Yahoo!ニュース

「脱炭素で食品ロスに触れない無知」4日国連(UNEP)「食品ロスは温室効果ガス源の10%、削減急務」

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
UNEP Executive Director speaks in Bodo(写真:ロイター/アフロ)

2021年3月4日の日本時間23:30、国連環境計画(UNEP:ユネップ)が、「世界の食品ロスが小売・外食・家庭で10億トン近く発生」と発表した。世界の温室効果ガス(GHG)の発生源の10%近くを占め、削減が急務とされている。

SDGsで数値目標が定められているのはFood Waste(フードウェイスト)の方

何をもって「食品ロス」というのか、全世界で統一するのはとても難しい。どの部分が可食部(食べられる部分)で、どの部分が不可食部(食べられない部分)かは、地方や国によっても、食文化によっても異なる。

日本では、「まだ食べることができるにもかかわらず、捨てられてしまう食品のこと」を指している。定義はさまざまで、この定義に特化して研究している大学の研究者もいるくらいだ。ここではFAO(国連食糧農業機関)の定義を見てみる。

生産現場で収穫され、貯蔵・加工・製造・流通を通って、小売・外食・家庭と流れる一連の流れは、鎖(くさり)にたとえて「フードサプライチェーン」と呼ばれる。このフードサプライチェーンの前半で発生するものを「Food Loss(フードロス)」、後半で発生するものを「Food Waste(フードウェイスト)」と呼ぶ。

日本で食品ロス全体を指して「フードロス」と呼ぶのを耳にするが、これだと、FAOの定義で定めるサプライチェーンの後半(小売・外食・家庭でのロス)が含まれないことになる。

そして、SDGsの12番、ターゲット3(12.3)で数値目標が定められているのは、このうち、Food Waste(小売・消費レベル)の方だ。2030年までに半減という数値目標が定められている。

FAOの定義を元に筆者が作成した食品ロス(Food Loss and Waste)
FAOの定義を元に筆者が作成した食品ロス(Food Loss and Waste)

少ないと思われていた中所得国の家庭の食品ロスが多かったことが判明

今回のUNEP(国連環境計画)が、英WRAP(ラップ)とともに発表した今回の報告書では、所得水準にかかわらず、世界で小売・外食・家庭で10億トン近く(9億3100万トン)の食品ロスが発生していることが明らかとなった。

これまで、所得水準が低い国では、フードサプライチェーンの後半で発生するFood Waste(フードウェイスト)は少ないと考えられていた。低中所得国では、インフラが整っていない(冷凍・冷蔵設備がないなど)、国内の物流コストが高くて運ぶことができないなどの理由で、フードサプライチェーンの前半(Food Loss:フードロス)が多く、後半は少ない傾向にあるとされていた。が、そうではない、ということだ。

世界の食料廃棄を1つの国と仮定すれば世界第3位の温室効果ガス発生源

FAOは、さまざまなデータを発信することで、食品ロスが、いかに経済・環境や貧困・飢餓に影響を及ぼしているかを示している。

たとえば、仮に世界中の食料廃棄を1つの国と仮定すれば、世界で第3位の温室効果ガスの発生源になっていることが、下のグラフのオレンジの部分でわかる。

FAOの情報を元に筆者作成
FAOの情報を元に筆者作成

現在、温室効果ガスを最も多く発生させているのが中国、2番目が米国、3番目がインド、4番目がロシア、5番目が日本である。

食品ロスの廃棄による温室効果ガスは自動車によるものに匹敵

スウェーデンの活動家、グレタ・トゥーンベリさんが、飛行機に乗らずに、船で国際会議に出席した行動が注目された。スウェーデンでは、温室効果ガスを多く排出する飛行機に乗るのは恥だという意味で「飛び恥」という言葉も生まれた。

ここでWRI(World Resources Institute)のデータを見てみる(下記)。少し古いデータだが、食品ロスの廃棄による温室効果ガスの量が自動車に匹敵することがわかる。

WRIのデータを元に筆者作成
WRIのデータを元に筆者作成

食品ロス削減は当然、それどころか食品産業による温室効果ガスも削減急務

食品ロスを減らすのは当然のことだが、食品産業が発生させる温室効果ガスも相当なもので、このまま世界の食品産業が進んでいくと、パリ協定の目標は達成できないとする英語論文も、2020年11月、学術雑誌の『Science(サイエンス)』に発表された。

食品ロスを減らすだけでは不十分で、複数の取り組み(たとえば消費者が肉を食べる回数を少し減らす、農業で使う肥料の量を減らす、など)を行わないと、とてもではないが達成できないと、論文の著者である、米国のミネソタ大学と英オックスフォード大学の研究者が、シミュレーションに基づき、結論づけている。

温室効果ガス削減・脱炭素の取り組みで食品ロス削減に触れないのは・・・

日本は、食品ロスを、生ごみとして廃棄する場合、石油系の燃焼剤をかけて焼却処分することが多い。もちろんリサイクルしている場合もあるが、コストや労働力を節約するために、リサイクルではなく、燃やしてしまうことが多い。生ごみを含めた日本のごみ処理費用は2兆円を超えている(2020年3月、環境省発表)。

環境省も、国・地方脱炭素実現会議ヒアリングと題して、各界から人を呼んで発表させている。2021年2月16日に第一回が開催され、第二回の2月22日には筆者も発表した。発表資料は内閣官房の公式サイトに掲載されており、その様子はアーカイブされている。

国・地方脱炭素実現会議 ヒアリング(第2回)議事次第

「脱炭素」社会を実現するために必要なのは、電力を再生可能エネルギーに変えるだけでは不十分だ。世界の温室効果ガスの10%の発生源となっており、国連環境計画やWRAPが「地球温暖化対策の観点からも、食品廃棄の削減は急務」と述べている食品ロスを削減することがとても重要である。

もしも、温室効果ガスの削減や脱炭素の取り組みに関して「食品ロス削減」に触れていない食品関連事業者がいたとしたら、その事業者は、残念ながら、国際機関が声高に重要性を強調している食品ロスに対し、あまりに「無知」であると言わざるを得ない。

今回のUNEPの発表内容は、2021年3月5日にアップした記事に詳しいので、ぜひ見ていただきたい。

参考情報

国連4日夜発表速報 年10億トン近く廃棄 食品ロスは温室効果ガス排出10%で気候変動の主要因(61)(2021年3月5日、井出留美)

世界の食料システムがパリ協定の気候変動目標を妨げる可能性『サイエンス』誌:SDGs世界レポ(46)(2020年11月18日、井出留美)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事