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アニマルハウスに見る空き家と固定資産税 ~税理士兼不動産鑑定士が税制の問題点と改正案を指摘する

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
アニマルハウス群を道路から望む。右も左も奥も空き家で、夕方に歩くのは抵抗が。

■アニマルハウスとは

少々前ですが、テレビ朝日やabemaニュースで報道された「アニマルハウス」と呼ばれる場所があります。

そこは、世田谷区の駒沢大学駅徒歩数分の高級住宅地内の一角です。ですが、その部分だけ、所有者の方には大変失礼ながら正直に申し上げると、どういうわけか「鬱蒼とした木々が茂り、放置された古くからの戸建住宅群が建ち並ぶ一角」となっています。

たまたま近隣住民の方に話をお聞きできたのですが、聞けば、ハクビシンやネズミ、シロアリ等が蔓延っていて、周辺環境にも明らかに悪影響とのこと。

筆者の本拠地も世田谷区ですので、ある晴れた日の夕方、サイクリングを兼ねて観察しに現地に赴くことにしました。

※この記事の写真はすべて筆者が道路から撮影したものです。

■現地の状況は

筆者がどうこう言いますより、写真をご覧いただいた方が早いでしょう。

不気味なことに、空き家群から音がすることもあります。

もしかして、ハクビシンやネズミ等かもしれません。

一部は解体されているが…。
一部は解体されているが…。

■放置されている理由の一つとして考えられるのは…

筆者はこれらの土地や建物の一部の登記の記録も取得してみたのですが、どうやら地域の地主の方の所有ではないかと推察されました。

また、建物は数戸あるうちの一部の登記の記録を取得してみたのですが、その限りでは昭和41年新築の木造の居宅でした。ただし、一部の建物はその敷地である土地の所有者と一致しておらず、親族が別々に所有している区画もあるものと推察されました。

アニマルハウスの西側半分は整地され、宅地開発ができそうな状態となっていた
アニマルハウスの西側半分は整地され、宅地開発ができそうな状態となっていた

まあ、個人の方の土地ですので、その方が土地をどう利用しても自由と言われればそれまでです。ただ、実にもったいないというのが実感です。

これは筆者の邪推ということで、ご容赦いただければと思います。

その上で、申し上げると、「もしかしたら親族間での財産整理、その他の何らかの理由で土地が現状維持しかできない」状況であるが、「住宅用途の建物を解体すると、税金が上がる」ので、解体したくともできない…という線も考えられなくはないとも感じました。

一方で、一部の建物はその敷地が建築基準法上の接道要件(一定の指定された道路に接していない敷地では、建物を建てられない)を充足していないと判断され単体での建て替えに制約がある面も、もしかしたら影響しているのかも・・とも思いました。

■住宅用途の建物を解体すると税金が上がるとは?

もしかしたら、読者の皆様も「空き家住宅を解体したら税金が上がる」という事実だけは耳にされたことがあるかもしれませんが、改めて説明させていただければと思います。

土地の固定資産税は、「固定資産税の世界での独特な目線に基づく評価額」である固定資産税評価額に一定の補正を施して固定資産税課税標準額を求め、これに税率等を考慮し税額を算出します。その一定の補正とは、以下になります。

住宅の場合…固定資産税評価額の1/6が固定資産税課税標準額となる(200平米以上の場合は、200平米を超える部分については1/6ではなく1/3)…小規模住宅用地の特例。

住宅以外の場合…固定資産税評価額の概ね6~7割程度が固定資産税課税標準額となる。

従って住宅以外の場合は住宅の場合と比較して、土地の固定資産税は6~7割÷1/6→4倍前後※に税額が上昇する。但し、小規模非住宅用地の特例適用の場合があるため、もう少し倍率が少ない場合もある。

※たまに、「住宅でなくなったら6倍の税額」と書いた書籍等がありますが、住宅以外の場合も固定資産税課税標準額は固定資産税評価額より安いので誤りです。

都市計画税も、やや分数の数字が異なる等はありますが、東京23区の場合は基本的には同様とみなしてよいでしょう。

つまり、この件も1戸あたりの住宅の敷地は200平米以内に収まりますので、うっかり建物を解体すると土地の固定資産税都市計画税が4倍前後に跳ね上がる…こととなります。これでは、うかつに建物の解体はできません。

新しい戸建住宅と、空き家の対比
新しい戸建住宅と、空き家の対比

■最後に~空き家の課税、これでよいのか?

まず、誤解を受けないために申し上げると、筆者は政府や自治体の早急なる財政健全化の必要性は感じていますが、一方で、景気の都合もありますから安易に増税することは反対です。

ですので、個人的にはこの支出を削るべき…という意見はありますが、それは本題とずれる話ですので、ここでは「安易な増税は賛同しない」との点をご理解いただければと思います。

その上で、「空き家」にまで小規模住宅用地の特例を適用する必要はあるのか・・との点は感じます。

そもそも、小規模住宅用地の特例は「国民の住居を守るために税制面で配慮する」のが意義のハズです。

「空き家」には、その意義がありませんし、近隣にもハクビシンやシロアリ等の害を及ぼす他、建物が傷んで飛散し人にケガをさせたり、不審者が住み込んで事件の温床となる弊害すらありますので、「空き家」はない方が望ましいはずです。

そして、「空き家」の存在は、国土の有効利用の阻害になっている点も忘れてはならないでしょう。

道路から空き家を望む
道路から空き家を望む

ただ、課税主体が空き家か否かまで把握しきれない…ので、現行の扱いになっているとも思われます。

個人的には、「課税明細が毎年送付される納税者本人が住んでいる家」以外については、毎年、「誰が住んでいるかの資料」を賃貸借契約書の写し等と共に都税事務所や各自治体に申告を義務づけて、その提出がない場合は小規模住宅用地の特例の適用を外し増税することが合理的と思っています。

こうすれば、取壊し費用の問題はありますが、空き家発生の抑制にはなるでしょう。ただ、これはあくまでも筆者の私案です。このあたりは、立法府が考えるべきでしょう。

大切なことは、「空き家」の存在は、国土の有効利用の阻害になっている点をも踏まえて、国民全体で考えていくべき話との点ではないでしょうか。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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