アフリカ関連のSNSやニュースサイトでも、フランス勝利を喜ぶ声があふれています。

しかしその一方で、日本と対戦したセネガルを含む5カ国すべてが予選敗退に終わったことに、危機感を覚える声も多数ありました。(1986年W杯メキシコ大会から続いていたアフリカ勢の決勝トーナメント進出という記録も途絶えてしまったそうです)

そんな悩めるアフリカ勢の中でも最弱、FIFAランキング最下位(206位)、ソマリアのサッカー事情についてご紹介します。

99戦/9勝11分79敗

2002年当時のソマリア代表チーム控え選手たち。レギュラーメンバーはコーチとの間でトラブルが発生し撮影できなかった(撮影/著者)
2002年当時のソマリア代表チーム控え選手たち。レギュラーメンバーはコーチとの間でトラブルが発生し撮影できなかった(撮影/著者)

99戦/9勝11分79敗とは、ソマリア男子サッカーA代表の国際試合通算成績です。

直近の勝利は2008年の親善試合、対ジブチ戦(3-2で勝利)。

国内の治安や政治が落ち着かず、そもそもの試合数が少ないとはいえ、10年間(29試合)未勝利……。

応援する国民はつらいところです。

ソマリアでは1991年に内戦が始まって以降、2012年8月に現在の連邦政府が樹立されるまで、いわゆる無政府状態でした。

しかしその間もソマリアサッカー連盟は活動を続け、1994年にA代表による国際親善試合を再開。

2002年W杯日韓大会予選にも参加しました(アフリカ予選敗退)。

少し横道にそれますが、今回当記事を作成中に、恥ずかしながらW杯予選は出場国の決定方法が地域毎に異なることを初めて知りました。

ちなみにアフリカ予選は、3段階選抜でした。

1次予選

【参加国】

出場国をFIFAランキングで二つに分け、ランキング下位26カ国のみが参加(※1)

【対戦国の決定方法】

抽選

【試合形式】

ホームアンドアウェー方式(計2試合)

2次予選

【参加国】

1次予選の勝者13カ国と、ランキング上位27カ国を加えた40カ国

【対戦国の決定方法】

・「ランキング上位1~13位の国」対「1次予選の勝者13カ国」

・「ランキング14~20位」対「ランキング21~27位」

と二つに分け、それぞれ抽選で対戦国を決定

【試合形式】

ホームアンドアウェー方式(計2試合)

3次予選

【参加国】

2次予選の勝者20カ国

【対戦国の決定方法】

シード枠を設け、シード上位チームが分かれるよう4カ国×5グループに分類

より詳しくはWikipediaをご参照ください

【試合形式】

ホームアンドアウェー方式の総当たり戦(2試合×3カ国)

※グループ1位のみがW杯に出場。

今回のW杯ロシア大会アフリカ予選。残念ながら、ソマリア代表は1次予選でニジェールに0-4、0-2で破れ予選敗退でした。

首都モガデイシュ・最大のリドビーチ(撮影/著者)
首都モガデイシュ・最大のリドビーチ(撮影/著者)

代表チームは奮いませんが、他のアフリカ諸国同様、最も人気があるスポーツは間違いなくサッカーです。

ソマリアにも8チームからなる「Somalia Premier League」という国内リーグが存在します。

ただやはり人気が高いのは、衛星放送で試合を観戦できるイギリス・プレミアリーグ。

特に、マンチェスター・ユナイテッドやチェルシー、リバプールのファンが多いようです。

ヨーロッパのチームでプロサッカー選手になることを夢見て、ビニールやぼろ切れを丸めて作った「ボール」を、多くの子どもたちが必死に追いかけていました。

サッカーを見る者には罰を

内戦により朽ち果てたモガディシュスタジアム。現在、中国政府による修復工事が行われている(撮影/著者)
内戦により朽ち果てたモガディシュスタジアム。現在、中国政府による修復工事が行われている(撮影/著者)

ソマリア最大の反政府組織であるイスラム武装勢力のアルシャバブは、サッカーは西洋文化の象徴であるとともに、人間を堕落させるとして嫌悪しており、プレーすることもテレビで見ることも禁じています。

また、2010年W杯南アフリカ大会開催時には、敵対しているAMISOM(アフリカ連合ソマリアミッション)の中枢を担うウガンダの首都カンパラのレストランで爆弾テロを決行。決勝戦を観戦するため集まっていた64名の命を奪いました。

