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PS5とKing Gnuのコラボ その先の話…ソニーグループの狙いと可能性を考える

河村鳴紘サブカル専門ライター
King Gnuを起用したPS5のCM映像のワンシーン=SIE提供

 4人組ロックバンド「King Gnu(キングヌー)」を起用した家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」のCM映像が公開され、CGを活用したゲーム的な演出や、SNS受けするであろう仕掛けが話題になりました。

 King Gnuのレーベルはソニー・ミュージックエンタテインメント、PS5はソニー・インタラクティブエンタテインメントの商品で、ソニーグループ内での企画というと「ありがち」に思えますが、実は他社が簡単に真似できないのではないでしょうか。世界的なヒット商品を保有し、かつ知名度あるタレントを抱えているという二つの条件を満たす必要があるからです。

 CM映像は、King Gnuのメンバーがアバターのような姿で登場して合体するという内容。映像を見れば、King GnuがCMの世界観にフィットしているなど、起用した狙いも伝わってきます。曲はもちろんKing Gnuの書き下ろしで、東京の原宿や渋谷での露出に加え、事前に公開した“におわせ”サイトもありました。映像の演出は凝っていて斬新ですが、露出先は王道で分かりやすさを優先したのもポイントでしょうか。

SIE提供
SIE提供

 タレントを起用する場合は、当たり前ですが社外から探すのが普通。ところがソニーグループは、多くのタレントを抱えているため、自前で用意できるのです。CMは商品だけでなく、起用されたタレントにかなりの注目が集まり話題になるもの。その話題性から得られるタレントのイメージアップの要素も「総取り」しているわけです。

 さらに言えば、PS5は欧米で圧倒的な人気があります。今回のキャンペーンは国内の施策ですが、海外との連動や、連携をより考えても良いわけです。そしてネットに配信する以上は、海外の目にも触れて話題になる可能性もあります。もちろん国内向けのプロモであれば、海外への波及効果はプラスアルファなのですが、そういう期待があること自体、デメリットはゼロです。

 そういえばPS5は昨年、ソニー・ミュージックのレーベルに所属する、アーティストの米津玄師さんを起用したCMをネットで先行配信しました。

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 ソニーグループは元々、各事業の独立色が強く、グループ内でビジネスがかぶることも気にしません。例えば、ゲーム事業があるにもかかわらず、音楽事業からゲームを発売した上に、任天堂向けのゲーム機にソフトを提供するケースもありました。普通はライバル企業への展開は、何かしらのNGが入るものなので、「変わっている」といえます。裏返して言えば、各事業部の自主的な判断が重んじられていたわけですが、意地悪に言えば、グループ間でイマイチ連携が取れていない一面がありました。

 ところが近年、ソニーグループはグループ内の連携を相当に意識した言動、行動が目立ちます。そして「スパイダーマン」や「グランツーリスモ」など、グループ内の有力コンテンツを活用し、多面的な展開をしているのもその一例です。

 ソニー・ミュージックのタレントと言えば、米津さんやNiziU(ニジュー)、宇多田ヒカルさん、YOASOBI(ヨアソビ)、坂道シリーズなど挙げていけばキリがありません。そして海外で人気のアニメの主題歌を担当するアーティストもいるわけで、そうであればなおさらPS5という欧米で人気の商品を活用しない手はありません。

 「ゲーム機の普及はソフト次第」というゲーム業界の有名な“格言”がありますが、その色合いが変化を見せているように思えます。

 今やPS5が欧州サッカーのチャンピオンズリーグでスポンサーをしているように、世界でのブランディングに気を使っています。その背景には、ゲームビジネスが、エンタメビジネスと消費者の“奪い合い”を繰り広げており、コンテンツの面白さは大前提にした上で、イメージ戦略がこれまで以上にモノをいう気配が出ています。

 電機大手だったソニーグループが、音楽事業から始まり、ゲーム事業、映画事業と手を広げ、さらにアニメ事業にも手を伸ばし、世界的なコンテンツ・メーカーになっています。それらを最大限に活用する一つの手法が、PS5とKing Gnuのコラボであり、さらにやれること、「手札」をまだ多く残している……と考えると、恐ろしいものを感じるのです。

King Gnuを起用したPS5のCM。「あーそびましょ。」の軽いキャッチフレーズとは対照的に、ビジネスでは恐ろしさを感じます
King Gnuを起用したPS5のCM。「あーそびましょ。」の軽いキャッチフレーズとは対照的に、ビジネスでは恐ろしさを感じます

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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