資金力に勝るものがある? 世界の常識を覆すJリーグ「プレーオフ劇場」開幕へ
カネがすべて?
「カネがものを言う」。そんな世界のサッカー界の常識を覆す勝負が、もうすぐ日本でスタートする。
能力ある選手には高い値がつき、資金豊富なチームが世界中からそうした選手をかき集め、積み上げた戦力でさらなる勝利とカネを手にしていく。それが現在の世界のサッカーだ。
そうした流れの中で、日本のJリーグは独特だ。世界のトップリーグで活躍する選手を続々輩出するようになりながら、国内をリードする絶対的存在が君臨することなく、チーム力があまりに拮抗しすぎている。
とはいえ、変化は出ている。巨額の投資を続けてきたヴィッセル神戸が昨季にJ1初優勝を果たしたのは、その一例だろう。
だが、世界の常識が通用しないエリアがある。J1の一歩手前、2部リーグであるJ2での争いだ。
リーグ全体のクラブ数が拡大し、ボトムアップも合わせて序列ができたため、J2でもクラブ間の資金力の差が開いている。
まだ今年度のものは開示されていないが、最新データである昨年度の経営情報を基にすれば、来季のJ1行きをつかんだチームは、やはりそれなりの投資をしたようだ。優勝した清水エスパルスは昨季の人件費でJ2最多となる額を投じており、最終節で2位を確定させた横浜FCも、ほぼ同額を費やしていた。
昨季以前のデータを見ても、人に投資しているクラブがJ1への自動昇格をつかみ取っていることが分かる。
2022年、人件費でリーグ8位のアルビレックス新潟が優勝したのは見事だが、同1位だった横浜FCは、しっかりリーグ戦2位となり自動昇格を果たしている。2021年も人件費1位のジュビロ磐田、同4位の京都サンガF.C.が自動昇格を果たした。
当てはまらないもの
だが、その方程式に当てはまらないものがある。J1昇格をめぐる「プレーオフ」だ。
シーズンによって変更はあるものの、上位2チームがJ1自動昇格となるのと同様、3位から6位のチームでトーナメント戦を行い、J1昇格最後のイスを争うことが通例だ。
リーグ戦では、全チームがホーム&アウェイで対戦し、年間を通してチームの力を競い合う。いわば公平な戦いだ。
一方で、一発勝負のトーナメントで争うプレーオフは、不公平というよりも、何か違う力が介在するように思えてならない。
かつてJ1では、世界的な親企業を持つクラブが好成績を挙げられずにいた。一部では、豊富な資金で選手が「ぬるま湯に浸っているのでは」などと揶揄されていた。
その裏返しが、J1昇格プレーオフであるように思われてならない。いわば、ハングリー精神という力が「ものを言う」のだ。
ハングリー精神の発露
記憶に新しい昨季を振り返れば、J1昇格をつかみ取ったのは人件費では11位の東京ヴェルディだった。プレーオフの最後の試合で人件費1位の清水と引き分け、レギュレーションによりJ1返り咲きを果たしている。
その前年、最終的に入れ替え決定戦で引き分けて昇格はならなかったものの、その舞台までプレーオフを駆け上がったのは人件費でJ2の22チーム中20位ながらレギュラーシーズンを4位で終えたロアッソ熊本だった。人件費がまさに1ケタ違う大分トリニータをも初戦で乗り越え、J1昇格に王手をかけていた。
こうした下剋上は、それまでにも起こっていた。2019年のプレーオフで、J1・16位の湘南ベルマーレと引き分けて昇格はならなかった4位の徳島ヴォルティスだが、その人件費は3位の大宮アルディージャの半分ほどだった。
2020、2021シーズンと、コロナ禍においてプレーオフは行われなかったが、下剋上が起こりそうな予感は漂っていた。人件費では2ケタ順位のチームが、例年ならばプレーオフに出られる立場に食い込んでいたのだ。
果たして、資金力がすべて、あるいはカネの力では「負けるが勝ち」なのか。運命を決するプレーオフは、しばし時をおき、12月1日にスタートする。