『THE W 2022』漫才はコントになぜ勝てないのか、司会者・後藤輝基の短評があらわした大会の傾向
女性芸人のなかでナンバーワンを決めるお笑いの賞レース『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』(日本テレビ系)が12月10日に開催され、天才ピアニストが優勝を飾った。
12組で決勝が争われた今大会。Aブロック、Bブロック、Cブロックに4組ずつ振り分けてファーストステージがおこなわれ、各ブロックからヨネダ2000、天才ピアニスト、紅しょうががファイナルステージへと進出。ファイナルステージでは天才ピアニストが審査員3票、視聴者による国民投票1票の計4票を獲得し、6代目女王の座に就いた。
天才ピアニストはファーストステージでカップルの痴話喧嘩を肴に酒を飲む女性のコント、ファイナルステージでは家族関係の悪化から現実逃避するためにVRの世界へのめりこむ母親の姿を描いたコントを披露した。
漫才巧者・天才ピアニスト、『M-1』ファイナリスト・ヨネダ2000は「コント勝負」を選択
『THE W』は異種格闘技的な賞レースで、ジャンルやスタイルは不問。漫才、コントなどが入り乱れる、混沌とした大会である。歴代優勝者は、ゆりやんレトリィバァ、阿佐ヶ谷姉妹、3時のヒロイン、吉住、オダウエダの5組。ピン芸人2組、コンビ2組、トリオ1組という風に勝者のスタイルがバラバラであることも特色のひとつだ。
なにより着目したいのが、過去大会の優勝者は全組、ファイナルステージではコントで勝負しているところ。またファーストステージでも、過去の優勝者のなかで漫才を選択したのは2019年の3時のヒロインのみ。『THE W』では、漫才よりもコント(もしくコント的なネタ)の方が有利なイメージがある。
『THE W 2022』ファイナリストを見わたしても、ファーストステージで漫才に挑んだのは、TEAM BANANA、爛々、にぼしいわしの3組のみ。ファイナルステージでは紅しょうがの1組。いずれも該当ステージで敗れる結果となった。
優勝した天才ピアニストは2022年の『NHK上方漫才コンテスト』で優勝し、『M-1グランプリ』でも準々決勝に2度進出するほどの漫才巧者だ。それでもファーストステージ、ファイナルステージともにコントを持ってきたのは、『THE W』は傾向的にコントの方が勝算があると踏んだからではないだろうか。
また『M-1グランプリ2022』ファイナリストのヨネダ2000もコント2本だった。こちらも同様の理由か、もしくは翌週に控える『M-1』に漫才の勝負ネタを温存する作戦だったのかもしれない。
司会者・後藤輝基が決勝時に口にした「新しさ」「あまり見たことがない」「なにしてんねん」
なぜ『THE W』では、漫才よりコントの方が強いのか。そのヒントは、司会者・後藤輝基(フットボールアワー)が決勝戦の各組のネタ終わりで口にしていた、何気ない短評にあったように思える。
天才ピアニストのネタ後、後藤輝基は「コントで使う小道具に新しさがあった。VRを使ったコントはあまり見たことがない」と言い、巨大なモヒカンを題材にしたヨネダ2000のコントついては「なにしてんねん、もう!」と声をあげた。
なんでもありだからこそ、どれだけ新鮮で驚きがあるかが重要になってくる。後藤輝基の「新しさ」「あまり見たことがない」「なにしてんねん」というコメントや反応は、実は『THE W』で勝ちあがるための傾向そのものをあらわしている。
審査員も言及した「印象の強さ」、コント有利の理由はネタの自在性
パッと見ての派手さやサプライズ感は、無意識に印象にのこりやすい。
特にファーストステージは「勝ち残りノックアウト方式」であるため、インパクトが勝敗の鍵を握る。同システムは、1組目でネタを披露した芸人が暫定1位に座り、次に登場する芸人と勝負。審査員は「どちらがおもしろいか」を投票し、勝ち残った方が続いて出てくる芸人と対戦していくやり方だ。
審査員も、ヨネダ2000のファーストステージのネタについて友近が「最初(登場時)のインパクト。あそこが忘れられない」、哲夫(笑い飯)が「顔が印象に残った」と語るなど、大会を通してたびたび「印象」という部分に言及する場面があった。そういった「印象点」も影響するからこそ、「どれだけ脳裏に焼きつけられるネタであるか」がポイントになる。さらに審査員だけではなく、「国民投票」という名の視聴者投票があることも忘れてはならない。そうなるとやはり「テレビ映え」する華やかなネタが有利に働くはず。
コントはキャラクターを作りこむことができ、さまざまなアイデアも取り入れられる。いろんな道具や衣装を駆使したり、照明や音楽を使ったり、ステージを広々と使うなど、ネタに自在性がある。そういった利点を持つからこそ、コントは『THE W』では漫才よりも「強い」と言えるのではないか。漫才で『THE W』を制するには、『M-1』で優勝したときの錦鯉、マヂカルラブリーのようなアクティブさが求められるだろう。
漫才で勝つには「プラスアルファ」が必要なのか
ファイナルステージで漫才勝負に打って出た紅しょうがのネタに対して、後藤輝基は「ふたりで爆発するみたいな(ネタだった)」と評した。漫才だろうが、コントだろうが、『THE W』はとにかく「爆発力」が必要だ。ただ「爆発力」の生み出しやすさに関しても、シンプルに考えるとやはりコントの方が旗色は良い。
一方、ファーストステージでコントが続いたこともあり、中盤で登場した爛々、最後のにぼしいわしが漫才を披露したとき、逆に瑞々しい感触を得た。コントが多いからこそ漫才が際立つこともある。それでも漫才で勝ち切るには「漫才プラス何か」が必要になるのかもしれない。
今後『THE W』を漫才で優勝する芸人はあらわれるのか。現状、ストレートな漫才勝負は厳しいだろう。