中村俊輔が振り返る2017年、見据える2018年(2) 変化し続ける“理想像”
見つけた「声」
ヨーロッパでは3カ国のクラブでプレーした中村俊輔だが、初めての国内移籍は、やはりプレッシャーを伴うものだった。
一方、得るものも大きかった。若手の成長を目の当たりにできたことは、意義深いことだったと中村は語る。それはまた、名波浩監督のチームづくりの分析でもある。
ジュビロ磐田で発見したものは「声」だと、シーズン中に中村は語っていた。
「このチームは面白いんだよね。勝っても負けても、ずっと波がない。ある程度のラインからははみ出たり、下がったりした選手が、すぐに浮く雰囲気。そういう選手を、皆で戻ってくるようにするんだよね。『はみ出したやつを見捨てるな』みたいなことを、名波さんはミーティングとかいろいろなところでよく言っている。監督が何か言うというのもあるけど、選手同士で『お前、元気なくない?』って声をかけたり、シュートを決めたら喜ばせればいいじゃん。味方同士で鼓舞し合えるというか、正しい道をつくれるというか。声は出すね。だから面白い。名波さんは、そういうちょっと感付いたことをすぐに言える人だから」
「普通の監督だったら、プライドがある選手もいるだろうし、日本人選手に対してでもなかなか言えないよ。オレだって、練習中に言われるよ。『中村、3回連続でミスしてるぞ』とか。オレも『しまった!』って感じで反応するし、そうしたら若い選手も気合いを入れ直す。サッカーに対して、気持ちいいヤツしかいないんだよね。かといって、甘い集団ではない。何年かかけて、名波さんがそういうチームにしてきたんだよ」
もう一度、トップ下でプレーを
中村は自身が単なる一選手というより、「間に立つとかいうことではなく、オレはちょっと、こっち(監督)寄りで考えたり、グラウンド外でも行動していたつもり」と、少し独特の立場で思考・行動していたと話した。「指導者になった時に大きいんじゃない」。今年の経験には、そうとらえる一面もある。
思い描く来年のイメージには、すでに選手を育てる自身の姿も入っている。それは自分のためでもある。自身のプレーの意図を理解してもらい、チームの結果に還元するためだ。
例えば、なぜ跳ね返され続けても、連続して同じ場所にCKを蹴り続けるのか。ボールに込めたメッセージを読み取る選手と、そうではない選手がいると、中村は語る。
「だから育てたいの。川又(堅碁)は感じないよ。だから、オレがトップ下に入って近くにいって、『何でお前今、プルアウェイしないの?』って教えたい。CKみたいに“おしくらまんじゅう”して、体を張って頑張ってくれている。でもジュビロがこれから上に行くには、ああじゃなくて、ボールを落として動いて、もう一度もらってという作業をやらないとダメ。そうしないと、あいつのために良くない」
トップ下は今シーズン一番やりづらいポジションだったと、中村は語った。だが、「今年と同じこともやらないといけないけど、壊していかないといけないこともあるかもしれない」とも覚悟している。「もう一回、真ん中で勝負したい。今のメンバーだったら分かってくれると思うし、もう一度4-2-3-1でできるように勝負したい」。自分を過去に縛り付けることはしない。
「今年、スルーパスのアシストは1本もなかったと思う。全部FKとかCKだった。それでもよし、としなければいけないこともあるけどね。全部をつかみ取るのは難しいから。今年は下の方をこうやって整えて、来年は自分らしいプレーを…」
「こういう考えが出てくるというのは、向上心があるからだろうし。こうしたい、ああしたいというのは自分だけじゃなく、チームのこともある。バトンだって渡さないといけないし…。やることは多いね」
イタリアに渡る前は「日本で一番うまい選手」、欧州に行ってからは「チームを勝たせる選手」と理想とする選手像を語っていた。とどまることがない2017年の中村の向上心は、2018年以降の新しい理想像を描かせていた。
「理想は、(ディエゴ・)マラドーナや(ジネディーヌ・)ジダンじゃないけど、1つのプレーで雰囲気を変えられる選手。そういう選手は、なかなかいない。リーダーとはまた違う、スコアもそうだけど、ゲームの雰囲気まで支配できちゃう選手というか」
2017年の大きなプレッシャーをプラスに変換できたのも、「そうしようとしてきたから」。2018年もまた、意義深いシーズンになる。なぜなら、中村自身がそうすると決めているからだ。