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日本映画の常識となった、予算を出し合う「製作委員会」。なんと42社も集まった作品が登場。その意義は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
人気キャラクターの藤枝梅安を演じるのは豊川悦司

日本映画を観ると、エンドロールの最後におなじみのクレジットが出てくる。「製作委員会」「フィルムパートナーズ」といった名称だ。

そこにはテレビ局や出版社といったメディア、俳優が所属する事務所など、いくつかの企業名が並ぶ。基本的にこの製作委員会やフィルムパートナーズ(名称が違うだけ)は、映画の製作費を出資し、著作権を有するというシステム。簡単にいえば「スポンサー」。作品によってさまざまな契約、関わり方があるものの、映画を作るうえでの“共同体”である。映画のスチル(画像)をメディアで使用する場合は、「『〜作品名〜』製作委員会」などと表記され、著作権が示されている。

作品が大ヒットすれば、製作委員会で収益を分け、逆に作品がコケた場合でも、損失を製作委員会の各社で分担すれば、一社当たりの傷は少なくて済む。ある意味、合理的。ただし多くの会社が複雑なかたちで権利を有することで、その作品の海外リメイクが難しくなったり、意思統一の面でいくつか問題が生じる、という話も聞く。

通常、この製作委員会やフィルムパートナーズは、5〜6社というパターンが多かったりする。しかし、たまに「こんなにたくさん!?」という製作委員会の作品に出会うこともある。時代小説の大家、池波正太郎生誕100年企画として、2/3、4/7と二部作で公開される本格時代劇映画『仕掛人・藤枝梅安』(以下、『梅安』)は、その数がなんと……42社! おそらく日本映画の歴史でも最大級の数ではないだろうか。

『仕掛人・藤枝梅安』時代劇パートナーズ42社の内訳は、ローカルも含めた地上波のテレビ局が24社、新聞社が7社、その他、スカパー!、NTTドコモ、BSフジ、講談社など。

「船頭多くして船山に登る」

そんな諺もあるとおり、スポンサーが多くなると、統率もとりづらいのではないか。それぞれの要望に十分に応えられるのか。異例の数の多さについて、『梅安』のエグゼクティブ・プロデューサーで、『梅安』時代劇パートナーズの幹事会社を務める日本映画放送の宮川朋之氏に聞いた。

ーー「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズという名称の下、42社が集まりましたが、なぜここまでの数になったのでしょう。

宮川「まずは『製作費を集める』ことが第一義ですが、それ以上に映画の宣伝を積極的にお願いしたいからです。たとえばフジテレビや日本テレビのように東京のキー局の映画であれば、自社のバラエティ番組での宣伝や、自社枠にテレビスポットを打つという、費用対効果の高い宣伝が可能になります。ですから製作費だけでなく、宣伝への協力を重視してお声がけしたところ、受け入れてくださったのが42社に上った、ということです」

ーーただ、どんな作品でも同じような結果になったとは思えませんが……。

宮川「ひとつの理想があったからではないでしょうか。それは時代劇と、製作の現場を支える匠の技の継承です。『梅安』はじめ、本格的な時代劇は京都で製作されていますが、それは多くの先達によって長年培われた職人技の世界であり、一度途切れてしまうことは、“メイド・イン・ジャパン”コンテンツが永遠に消失することを意味します。『時代劇の火を消すな』という僕らの切実な願いが届き、賛同を得ることができました。そこに池波正太郎先生の生誕100周年というメモリアルも重なり、『梅安』を二作品という大きなスケールで作ることの意味が、アピールの要素になったと思います」

ーーつまりパートナーズになるうえで、単に収益が目的ではなく、志の高さも重要であると。

宮川「近年、大人のエンターテインメントが少なくなっています。『利益が出やすい』という理由でF1層(20〜34歳の女性)、F2層(35〜49歳の女性)向けの映画が作られやすく、それが時代劇というジャンルだったとしても、僕らの期待している作品とは違っていたりする。たとえば1970年代は、テレビのゴールデンタイムがすべて時代劇だった……という状況もありました。往年の名作『必殺仕掛人』や『木枯し紋次郎』のような時代劇特有の明暗がある作品は、たしかに近年、ビジネスになりづらいかもしれません。だからこそ、本物の時代劇、しかもクオリティの高い作品への期待感が、今回、パートナーズの志の高さとして示されたのではないでしょうか」

