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「知覧からの手紙」に欠かせない視点

木村正人在英国際ジャーナリスト

鹿児島県南九州市が特攻隊員の遺書の「世界記憶遺産」登録を国連教育科学文化機関(ユネスコ)本部に申請したことをどう受け止めていいのか、その狙いを確かめてみようと思って書いたエントリーにはやはり賛否両論があった。寄せられたコメントの一部を紹介しよう。

日英兵士の和解団体「ビルマ作戦協会」の昭子マクドナルド会長

(英国在住、昭子さんの父はビルマ作戦に従軍。筆者へのメールで)

先日、まさしく知覧を舞台にした映画『俺は、君のためにこそ死ににいく』を観ました。特攻員達を世話し、食堂を経営する実在の鳥濱トメさん(故人)が岸恵子さんでは適役とは思えないものの、観賞に耐えるよく出来た映画に仕上げられていました。

しかしながら、特攻隊員の遺書をユネスコに世界の記憶遺産として登録することには反対です。なぜならば、世界の紛争や戦争が現実にあることと、欧米諸国にとっては、2001年の米中枢同時テロ、05年のロンドン地下鉄・バス爆破と自爆テロが記憶に新しく、被害者が大量に出たことが障害になるからです。

現在も多くのテロ攻撃がある国際社会では、イスラム教狂信と戦時中の日本の狂信的愛国心のシンボルである特攻は加害者として同質扱いされます。日本の特攻隊は誤解を招きます。

日本が戦争を仕掛け、他国で残虐行為をした旧日本軍と戦争捕虜(POW)の非人道的行為に対するマイナスの日本人観があります。

現在、問題を抱える慰安婦の国際論争がある中、かなり特異性のある特攻隊の物語は、現実の世界に違和感をもたらし、真の意味の理解を促すどころか、反対に先入観から日本にとってはまったく利にはならず、障壁となります。

日本の精神や文化は世界の基準では理解されにくいものがあります。 時期尚早です。

海外においても未だモノを言わない日本人。英語が苦手な日本人。欧米人と対等に、しかも自然に会話、議論が出来ない多数の日本人が、先入観と偏見に満ちた国や人びとに対して、日本の立場を伝えようとしても説得力がありません。

まず、日本の全国民が世界情勢を把握しなければならないでしょう。 日本人が「戦争の被害者」だったと言う論法は、その真相を理解したいという興味を抱く知的能力がある国や、寛容なる民族でなくては無理です。

現在、第二次大戦は日本が「ギルティー(有罪)」と言う前提からなる世界通念があることを踏まえた上で、長い時間をかけて日本と日本人の本質を世界に理解してもらえるよう力を付けて行くことが先決と考えます。

※『俺は、君のためにこそ死ににいく』は2月下旬、ロンドンで無料上映された。

Yoshi Futagamiさん

(英国在住、筆者へのメールで)

映画『俺は、君のためにこそ死ににいく』を見ましたが、正直言って違和感がありました。私の父は当時海軍で特攻隊を志願した人間です。そのギリギリの状況での話を何度も何度も聞かされました。

上官からの一方的な命令は一切なく、あくまで志願者で構成されたと言っていました。父の部隊では志願者が多すぎて、父は書類選考で落とされて生き残りました。

現在のイスラム過激派の自爆テロと比較されますが、類似性に関しては、私は100%否定できません。崇高な美談と言えばそうかもしれませんが、犬死にを強要した国家的犯罪という父の意見の方を支持したい気持ちです。

イスラム過激派の自爆テロのニュースをみて、どうしても昔の日本の特攻と重なって見えます。映画『俺は、君のためにこそ死ににいく』はたぶん、世界的には受け入れられないと思います。

「人間無視の思想」を、父はいつも酒を飲みながら私に100回以上話してくれたことを思い出しました。

今村美貴さん

(Yahooニュース個人のコメント欄から)

わたしは、『永遠の0』を読んだとき、これまであまり語られてこなかった戦争の真実が書かれているように感じました。それからこの作品は是非映画化してほしい、と感じました。

決してこのような戦争が繰り返されないように、命の大切さ、そしてどんな時でも信念を持って生きることを学んだように思います。

特攻隊、日の丸、靖国、単語だけでヒステリックな反応を示される方が多いと感じます。

何事も一体何を言わんとしているのか、何を伝えたいのか、真っ白な気持ちでこの遺書を読んでみれば、その行間からその人たちの心を感じることができるのではないでしょうか?

感謝とあふれんばかりの愛情が伝わってきます。どんなにか生きたかったことだろうと思います。

kontaさん

(筆者のブログ「木村正人のロンドンでつぶやいたろう」へのコメント)

全く同感です。

今の日本の一部の人たちはどうかしています。要らざる時期に靖国神社に参拝し、国益を損なう安倍首相に心底落胆し、怒りを感じます。いわゆるネット右翼、百田氏(ベストセラー『永遠の0』の作家)、籾井氏(NHK会長)、その他、政府高官の感情的な意見にもうんざりです。

底の浅い愛国心に酔って、完全に国益を損なっている。中国や韓国がおかしな振る舞いをしたら、それと同レベルに落ちて相手のことばかりけなす、なじる。

この方々の無思慮な行動のせいで、知覧の申請は、色眼鏡で見られ、その手紙を見ることもないまま、多くの人たちに、どうせ軍国主義に染まった狂信者だと思われてしまうことでしょう。

