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お寺のお賽銭も工事費に!? 近鉄最初の路線・奈良線は生駒山の難工事と資金難を乗り越えて開業した!

鉄道乗蔵鉄道ライター
近鉄鶴橋駅の奈良方面ホーム(筆者撮影)

 日本の私鉄路線で国内屈指の路線網をもつ近畿日本鉄道(通称:近鉄)。近鉄は、大阪を拠点に京都府や奈良県、そして三重県や愛知県の名古屋駅まで路線網を展開し、都市間には特急列車の運行もあり、ほとんどの路線では線路幅が新幹線と同じ1435mmの標準機を採用しており、これはJR在来線の1067mmと比較して広い線路幅となっている。

 そんな近鉄の発祥となった路線がどこにあるのか読者の皆さんはご存じだろうか。近鉄の歴史は、前身となる大阪電気軌道(通称:大軌)が1914年に上本町-奈良間を開業させたことから始まる。これは現在の近鉄奈良線にあたる区間である。しかし、近鉄奈良線の建設に当たっては、当時すでに開業していた国有鉄道との差別化を図るため、大阪と奈良の間に横たわる生駒山地を長大トンネルでぶち抜き直線的に結ぶことを計画。

 大阪-奈良間には生駒山地を南側に迂回するルートで国有鉄道の関西本線(大和路線)が、北側に迂回するルートで片町線(学研都市線)が開業しており、これらの路線に対して所要時間で圧倒的な優位性を持つために、当初から標準軌の電車運転を念頭に計画が進められた。しかし、全長が3.4kmにも及ぶ生駒トンネルの工事は当時の技術力では相当な難工事であったようで、路線の建設を進める大軌は途中で資金難に陥り、この工事を請け負っていた大林組までもが倒産危機に陥ったことから、大軌では工事沿線の「お寺の賽銭」で資金調達を行ったという都市伝説も残されている。しかし、その後の近鉄の発展を見ると、生駒山地に長大トンネルを建設して大阪-奈良間の最短ルートを構成できたのは英断だったといえよう。

 今回は、そんな近鉄奈良線の魅力に迫りたい。

近鉄奈良線のルート(画像:Google Maps)
近鉄奈良線のルート(画像:Google Maps)

近鉄奈良線には鶴橋-大和西大寺間で乗車

生駒山地の麓に向かって一直線に伸びる線路。近鉄の線路幅はJR在来線と比較して広い(筆者撮影)
生駒山地の麓に向かって一直線に伸びる線路。近鉄の線路幅はJR在来線と比較して広い(筆者撮影)

 大阪駅前の新阪急ホテルに宿泊していた筆者は、近鉄奈良線へ乗車するべくJR大阪環状線との接続駅である鶴橋駅へと向かうことにした。今回は大阪市側の鶴橋駅から奈良市側の大和西大寺駅まで近鉄奈良線へと乗車する。鶴橋駅から乗車するのは7時48分発の近鉄奈良行の快速急行だ。

 近鉄奈良線は、大阪から生駒山地の麓までは一直線に走り、瓢箪山駅へ。瓢箪山駅を過ぎると30‰超えの急勾配で生駒山地を登りはじめ車窓には大阪平野の絶景が広がる。そして石切駅を過ぎたところで電車は全長約3.5kmの新生駒トンネルへと入った。

山越えの区間では車窓に大阪平野が広がる(筆者撮影)
山越えの区間では車窓に大阪平野が広がる(筆者撮影)

 開業当時から使われてきた生駒トンネルは1964年に新トンネルの新生駒トンネルが掘られたことから役割を終えている。これは旧トンネルの断面が狭小で大型の鉄道車両を運行できず、近鉄奈良線の輸送力増強の支障となっていたことから新たに掘りなおされたものだという。新トンネルになってからはトンネルの全長が若干伸びている。

 新生駒トンネルを抜けると電車は生駒駅に到着。生駒駅は奈良県側の生駒山麓のターミナル駅といった様相で、近鉄けいはんな線や近鉄生駒線とも接続している、

生駒トンネル入り口(筆者撮影)
生駒トンネル入り口(筆者撮影)

 そして、鶴橋駅を発車してわずか23分で電車は大和西大寺駅に到着。筆者はここで下車をしてさらにこの先の目的地である天理行の普通列車へと乗り換えた。なお、天理市への訪問については2024年8月10日付記事(「ようこそおかえり!」の異色の宗教都市 世界人類発祥の地という「奈良県天理市」に行ってみた!)で詳しく記している。

 近鉄発祥の路線である近鉄奈良線。そのまま電車に乗っているだけでは大阪から奈良まであっという間に移動することができ快適な路線であるが、その実現のためには土木技術が発達していない時代に全長3.4kmにもおよぶ生駒トンネルの難工事と資金難を乗り越えてその開業を実現させたという、筆者にとっては先人たちの労苦に思いを馳せながらの小旅行となった。

大和西大寺駅で発車を待つ天理行(筆者撮影)
大和西大寺駅で発車を待つ天理行(筆者撮影)

お寺の賽銭でトンネル工事の都市伝説の真相は・・・

 なお、お寺のお賽銭を生駒トンネルの工事費に充てたという都市伝説については、実際のところはやや事情が異なるようだ。近鉄の前身の会社である「大阪電気軌道株式会社三十年史」によると、工事中に生駒の宝山寺に駆け込んで「賽銭を貸してもらった」というわけではなく、開業後に社員の給与支払いに窮した時に宝山寺に乗車券類のまとめ買いに協力してもらい資金繰りの窮地を脱したということが真相のようだ。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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