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新型コロナ感染症:安倍政権の対応を「採点」してみよう

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 一部の国を除き、世界各国は新型コロナ感染症(COVID-19)の感染拡大防止対策を少しずつ緩めつつある。一方で第2波、第3波の感染流行が予想され、今のうちに体制の立て直しと整理をしておかなければならない。それはどのようなものになるのだろうか(この記事は2020/06/16の情報に基づいて書いています)。

政府の説明責任のために

 先日、米国のニューヨーク市立大学公衆衛生政策大学院(CUNY SPH)の研究者を中心にした世界各国の感染症対策の専門家グループが、各国政府の対応の有効性を測定する採点表を作って学術雑誌のオンライン版に発表した(※1)。

 現在、世界各国の政府は新型コロナ感染症のワクチン開発に望みを託しているが、このグループはワクチンの開発には早くても数年はかかると述べ、それよりもしっかりした公衆衛生政策を立て直し、有効な実施に向かうべきと主張している。

 実際、日本政府も2020年内などの早い時期にワクチンが開発され、2021年に延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催にも前のめりになっている。一方、日本でも医療機関の経営危機が問題になっているが、新型コロナ感染症の対応で国内の医療インフラはひどく疲弊し、第2波、第3波が大きな波として押し寄せた場合、耐えきれるかどうか不安視されている(※2)。

 そもそも各国のパンデミック対策、感染症対策にはあまり予算が与えられず、高齢化が進む国では緊縮財政の中で医療制度にも大きなしわ寄せがかかり、新型コロナ感染症の対応がきっかけとなって医療崩壊をきたした国や地域も多い(※3)。そのため、新型コロナ感染症の第2波だけでなく、新型インフルエンザウイルスにせよ新たなコロナウイルスにせよ、各国政府は次に襲来が予想されるパンデミックに備えなければならないだろう。

 前述した感染症の対策の専門家グループは、こうした将来の危機に対して政府が今のうちにとるべき対策を大きく6つあげている。

  • 国民の公衆衛生政策に対する理解、医療や健康に関するリテラシーの向上
  • 感染症に対する検査監視と迅速な報告、開示の促進(個人情報の保護を伴う)
  • 医療インフラの拡充、医療機器や防護具などの資源の確保、スタッフの育成
  • プライマリケアを含む保健医療サービスへのアクセスの強化と地域連携強化
  • 健康格差を是正しつつ社会的に脆弱な層へアプローチして社会的平等を確保
  • パンデミックに備えた経済システムと社会インフラの確保、各国間の連携

 そして、あくまでこれまでの政府の対策を批難するためのものではないと強調しつつも、今後の各国政府の感染症対策に関して説明責任を求めるためのスコアカードを作成したという。このスコアカードは、それぞれの国民や住民がパンデミックに対する政府の対応を評価するためのものだ。

 項目は19(+1)あり、同意できないから同意できるまでの5段階評価(100点満点)となっている。日本に当てはまる項目もあるし、そうでないものもあるが、これまでの政府や自治体の対策を採点してみたらどうだろうか。

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1:政府行政は新型コロナ感染症について明確かつ一貫して住民に連絡を取り、彼らの決定が公衆衛生的な根拠に基づいていることを説明する。

2:政府行政の住民へのコミュニケーションは、人種、言語、文化、教育、社会経済レベルといった住民の多様性に留意している。

3:公衆衛生の専門家、政府関係者、および学術研究者は、新型コロナ感染症の(地名に由来しない)命名法に同意し、公衆衛生対策の理由を明確に説明する。

4: i)誰でも無料で信頼性の高い感染テストを迅速に受けることができ、結果を迅速に受け取ることができる。

  ii)陽性の場合には患者へ連絡され、追跡される。

5:公衆衛生機関は、その国、地域、自治体ごとのデータを毎日更新し、疫学データベースとして報告する。

6:国や地域のニーズを満たすために十分な資格を持った医療従事者と医療機器(例えば人工呼吸器やフェイスマスク)がある。

7:政府行政は、必要に応じて民間メーカーに重要な設備を迅速に生産するよう要求することが可能になっている。

8:公衆衛生および医療の専門家を含むパンデミック対策チームが国や行政の対応を調整している。

9:感染予防とケアのガイドラインとプロトコルは包括的で最新のものになっている。

10:全ての新型コロナ感染症の患者を治療するのに十分な資金と医療インフラがある。

11:誰もが定期的な医療サービスに直接的にアクセスできる。

12:パンデミックの間、プライマリケア・サービスと介護サービスなどが連携して協力している。

13:感染対策などで増加する需要に対応するためにメンタルヘルスのアウトリーチサービスが拡張されている。

14:ヘルスケアサービスの提供を最適化するため、タスクの共有、タスクのシフト、遠隔医療が使用されている。

15:高齢者、貧困層、移住者、ホームレスなどの社会的に脆弱な層を保護するために適切な措置がとられている。

16:新型コロナ感染症の取り組みは、人口密度が高く、医療などのリソースの少ないエリアに焦点を当てている。

17:公衆衛生対策は、施設やその他の限られた環境にいる人々を保護するために実施されてきている。

18:政府行政は、感染症拡大防止対策の強化とその緩和による健康と社会経済への影響に取り組んでいる。

19:政府行政はパンデミックへの対応においてWHOやその他の国際機関、各国と協力している。

Via:Jeffrey V. Lazarus, et al., "Keeping governments accountable: the COVID-19 Assessment Scorecard (COVID-SCORE)." nature medicine, 2020

※1:Jeffrey V. Lazarus, et al., "Keeping governments accountable: the COVID-19 Assessment Scorecard (COVID-SCORE)." nature medicine, doi.org/10.1038/s41591-020-0950-0, June, 11, 2020

※2:Imran Farooq, Saqib Ali, "COVID-19 outbreak and its monetary implications for dental practices, hospitals and healthcare workers." BMJ Postgraduate Medical Journal, doi.org/10.1136/postgradmedj-2020-137781, April, 3, 2020

※3-1:Andrea Remuzzi, Giuseppe Remuzzi, "COVID-19 and Italy: what next?" THE LANCET, Vol.395, Issue10231, 1225-1228, April, 11, 2020

※3-2:LI Kaixuan, "Why the Italian NHS Has Rapidly Reached Its Maximum Capacity in COVID-19 Pandemic?." China CEE Institute, June, 1, 2020

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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