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日本の放射能雨と核実験を検知する地震観測網

饒村曜気象予報士
Toy soldiers fighting on map(写真:アフロ)

中国で核実験をすると日本では放射能雨

 今から54年前の昭和39年(1964年)10月10日、東京オリンピックの開会式が青空の下で盛大に行われています。

 日本中がオリンピックにわきたっていた10月16日、中国はタクラマカン砂漠で、核実験を行っています。アジアでは初、世界で5番目の実験でした。

 中国は、台湾にある中華民国が国としてオリンピックに参加することは認めないとして、オリンピック大会のボイコットを続けていました。昭和39年のオリンピック東京大会もボイコットでした。

 そして、オリンピックという世界中が注目しているタイミングで、存在をアピールするかのように核実験をしたのです。

 中国は、核実験を秘密裏に行いましたが、大気中に放射線を出すチリが放出されます。このため、各国が大気中のチリやチリを含んだ降水(放射能雨)についての放射線を測定・分析することで、おぼろげながら核実験の概略がわかります。

 核実験によって生じた放射能を含んだチリが偏西風に乗って日本にやってくるのではないかという懸念があったため、気象庁では全国各地で雨粒や雨が上がった後の大気の放射線を測定しています。

 そして、17日夜半から18日にかけ、深い気圧の谷が通過してほぼ全国的に20ミリ程度のまとまった雨がふったとき、微量ですが、雨の中に放射線を出す物質が含まれていました。

 放射能対策本部(本部長は愛知揆一科学技術庁長官)は、19日夕方、「中国の核実験によって日本に降った放射能チリは、1平方メートル当たり12万キューリで平常の100倍に達したが、特に人体への影響はない」と発表しました。

核実験を地震観測網で

 核実験の詳細が他国に悟られないよう、核実験は大気中に放射性物質がでない地下で行うようになりましたが、日本が重要な役割をした地震観測網によって、地下で核実験を行ったとしても、直ちに詳細がわかる時代になってきました。

 秘密裏の核実験は不可能になったのです。

 平成8年(1996年)9月に採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)では、宇宙空間・大気圏内・水中・地下を含むあらゆる空間における核兵器の核爆発を禁止しています。

 そして、条約の順守を検証するため、世界中に24時間核実験を監視する「国際監視制度(IMS=International Monitoring System)」というシステムが張り巡らされています。

 このため、世界のどこかで地下核実験が秘密裏に行われても、すぐに場所と実験の規模が知れ渡ります。

北朝鮮の核実験

 北朝鮮では、これまで6回の核実験を行っています。

平成8年(1996年)10月9日

平成11年(1999年)5月25日

平成25年(2013年)2月12日

平成28年(2016年)1月6日

平成28年(2016年)9月9日

平成29年(2017年)9月3日

 平成29年9月3日に北朝鮮が6回目の核実験を行ったとき、気象庁は次のような情報を発表しました。

北朝鮮付近を震源とする地震波の観測について

報道発表日 平成29年9月3日

平成29年9月3日12時31分頃(日本時間)、気象庁において北朝鮮付近を震源とする地震波を観測しました。この地震は、自然地震ではない可能性があります。

発生時刻:12時29分57秒

北緯:41.3度

東経:129.1度

深さ:0キロメートル

マグニチュード:6.1

 図1、図2、図3は、平成29年(2017年)9月3日の核実験のときの地震波と、平成14年(2002年)4月17日の自然地震の地震波を比べたものです。

図1 核実験の波形(平成29年9月3日12時29分57秒)
図1 核実験の波形(平成29年9月3日12時29分57秒)
図2 自然地震の波形(平成14年4月17日7時52分38秒)
図2 自然地震の波形(平成14年4月17日7時52分38秒)
図3 波形比較に利用した地震観測点(牡丹江)の位置と震央
図3 波形比較に利用した地震観測点(牡丹江)の位置と震央

 すぐにわかるように、自然に発生する地震は、小さな揺れから始まり大きな揺れが続きますが、核実験など人工的に発生させる地震は、いきなり大きな揺れが発生します。

 大気も陸地も海もつながっていますので、国境を越えて影響が広がります。地震災害を防ぐための各国の協力体制が、核実験の検知につながっているという皮肉な結果が存在しています。

図1、図2、図3の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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