寒波の時期に、『かいけつゾロリ』で考える。おやじギャグで「炎が凍る」はあり得る?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
大寒波に見舞われると、水道管が凍結したり、流れる滝が凍ったり……と、普段は凍結しないものまで凍ってしまう。
そんな極寒の日々に、ぜひとも考えてみたい現象が、児童書『かいけつゾロリ』にある。
「一人の作者が物語と絵を綴った最多巻数の児童書」として、ギネス世界記録に認定された『かいけつゾロリ』シリーズは、もちろん子どもに大人気。
でも、隅々まで工夫が凝らされたお話は、大人が読んでも本当に面白い。
そのなかに「おやじギャグが寒すぎて、それを聞いたゾロリの子分たちが凍りつき、さらには炎まで凍ってしまう」という秀逸すぎるエピソードが描かれている!
それが出てくるのは、シリーズ第32作『かいけつゾロリ じごくりょこう』。
前作で地獄に行ってしまったゾロリ一味が、そこから脱出しようとするお話だ。
ゾロリはえんま大王と交渉して「7つの地獄をクリアすれば、生き返らせる」という約束を取りつける。
そして、4つの地獄を切り抜けたところ、5つ目はなんと「おやじギャグじごく」。
5人のおやじが、おやじギャグを浴びせ続ける、というオソロシイ地獄だ。
「めがねにめがねーんだよ」「ブタをぶたないで」「カナリヤかなりいや~」などのギャグが寒すぎて、ゾロリの子分のイシシとノシシは凍りつき、氷漬けになってしまう。
この状況にゾロリは、6つ目の地獄「ほのおじごく」の炎を使って、イシシとノシシの氷を解かす。なかなか冴えた発想をするヒトなのだ。
さらにその「ほのおじごく」を切り抜ける作戦というのがオドロキで、ゾロリは両脇に2人のおやじを抱えて、燃え盛る炎のなかを走る。
すると、おやじたちは「うんちがやけて やけくそだー」などと寒いギャグを言い続け、そのため周囲の炎が凍りつく!
こうしてゾロリは、見事に6つ目の地獄もクリアしたのだった。
これはいろいろとすごい。
ゾロリの発想もすごいが、炎のなかでギャグを言い続けるおやじたちもすごい。
ギャグが寒くて炎が凍るというのも、科学的にすごすぎる現象である。
◆炎とは何か?
ものが燃えるには、①可燃物がある、②酸素がある、③温度が一定以上、という「燃焼の3条件」が必要だ。
そして、炎が上がるのは「気体が燃えるとき」に限られる。
ガスコンロで気体が燃えるように、ロウソクも固体のロウが燃えるのではなく、溶けたロウが気体になって燃える。
アルコールやガソリンも、蒸発して気体になってから燃える。
木や紙も、熱で可燃性の気体が揮発し、それが燃えて炎を上げる。
固体のまま燃えると、炭のように、赤々とは燃えるが、炎は出ない。
炎とは「可燃性の気体と、空気と、燃焼で発生した二酸化炭素や水蒸気が混ざったもの」なのだ。
『ゾロリ』のおやじたちは、これを凍らせたわけである。
すると「炎を凍らせる」には、炎に含まれる気体を凍らせる必要がある。
雪は、水蒸気(気体)が凍って、氷(固体)の結晶になったものだから、「気体を凍らせる」ことは不思議ではない。
炎が燃えているとき、周囲の温度がモーレツに下がれば、炎の内部の気体も空気も凍るだろう。
◆どれほど寒いギャグなのか?
ただ、それにはキョーレツに低い温度が必要だ。
炎の内部の気体のなかで、いちばん低い温度まで凍らないのは空気に含まれる酸素で、それが凍りつく温度は、なんとマイナス218度。
地球の最低気温の記録は、2018年に南極で人工衛星が観測したマイナス94度で、それより124度も低いから、自然界では炎が凍りつく現象は起こらない。
では、超強力な冷凍庫のなかで、たき火をして、マイナス218度に急速冷凍したら?
そのような実験例があるかどうかわからないが、おそらく次のようなことが起こるのではないか。
温度が下がると、燃焼が進まなくなって、火は小さくなり、ついに消える。
そして、漂う気体の温度が0度になると水蒸気が凍り、マイナス79度で二酸化炭素が凍り、可燃性の気体も凍っていく。
マイナス210度で空気中の窒素が凍り、マイナス218度で酸素が凍って、炎に含まれていた気体はすべて凍る。
その頃には、炎の外の窒素や酸素も、そのまわりに凍りつくだろう。
これら一連の冷凍スピードが激烈に速ければ、炎の形をした真っ白なカタマリができる……はず!
『じごくりょこう』の絵を見ると、凍った炎は、まさにそういうカタチになっている。
これを実現できたからには、おやじたちのギャグは「マイナス218度以下」という、あまりにも寒いギャグだったと思われる。
ただでさえ大寒波が襲来しているときに、そんなおやじたちが寒いギャグを言ったら、いったいどうなってしまうのか……。
想像しただけで身震いしてしまいそうである。
恐るべし、『かいけつゾロリ』!