ーーパートナーズは、作品に対してどのように要望を出せるのか、その関与について教えてください。

宮川「これだけ多くのみなさまから、脚本やキャスティングへのご意見をうかがっていたら収拾がつかなくなります。みなさん、大人の対応をしてくださいました。われわれ日本映画放送が運営する時代劇専門チャンネルは、2011年から約10年間、24作品のオリジナル時代劇を作ってまいりましたので『任せれば大丈夫』という信頼感を得られたのです。経済的にも幹事会社である弊社が最も多く負担させていただいているので、リスクを負う会社が勝ちに行こうという姿勢を見守ってもらえた気がします」

ーーパートナーズにローカルのテレビ局が多いですが、どんなメリットが?

宮川「通常、たとえば映画のメイキング映像を流してもらう場合、そのテレビ局に(CMなど)出稿していないと難しい場合があります。しかしパートナーズであることで、そういった映像も流してもらえる。今回、作品を気に入ってくださった落合博満さんにご出演いただき、2分間のCMを制作しました。われわれは『通販型CM』と呼んでいますが、ローカル局や民放BS局ですと、この長さでも流していただけます。その意味でパートナーズの存在は大きかったですね」

ーーテレビはローカル局の「系列」があるから多くなるのは理解できますが、今回、異例なのは新聞社です。朝日、読売、毎日、産経、中日、西日本、京都……と、7社も入っている。通常の作品では製作委員会で競合紙があまり被らないですよね。

宮川「新聞7社様とは、オリジナル時代劇、約10年間の歴史のなかで、ご取材いただいたり、ご出稿させていただいたりするなど、信頼関係を深めてまいりました。競合というよりは、逆に志を同じくする仲間として、7社、8紙のロゴを並べて、『梅安』のノベルティとなるタイアップ新聞を作ろう、という発想が生まれました。大手新聞のロゴが1カ所に並ぶのは通常ありえないので、業界内インパクトは大きくなると思います」

ーーとはいえ、42社も参加しているとなると、やりとりだけで苦労も多いのでは?

宮川「今回の場合、1社2人が会議に出るとしても100人近くになります。もし実際に会議室で行ったら大変なことになっていたはずですが、コロナ禍でリモート会議が定着したことで、スムーズに運んだと感じます。たしかに各社が提案してくださるプロモーション方法は必然的に量が多くなり、対応にも時間がかかりましたが、そこに対しては『うれしい悲鳴』という気持ちが強いですね」

ーー日本映画における製作委員会について、現在の状況をどう考えていますか?

宮川「あらかじめヒットが予想されているような作品は製作委員会に参加するにもハードルが高く、メインの3社くらいで、製作委員会が“小さく”なりやすいのです。逆にリスクが高い作品は製作委員会の数が増えている状況です。ただ、数が多いことで、思いもよらぬアイデアが出たり、ネットワークの広がりが感じられたりと、経済条件だけではないところから何かが生まれる喜びがあるのも事実でしょう。製作委員会の現状に関しては、そのように受け止めています」

ハリウッド映画とは違い、日本映画には欠かせないシステムとなった製作委員会。「時代劇を守るのではなく、進化させたい」という宮川氏の意図を汲み、42社もの製作委員会=パートナーズの役割と意思がどのように効果を発揮するのか。豪華キャストによる時代劇大作『仕掛人・藤枝梅安』は、それが試される一作になりそうだ。

「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社は以下のとおり

日本映画放送 スカパー! NTTドコモ イオンエンターテイメント クオラス 関西テレビ放送 朝日新聞社 中日新聞社 BSフジ 読売新聞社 京都新聞 講談社 産経新聞社 西日本新聞社 毎日新聞社 東海テレビ放送 アシスト カルチュア・エンタテインメント リイド社 秋田テレビ 石川テレビ 岩手めんこいテレビ 岡山放送 鹿児島テレビ 岐阜放送 KBS京都 サガテレビ サンテレビ 仙台放送 千葉テレビ放送 テレビ愛媛 テレビ神奈川 テレビ熊本 テレビ埼玉 テレビ静岡 テレビ新広島 テレビ長崎 テレビ西日本 テレビ北海道 長野放送 福井テレビ 福島テレビ

『仕掛人・藤枝梅安㊀㊁』

第一作 2月3日(金)/第二作 4月7日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

配給:イオンエンターテイメント

(c)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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