「飛び恥よりロス恥」食品ロスは世界の温室効果ガスの約10%で自動車並み 削減急務
食べられるのに捨てられる『食品ロス』と、飛行機と、どちらが大きな温室効果ガスの発生源か?と尋ねたら、多くの人が「飛行機」と答えるのではないだろうか。スウェーデンでは「飛び恥」という言葉も生まれた。 スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんは、ニューヨークで開催された国連の会議に出席するために、飛行機ではなく、ヨットで移動した。
世界の温室効果ガス 飛行機は1%台 食品ロスは8-10%台
しかし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「気候変動と土地に関する特別報告書」によると、2010~2016年に排出された温室効果ガスのうち、飛行機によるものは1%台。だが、8~10%は食品ロスによるもので、その排出量は、自動車からのもの(10%)に匹敵する。
コロナ禍で、多くの人は飛行機に乗る機会を失った。となれば、温室効果ガスを減らすチャンスは、毎日の生活で、必要な分の食料だけ手に入れること、手に入れた食料はできる限り食べきることにある。
欧州の自動車業界は温室効果ガス削減の動きが早い。フランスは、2040年までにガソリン車の販売を中止すると発表した。また、2021年7月14日、欧州連合(EU)の欧州委員会は、2035年にガソリン車の新車販売をハイブリッド車(HV)も含めて禁止する案を発表した。
UNEP「食品ロスは温室効果ガス排出源の10% 削減が急務」
2021年3月、国連環境計画(UNEP)は、世界の食料生産のうち、消費者が入手し得るものの17%が廃棄されたと発表した(1)。UNEPの「食品廃棄物インデックスレポート2021」によると、世界では、毎年9億3,100万トンの食品ロスが発生している。この量は、満タンの40トントラック2,300万台分の重量で、すきまなく並べても地球を7周できるほどの多さだという。食品ロスは、世界の温室効果ガスの排出源の10%近くを占め、「温室効果ガス排出削減のため、食品ロスの削減が急務」と発表した(2)。
国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界の食料生産量のうち、重量ベースで3分の1にあたる13億トンが捨てられている。
研究者「世界がこのままの食料システムではパリ協定の目標達成は不可能」
2020年11月、米国の科学誌「サイエンス」に、米ミネソタ大と英オックスフォード大の研究者らが研究結果を発表した(3)。それによれば、世界の食料システムが現在のペースで成長傾向を続けた場合、今後80年間で1兆3560億トンの温室効果ガスが発生する。化石燃料の使用を直ちに止めても、パリ協定が目指す「産業革命以降の気温上昇を2度より大幅に低くする」との目標達成は不可能だという。
研究者「複数の対策を複合的に実施するのが効果的」
研究者によれば、食品ロス削減で温室効果ガスを3600億トン削減することが可能、食生活を植物性食品中心に変更すれば、6500億トン、摂取エネルギー量を適切なレベルに抑えれば4100億減らせる。これらを半分ずつでも複合的に行えば、8500億トンも減らせるという。
論文には次のように書いてある。
世界中の食生活を(肉食をやめて)植物性食品のみに変更すると、温室効果ガスのうち6,500億トンが削減される
(全体の排出量は、何もしなかったときの1兆3,560億トンから、7,080億トンまで削減される)
世界中の人が、年齢に応じた適切なエネルギー(kcal)の食事(ほとんどの成人の必要エネルギー数は2,100kcal)を摂取したとすれば、4,100億トンの温室効果ガスが削減できる
(全体の排出量は9,460億トンまで下がる)
農業で使う肥料の量を減らし、土壌をよく管理し、作物の輪作を行うことで炭素レベルが減らせれば、5,400億トンの温室効果ガスを削減できる
(全体の排出量は8,170億トンまで下がる)
家庭やレストランで発生する食品ロスを減らし、食べられる食品を低所得国へ届けることで、温室効果ガスは3,600億トン削減できる
(全体の排出量は9,920億トンまで下がる)
これらの対策を単独で実施した場合より、これらの対策をそれぞれ半分でも実施できた場合、温室効果ガスは8,500億トンも削減できることになる
(全体の排出量は5,060億トンまで下がる)
世界のごみ焼却割合のトップは日本
「分ければ資源 混ぜればごみ」という標語がある。日本は生ごみや落ち葉、緑地で剪定した枝などを多くの自治体が焼却している。コンビニやスーパーで残った食品や飲食店の食べ残しは、事業系一般廃棄物として家庭ごみと一緒に焼却処分する自治体がほとんどだ。重量の80%を水分が占める生ごみは燃えにくいため、膨大なエネルギーとコストを費やしている。
経済協力開発機構(OECD)によれば、世界の焼却炉のうち半数以上が日本にあり、ごみ焼却割合のトップは日本だ(4)。欧州では生ごみや落ち葉、剪定した枝は「有機物」として分別回収し、資源化している。韓国でも95%以上の生ごみがリサイクルされている。
日本でも千葉県市川市は市民が24時間投入できるポスト型生ごみ分別回収の実験を始めた。発生するメタンガスは発電に使われる。
事業系でも家庭でも「計測し、見える化」が減少のキモ
生ごみ資源化の取り組みに加え、ごみになる前に食品ロスそれ自体を減らすことも重要だ。人口約145万人の京都市は、2000年に82万トンだったごみの量を、2020年に半減させた。全国の政令指定都市の中でも家庭ごみが最も少ないが、事業系ごみの削減には苦慮した。京都市内のスーパーで、販売期限ギリギリまで売り続けたら食品ロスが10%減った、といった実験結果を公表し、徹底した計測を行った。
徳島県の家庭では、出される食品ロスの量を測るだけで23%減ったという。
分ければ資源 混ぜればごみ
脱炭素社会実現のためには
「食品ロス、測れば減る」
「分ければ資源 混ぜればごみ」
をキーワードに食品ロスの削減に取り組み、地球温暖化の被害という負の遺産を若い世代に押し付けないようにしなければならない。
【食品ロス】
食べられるのに捨てられる「食品ロス」の量は、2018年度には日本国内で推計600万トンだった。家庭からの排出は276万トン、レストランやコンビニなど事業者が324万トン。魚の骨や卵の殻などを含む2018年度の食品廃棄物の総量は2531万トンだった。国連食糧農業機関(FAO)によると世界全体の食品廃棄物総量は年間13億トンに上り、温暖化対策上も、食料安全保障の観点からも、削減が大きな課題になっている。
※本記事は、2021年5月25日付の共同通信配信コラムに加筆修正したものです。
参考情報
1)国連4日夜発表速報 年10億トン近く廃棄 食品ロスは温室効果ガス排出10%で気候変動の主要因(61)(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/3/5)
2)「脱炭素で食品ロスに触れない無知」4日国連(UNEP)「食品ロスは温室効果ガス源の10%、削減急務」(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/3/5)
3)世界の食料システムがパリ協定の気候変動目標を妨げる可能性『サイエンス』誌:SDGs世界レポ(46)(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/11/18)
4)世界のごみ焼却ランキング 3位はデンマーク、2位はノルウェー、日本は?(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/4/20)