それこそ、特攻隊の方々の名誉を著しく損なう結果となります。

むのきらんサン

(BLOGOSのコメント欄)

私も、報道に接し、筆者と同じように当惑を感じました。筆者が引用した中島勇一郎氏のコメントになるほどと感じました。特に「しかし、登録申請を発表する際、海外に対するインパクトをまったく考えていなかった」ということは、明らかと思います。

「善意」が、そのまま伝わるならば、パブリックディプロマシーという概念は不要です。今後、日本ユネスコ国内委員会の判断が注目されます。

<特攻隊員の遺書にこそ「戦争の真実」があるというのが福島さん、中島さん、南九州市の霜出市長の主張だ。>

戦争の真実には諸相があると思いますが、これもまた重要な真実であることには同感です。「特攻」にも諸相があり、一言で語りきれるものではありません。遺書も含めて、当時の諸状況全体が戦争の真実であると考えます。一面を単純化してとらえるのではく、各種の一次史料から、何を読取り、どう考えるか、ということが大事だと思います。

<来年は戦後70年。日本人は「戦争の真実」を見つめ、国を守ること、平和を守ること、生きることと死ぬことと、他国との交わりを真剣に考えなければなるまい。私たちは「知覧からの手紙」の真意をしっかり胸に受け止め、世界に伝えることができるのだろうか。>

抽象的な結語ですが、基本的な問題認識として同感です。正直を申すと、戦争は不幸をもたらすという原則論以上に、「真意」をしっかりと受け止めることは、極めて多様かつ複雑な作業のようにも思うのです。私たちが意味を付与して伝えることが不適切なほどに。

xJUfIRuBBwさん

(BLOGOSのコメント欄)

私は鹿児島県に生まれ、学校の見学でも私的でも何度も何度も知覧町(現:南九州市)の知覧特攻平和会館を訪れた。

そこで教えられるのは死んでいった人の賛美ではない。

このことは行ったことのある人ならだれでもわかる。

ろくな取材もしないBBCも日本人差別がしたいだけの中韓政府・報道関係者も電話で聞いたくらいで取材した気になっている筆者もろくに理解もしていないくせに偉そうなこと書くな!

恥を知れ!

もう一点補足すれば

特攻は知覧だけではない。

鹿屋の海軍飛行隊(今の海上自衛隊航空基地)や鹿児島市からも特攻機は飛び立った。

回天だって特攻だ。

平和を求めているふりをして戯言を並べる連中の薄っぺらい言説はもうたくさんだ。

Main Endoさん

(BLOGOSのコメント欄)

ああ、これはタイミングが不利に作用しますね。残念です。遺書がこのまま奇異の目と曲解に晒されながら広められてしまうのは、何よりも命を捧げられた方々に対し忸怩たる思いです。

>私たちは「知覧からの手紙」の真意をしっかり胸に受け止め、世界に伝えることができるのだろうか。

これが私たちの責任だと思います。

遠く離れた英国から日本を見ていると、あまり他の国のことは考えていないんだろうなと思うことがある。冒頭の昭子マクドナルドさんが会長を務めるビルマ作戦協会の会合に時々、顔を出すが、英国兵士からの視点、日本兵士からの視点、そして戦場になったミャンマーの視点が欠かせないことを痛感させられる。

援蒋ルートの遮断を目的としたインパール作戦は「無謀な作戦」の代名詞とされ、退却路に餓死した日本兵の死体で「白骨街道」が築かれた。特攻隊員も、腐乱して死んだ日本兵も同じ無念を噛み締めていたと思う。

第二次大戦のビルマ戦線で激しく戦った日本と英国の「最後の和解」がなったのは2012年8月。実に終戦から67年の歳月が過ぎていた。

元日本兵の故・平久保正男氏らを中心とする「ビルマ作戦協会」などの尽力で日英兵士同士の和解は進んだが、最後の最後まで和解に応じようとしなかった英国の退役軍人会「ビルマ・スター協会」が追悼式典に初めて在英日本人の出席を認めた。

ビルマ・スター協会のベッドフォード支部は高齢化が進み、生存しているのは当時で90歳前後の5人だけ。軍旗を教会に奉納し、活動を停止するため、式典に私たち日本人を招いたのだ。

軍旗を守ってきたビル・スマイリーさんは、戦線で瀕死の重症を負い、従軍できなくなった戦友をこれ以上苦しませないため撃った悲しい思い出がある。最後に日本人を許そうと思ったのは東日本大震災がきっかけだったという。

スマイリーさんは当時、「英国と日本の兵士は戦った。しかし、戦後、敵だった元日本兵との再会を求めた英兵士もいた。今、必要なことは和解と平和を祈ることだ」と話していた。戦争は旧交戦国と和解を遂げて、初めて本当の意味で終わりを迎える。

特攻に対する海外の先入観や偏見を解きながら、「知覧からの手紙」を世界に届けるには相当、慎重な配慮が求められるだろう。平和を祈るためには、かつての交戦国との和解が土台になる。世界記憶遺産の登録申請にもそうした視点が欠かせない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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