ピンク映画デビューから27年の女優、ほたる。過去の傑作や伝説の自主映画をフィルムで上映へ
今年の2月から新宿K's cinemaで上映がスタートした「短篇集 さりゆくもの」は、バラエティに富んだ5編の短編からなるオムニバス映画だ。
ピンク映画で長らく活躍する女優で監督のほたるの呼びかけに応え、小野さやか、山内大輔、小口容子、サトウトシキという年齢も作風もまったく違う監督たちが参加を表明。
その結果、35mmサイレント映画、ドキュメンタリー、ホラー、実験映画、ドラマとジャンルレスな作品が出揃った。
そして、本オムニバス映画において、ひとつキーワードになっているのは、タイトルにあるように「さりゆくもの」。
今は亡き人、過ぎ去った時間、失われたこと、かつて存在したものなど、各作品ともに「さりゆくもの」への思いを馳す。
そういったコンセプトを受け継ぐ形で、今度はスピンオフ企画上映が始動することになった。
<さりゆくもの PROJECT>の特別企画として実施される本上映会は、「短編集 さりゆくもの」にまつわる 35mm フィルム作品や、ピンク映画、自主映画、ドキュメンタリーなどの関連作品を特集。
亡くなった人や失われゆく映画文化を再見する機会を作るというものになる。
第一回となる7月24日(土)のアテネ・フランセ文化センターに行われる<「短編集 さりゆくもの」スピンオフ上映企画Vol.1 まずはフィルムからはじまった!>を前に、発起人の女優で映画監督のほたるに話を訊いた。
ピンク映画「色道四十八手 たからぶね」からすべてがはじまった
はじめに「短編集 さりゆくもの」の上映からはじまり、今回スピンオフ企画上映に至った経緯をこう明かす。
「『短編集 さりゆくもの』の出発点は1本のピンク映画。渡辺護監督が企画中に急逝し、井川耕一郎監督が引き継ぐ形で完成させたピンク映画『色道四十八手 たからぶね』です。
この作品はピンク映画50周年を記念して35mmフィルムで撮影されたのですが、その残フィルムをわたしがうけとり、(渡辺)譲監督の出征した兄のエピソードにインスパイアされて、自身で監督・出演して完成させたのが『短編集 さりゆくもの』の中に収められた『いつか忘れさられる』です。
そういった経緯からピンク映画と親和性があるオムニバス短編集なのですが、上映を通じて、きてくださったお客さんのお話をきくと、ピンク映画をまったくみたことのない人がかなりいらっしゃった。
それから、覚悟してはいたのですが、フィルム上映が大変で、大変で(苦笑)。ほとんどの劇場でフィルム上映ができなくなっている。
現時点で、フィルム上映が不可能に近くなってしまっていて、ほんとうに痛感したんです。今後、『フィルムの作品はどうなっちゃうんだろう?フィルムで作品を見る機会はなくなってしまうのか』と。
わたしがピンク映画に出演して27年半ぐらいになるんですけど、当時はフィルムでの撮影で。
当時もいっぱいおもしろい作品があったんですけど、そういう作品ももう二度と観ることができないかもしれないと不安を覚えた。
そう考えたとき、ちょっと寂しくなって、上映が難しくなっているフィルムの映画だったり、自主映画だったり、ピンク映画を観る機会がなんとかできないかなと。
なによりもわたし自身がみたい作品がいっぱいある。
それで思いついたのが今回のスピンオフ企画上映です」
記念すべき第一回はフィルム作品にこだわる!