実は今回のW杯ロシア大会でも、開幕直前の6月初旬に、アルシャバブから脅迫を受けた30カ所近いサッカー場が閉鎖され、20年続いてきた大会が中止に追い込まれたと伝えるきな臭いニュースが流れました。

一応、連邦政府がソマリアを統治しているものの、依然としてアルシャバブの勢力は侮れず、今大会開催中、ソマリアの首都モガディシュを始め、2010年に爆弾テロを受けたウガンダでも厳重な警戒をしていたそうです。

幸いなことに、関係者の尽力もあって両国共にサッカー関連を標的にしたテロは、今回のW杯中には発生しませんでした。(※2)

変わりゆくソマリアのサッカー事情 

現在ソマリアで最も勢いがあり注目されているのは、U-17ソマリア代表です。

今年6月にブルンジで行われた「U-17 CECAFA(東部・中部アフリカ)チャンピオンシップ」で予選(8カ国参加)を突破。(※3)

決勝トーナメントでは、W杯ロシア大会・アフリカ予選で最終予選まで残ったFIFAランク74位(2018年5月時点)のウガンダを破り決勝進出。

惜しくも0-2でタンザニアに敗れはしたものの、FIFA主催大会におけるソマリア史上最高の成績「準優勝」を勝ち取りました。

大統領も決勝戦をテレビの生中継で観戦し、試合終了直後に選手達を称える声明を出すなど、ソマリア全体が大変盛り上がったようです。

未だソマリア国内ではテロが発生することもあるため、まだ安全な国だとはいえませんが、「リアル北斗の拳」と呼ばれていた一昔前と2012年の連邦政府樹立後を比較すると、目に見えて治安が良くなっています。

2016年にはFIFAのフォワードプログラム(※4)も開始され、今回好成績をあげたU-17代表選手たちをはじめとする、ユース世代の育成が始まりました。

「ついに」なのか「やっと」なのか悩むところですが、ソマリアのサッカー界は1991年の内戦発生以来、初めてしっかりとしたチーム作りが始まったといえるでしょう。

U-17の代表選手たちは、次回W杯次にはA代表の中心選手になっている可能性が高く、非常に期待されているようです。

そんな彼らの次の目標は、8月から予選が始まる「2019 U-17アフリカ・ネイションズカップ」の本戦へ出場すること。

同大会で4位以内に入ると、2019年10月に南米ペルーで開催される「2019 U-17ワールドカップ」への出場権が得られます。

空き地でサッカーに興じる少年たち(撮影:著者)
空き地でサッカーに興じる少年たち(撮影:著者)

FIFAランキング最下位の国が、4年後のW杯出場を目指すのは非現実的かもしれません。

しかしテロの脅威にさらされ、アルシャバブの脅迫に怯えながらもサッカーを続けてきた彼らが、生き生きとグラウンドで奮闘する姿は、新生ソマリアの象徴として、間違いなく世界の人々に勇気と感動を与えるはずです。

2022年W杯カタール大会の舞台で、「サムライブルー」と「オーシャンスターズ(ソマリア代表のニックネーム)」の対戦を見てみいたいものです。

※1 今回のロシア大会アフリカ予選にジンバブエは不参加

※2 サッカー関連は狙われませんでしたが、ソマリアの首都モガディシュで内務省を狙ったテロが7月7日に発生し20名以上の命が奪われました。また他にも大会期間中に約30件近いテロが発生してしまいました

※3 CECAFA登録国

ブルンジ、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、ルワンダ、ソマリア、南スーダン、スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンジバル

※4 FIFAフォワードプログラム(英語サイト)

フリージャーナリスト

1992年に初めてアフリカを訪問し、「目を覆いたくなる残酷さ」と「無尽蔵な包容力」が同居する不思議な世界の虜となる。現在は、長期テーマとして「ルワンダ(1995~)」・「子ども兵士問題(2000年~)」・「ソマリア(2002年~)」を継続取材中。主に記事執筆や講演などを通し、内戦や飢饉などのネガティブな話題だけではなくアフリカが持つ数多くの魅力や可能性を伝え、一人でも多くの人にアフリカへの親しみと関心を持ってもらう事を目標に活動している。 

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