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東京五輪パラ、舛添・新都知事の課題は?

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

東京都の舛添要一新知事が誕生した。都知事選挙では細川護煕元首相ら他陣営の自滅もあって盛り上がりに欠けたけれど、舛添新知事が2020年東京五輪パラリンピックに向けて東京都のかじ取り役を務めることになった。まずは猪瀬直樹前知事の残した「負のイメージ」を払しょくしてもらいたい。

そのためには、選挙戦のネガティブキャンペーンで指摘されたカネの問題、女性の問題について、きっちり説明責任を果たすことだろう。猪瀬前知事みたいに逃げてはいけない。このところスポーツ界やビジネス界でよく使われる「インテグリティ(品格)」を大事にしなければならない。簡単に言えば、「ずるをするな」「汚いことをするな」ということだ。

舛添新知事は勝利インタビューで「東京を世界一の街にしたい」と言った。「防災も、経済も、何よりオリンピックを確実に成功させたい。世界に東京の魅力を発信したい」とも。五輪パラリンピックの成功ってなんだ? まだ観念論にすぎないが、これから具体策を打ち出していくことになろう。

20年東京五輪パラリンピックにおいて、課題は3つである。1つは、本人のコトバ通り、「東京をどう世界に発信していくのか」。東京の魅力といえば、何より経済力と治安のよさだろう。さらには、バリアフリー化の推進は当然として、もっと環境にやさしい街づくりを目指したらどうだ。

景観も大事にしてほしい。自然との調和を図り、コンクリート、アスファルトの街とのイメージを変えるのだ。突飛ながら、どこかに農場をつくってはどうか。

2つ目が、スポーツ界、政界、財界と一体となった「オールジャパン」の準備体制を築くことである。とくにスポーツ界とのスクラムだろう。猪瀬前知事の場合、スポーツ界や政界との関係がぎくしゃくしていた。

五輪パラの主会場となる新国立競技場の費用負担をめぐっては、国側ともめている。これでは円滑な準備はおぼつかない。落とし所はどこか。また1月末に発足した大会組織委員会と一緒にどう準備に取り組んでいくのか、スポーツ界の人々をどう巻き込んでいくのか、だ。

3つ目は、都民や地方との連携である。たしかに五輪憲章では、東京都と日本オリンピック委員会(JOC)が中心となって五輪パラを開催するのだが、もはや国のサポートなくしてこのビッグイベントは開くことができない。そこに都民の力をどう絡めていくのか。

さらには、全国的にどう盛り上げていくのか。東京五輪パラの国内的課題は被災地の復興である。世界的使命が平和への貢献である。

ついでにいえば、今回の選挙では、細川陣営の「原発ゼロ」の風は吹かなかった。が、今後もエネルギー問題は避けて通れないだろう。選挙では「原発ゼロ」を乗り越えたカタチとなったが、今後、それを支持した都民をどう納得させ、どう協調路線をつくれるのか。自然エネルギーをどう組みこんでいくのか。

65歳の舛添新知事は、柔道2段の腕前だそうだ。スポーツへの理解もあろう。実務能力、調整能力が高いと聞く。東京五輪パラの円滑な準備のため、周囲との意志疎通を図ることがまず、やるべきことである。「オールジャパン」による準備なくして、成功はありえない。

いずれにしろ、これからの東京都のかじ取り役の4年間を途中で投げ出すことなく、いや不祥事で辞めることなく、都民のためにしっかりリーダーシップをとっていただきたい。

20年東京五輪パラリンピックまで、もう6年しかない。キーワードが「インテグリティ」「オールジャパン」である。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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