記念すべき第一回は、自主映画2本、ピンク映画2本の計4作品を上映。フィルム作品にこだわり、8mm、16mm、35mmの作品をフィルム上映する。
フィルムにこだわった理由をこう明かす。
「さっき話した通りなんですけど、フィルムでの上映がかなり大変で。
じゃあ、まずは一番ハードルの高いところからやってしまおうと(苦笑)。
そもそも『短編集 さりゆくもの』も、フィルムから始まっている。
なので、フィルム作品をフィルム上映するというのがふさわしいスタートかなと思いました」
園子温、井口昇ら参加の伝説の自主映画を上映。
本人たちはちょっとはずかしいかもしれないですけど、みせちゃいます(笑)
まず8mmで上映されるのは、「短編集 さりゆくもの」で「泥酔して死ぬる」を手掛けた映像作家、小口容子監督の作品2本。
1988年のPFFアワードで入選した伝説のインディペンデント映画「エンドレス・ラブ」と、「もしも『にっかつロマンポルノ』で、近未来オペレッタを作ったとしたら!」という発想のもと作られたこちらも伝説の1作「2010 年、夏」を上映する。
「この2作品は、もう小口監督のパーソナリティが全開といいますか。ひと言でいうとぶっとんでいる(笑)
当時の8mmが主体だった自主映画のアナーキーな熱量が感じられるのではないかと思います。
それと『エンドレス・ラブ』は、撮影には園子温、出演者として平野勝之というのちの名監督が参加している。
一方の、『2010 年、夏』は、こちらも井口昇、藤田秀幸(現在は藤田容介)という現在第一線で活躍する監督が参加しています。
もしかしたら本人たちはちょっとはずかしい時代のことかもしれないですけど、みせちゃいます(笑)。
わたし自身、この作品はフィルム上映ではみていないので、かなり楽しみにしています」
「64ーロクヨンー」の瀬々敬久監督が変名で脚本担当の傑作ピンク映画も
続いて16mmで上映されるのは、1994年に製作されたピンク映画「覗きがいっぱい 愛人の生下着」。
こちらは「短編集 さりゆくもの」の一編「もっとも小さい光」を手掛けたサトウトシキ監督が、本藤新という変名で監督を務め、脚本もまた瀬々敬久監督が南極一号という変名で担当している。
当時、ピンク四天王と呼ばれていたサトウ監督と瀬々監督がタッグを組んだ名作になる。
「1994年度ピンク大賞で、監督賞・脚本賞・新人女優賞などを受賞したピンク映画の傑作です。
ピンク四天王と呼ばれていたサトウ監督と瀬々監督が、よくも悪くも(笑)自由すぎるピンク映画を作っていた時代の作品ですね」
ほたる自身も出演している。
「まだデビューしたてのころで、もう、はっきりいってほんとに下手くそです。恥かしいんですけど、もう、しかたないです。
映画業界がどうかも、まだまだ知らないころで、監督に言われることをそのままやっただけ。
今振り返ると、なかなか無茶なシーンにも挑んでいたというか、挑まされていた(苦笑)。
そのあたりもみてもらえたらうれしいです」
最後の35mmの作品は、 井川耕一郎監督「色道四十八手 たからぶね」。さきで触れたように本作は「短編集 さりゆくもの」の出発点になった作品になる。
「今回のスピンオフ企画も、『短編集 さりゆくもの』も出発点はこの作品。
この作品もなかなかな裏話があるのですが、それは当日、井川監督と小口監督を交えてのトークを予定しているので、そこでお話できればなと思っています」
これからこの企画を継続していきたいという。
「はじめたばかりでまだ詳細を詰め切れていないんですけど、まずは『短編集 さりゆくもの』に参加してくださった映画監督たちのピンク映画や自主映画を中心にしたプログラムを組んでいきたい。
そのあとに、なかなか観るチャンスのない自主映画やピンク映画の名作を紹介していければなと思っています。
また、『さりゆくもの』というコンセプトもあるので、その趣旨に沿った作品を紹介できればなと。
自分の中にもみたいけどみるチャンスのなかった自主映画や、もう一度再会したいのに再会できていないピンク映画がある。
そういう作品の上映を実現させたいと、意気込みつつ、こんな企画どうだろうと妄想する日々が続いています(笑)。
いろいろな作品を発掘していきたいと思っているので、期待していただければ。
まずは第一回の今回に注目してもらえたらうれしいです。そして、『短編集 さりゆくもの』のさらなるロードショー公開につなげていけたらなと思っています」
<「短編集 さりゆくもの」スピンオフ上映企画Vol.1
まずはフィルムからはじまった!>
7 月24 日(土)14:00〜20:00
会場:アテネ・フランセ文化センター
Aプログラム 13:30開場/14:00開映
「エンドレス・ラブ」「2010年、夏」
Bプログラム 15:45開場/16:00開映
「覗きがいっぱい 愛人の生下着」
Cプログラム 18:15開場/18:30開映
「色道四十八手 たからぶね」
※17:30~18:00 トークイベント
出演:ほたる、小口容子監督、ササキトシキ監督、井川耕一郎監督
入場料:各プログラム券 前売予約1000円/当日1200円
通し券 予約2500円(30枚限定)/当日2800円