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結婚・出産しないことに負い目を感じ、卵子提供に自己肯定を見出す独身女性。実際に演じて感じたこと

水上賢治映画ライター
「Eggs 選ばれたい私たち」 主演の寺坂光恵  筆者撮影

 日本ではまだ浸透しているとはいえない、子どものいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)に志願する20代の女性を描く映画「Eggs 選ばれたい私たち」。

 現在の日本社会においての女性の生きづらさに対して明確に声を上げた本作は、東京オリンピック・パラリンピック組織委員で起きた度重なる女性蔑視発言にも関わる内容が含まれ、「今公開されることを待っていたのではないだろうか?」と思える作品になっている。

現在の日本社会においての女性の生きづらさに明確に声を上げる

 このような女性の物語を作り上げた経緯については、先日、川崎僚監督のインタビュー(前編後編)をお届けした。

 今回は卵子を提供するドナー制度に登録することを志願する主人公の純子を演じた寺坂光恵の2回のインタビューからさらに作品世界に迫りたい。

 まず出演の経緯は川崎監督から直接のことだったという。

「川崎監督にお聞きしたら、(私の出演している)知多良(ちた・りょう)監督の短編『ロープウェイ』を観て、私に声をかけてくださったそうです。

 その時点で、プロットはできていて、『純子役を』という話をいただいたと記憶しています」

エッグドナーという題材に驚きはなかった

 エッグドナーという題材にはあまり驚きはなかったという。

「私は、初めて聞いたというわけではなかったので驚きはなかったです。

 エッグドナーという言い方はなじみがなかったですけど、卵子提供というのは聞いたことあったのでまったくピンとこないことではなかった。

 ただ、あくまで漠然としたイメージで、実際にどういう制度とかいう詳細はわかっていなかったですね」

卵子について学ぶことで純子の心情への理解が深まる

 これは先のインタビュー時に川崎監督がいっていたことだが、寺坂は事前に図書館で卵子に関する本を読み見識を深めてきていたとのこと。「いろいろと意見を出してくれた」と明かしている。

「必ずしも卵子が作品全体のテーマというわけではない。ただ、キーになっていることは確かなので、まず知っておきたかったんです。

 女性でも知っているようできちんと調べたりしたことをすることはあまりない。なので図書館で本を借りて、卵子についていろいろと自分なりに学びました。

 そのことで、台本の初見より純子に対する共感が高まりました。

 純子が事前に卵子提供についてどれだけ理解していたかはわからない。

 でも、私自身は卵子提供に関して学ぶことによって、『エッグドナーに登録したいかも』と思えるところがあって、純子の心情への理解が深まりました

 考えると、わたし個人の考えとしては、むしろ川合(空)さんが演じた、純子の従姉妹でレズビアン、同じようにエッグドナー登録をしようとする葵に近かった気がします。

 だから、自分とはちょっと考え方の違う純子を理解しようと無意識に近づこうとして準備をしていたのかもしれません。

 あと、これはわりと普段、この作品に限らず、私の場合、役の理解を深めるヒントは日常の生活に転がっているといいますか。

 たとえばシャワーを浴びてるときに、『あのセリフってこういう気持ちでいったのかも』とか、電車で本を読んでいてふと『あの純子の感覚はいまのこの状態かな』とか、気づくことがある。

 こうした日々の積み重ねに役に近づくヒントがある。今回の純子もそういうアプローチで近づいていったところがあります」

「Eggs 選ばれたい私たち」より
「Eggs 選ばれたい私たち」より

どうしても誰に渡ったかは知りたくなってしまう

 こうした下準備のもと演じた純子は事務職の派遣社員。現在29歳の彼女は、独身主義とはいわないが、結婚や出産といった将来の未来図を描けないでいる。

 10年後、20年後を考えたとき、「子どもを産まなかったこと」に負い目を感じないかと考えた彼女は、年齢制限の30歳になる直前に、エッグドナーに登録する。

 そんな彼女の姿からは、ある種の自己肯定、承認欲求の心情が読み取れる。

自分の体内から出たものを、他人に渡す。ここに関しては、けっこう考えてしまうかもしれない

 自分のDNAだとか細胞だとかが、どこか知らない人のもとへ届くというのは、ちょっとドキドキしますよね。

 どうしても誰に渡ったかは知りたくなってしまう。それが将来どうなったかはさて置き、どんな人のもとへいったのかは知りたい。

 少しずれたたとえかもしれないですけど、自分のところで子猫が生まれて、その子猫を里親に出すときに、どんな里親か知っておきたい。

 その気持ちに近いかもしれない。なので、わたし自身が純子と同じような行動を取るとしたら、自己肯定や自分の存在証明というよりも、そっちのほうが気になるかなと思いました」

不妊治療している人が珍しいのではなく、

妊娠することのほうが奇跡なんだと思った

 ただ、演じる上では、卵子提供を決断する純子を特別な存在ではなく、ごくごく一般的なひとりの女性であり、ひとりの人間として存在することを心がけたという。

「エッグドナーに登録する女性となると、どこか色眼鏡でみられてしまうところがある。

 ただ、作品を見てもらえればわかるのですが、純子は特別な存在ではなくて、ほんとうにどこにでも、たとえばみなさんの職場にもいるようなありふれた女性に過ぎない

 彼女の抱えている悩みや問題は、今を生きる人たちの多くも抱えていることだったりする。

 ですから、ひとりの女性として、ひとりの人間として自然な姿で立つことは意識しました。

 あと、卵子のことを学んで、子どもができるということがほんとうに奇跡なんだということを痛感して。不妊治療している人が珍しいのではなく、妊娠することのほうが奇跡なんだと思ったんです。

 そういう感覚がもっと世間に広まれば、エッグドナー制度に対する偏見もなくなって、社会で共有できるのではないか。

 純子のようなごくごく普通の女性を通すことで、そういうことも伝わって社会が少しでもいい方向に向いてくれたらと思いました」

「Eggs 選ばれたい私たち」 主演の寺坂光恵  筆者撮影
「Eggs 選ばれたい私たち」 主演の寺坂光恵  筆者撮影

 では、純子のような女性としての社会での生きづらさを感じたことはないだろうか?

「私自身は、ここまでお芝居の世界でやってきているんですけど、その中で不平等さを感じたことはあまりないです。

 どこか『男女は平等じゃなくて当然じゃん』と思ってたので、『なんで男性ばっかり』とか目くじらたてることはなかった。

 裏返すと、自分の中に『言ったところでどうにもならない』という諦めはあったかもしれないですけど、むしろ不平等を前提にして、そこで自分はどう立ち回るかを考えてきたのかなと。

 だから、現段階でもちろん悩みがないわけではないですけど、個人的には純子のような生きづらさはあまりない。これから山のように出てくるかもしれませんけど(苦笑)」

(※後編に続く)

「Eggs 選ばれたい私たち」より
「Eggs 選ばれたい私たち」より

「Eggs 選ばれたい私たち」

監督・脚本:川崎僚

出演:寺坂光恵 ​川合空 三坂知絵子ほか

全国順次公開中。

詳しくは、こちら

場面写真はすべて(C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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